38話:無援の覇者
【輪廻遺跡ルエルナ・エ・ラ】――最深部、輪廻の祭壇。
「なんだそれは……どういうことだ」
カロンが俺を見て、ここに来て初めて焦っているように見えた。
「俺はさ、百人近い数の奴にずっと支援魔術を掛け続けた事があってさ。その間にそいつらが得た知識と経験は全て俺の物になったんだよ。分かるか? お前とは桁が違う。その程度で最強なんて名乗るんじゃねえよ」
そして俺も、あらゆるバフを自身に掛けて自分は最強だと思っていた。だけど、今は分かる。あれは……まやかしだ。
俺は自分に掛かっている全てのバフをとあるスキルを使って解除していた。それはいつの間にか俺の中に発現しており、気付いていたが、使う機会がなかったのでずっと使っていなかった。
そのスキルの名は――【無援の覇者】
効果は単純明快だ。
自身に掛かっているバフを解除する代わりに、短時間だが、自身を超強化するスキルだ。しかもその上昇量は支援魔術と比べて、ありえないほど多い。
しかもこれ、掛けているバフの数が多いほど、その効果が高いほど、強化されるのだ。
つまり……簡単に言えば、ありったけのバフを掛け、更に一騎当千のスキルで効果を二倍にした状態の俺よりも――短時間だが、数倍は強くなっていた。
だからこそ今度こそ、今度こそ確信する。
「悪いなカロン。俺が――最強だ」
「ありえん……ありえん!!――死ね!! 【デスサイズ】!!」
カロンが魔術を放つ。その自然な動きからして、カロン自身が培った魔術なのだろう。黒い大鎌が俺へと払われた。少しでも触れれば、死が待っているであろう凶悪な魔術だ。
だけど、遅い。蝶ですら、止まれそうなほどに遅い。
俺はゆっくりとカロンへと歩み寄る。剣の柄に嵌まっている黒い石を見て、おそらくこれがジルが言っていた【命の宝珠】だろうと推測。
俺は剣を使うまでもなく、拳でそれを叩き割ると、そのまま剣を一閃。
「え?」
カロンの顔が驚きの表情を浮かべながら、宙に舞う。
俺はそのまま、剣を斬り返して縦に振り下ろした。
真っ二つに裂けた、カロンの身体が左右へと倒れた。
「あっけないもんだな」
俺は足下に転がる砕けた【命の宝珠】へと銀滅を向け魔術を発動。
「――【ブラックパルス】」
黒い衝撃波によって【命の宝珠】は床ごと消滅。
塵すらも残っていないだろう。
俺は気配を感じ、通路の入口へと振り向く。
「かはっ……くそ、つえええな」
そこには満身創痍のベアトリクスが立っていた。
「主は……死んだか」
そして、悠然と歩いてくるのはラムザだった。傷一つ付いていないところを見ると、ベアトリクスにはまだ荷が重い相手だったかもしれない。
「【命の宝珠】も砕いた。それでもお前は止まらないんだな」
「一度動き始めたものは止まらない。命令も残ったままだ。さっさと死にたいと思ったが……お前と戦いたい欲が出てきた」
「ラムザ。俺の仕事はもう終わった。もっかいバフかけ直すのもめんどくさいしな」
既に、【無援の覇者】の効果は切れていた。もって一分ほどか。
人類最強も短い夢だったよ。
「――お前の相手は俺じゃねえ。ベアトリクス、そろそろもう良いんじゃないか? 十分だろ」
俺がそう言うと、ベアトリクスが笑った。
「ははは……いや、何、このクソ親父には本気の本気で殴ってやろうと思ってな。おかげで身体中が痛いわ手も動かないわで大変だ」
それでもラムザの前に立ち塞がるベアトリクスを憐れむ声をラムザが出した。
「ベアトリクス。そんな身体で、そんな腕前では、俺には勝てない。なぜ力もないのに、そんな武器を使う?」
「そもそもあたしの筋肉量からいえばよ。こんな重い武器は本当はあってないんだよ……。更に今、お前にボコボコにされたおかげで、身体も最低の状態だ。ああ、最高に不利な状況だよなあ」
「……今度は床を壊すなよ」
「分かってるよ、マスター」
ベアトリクスが笑っている。俺は念の為、動けるようにバフを何個か自分に掛けておく。
「ベアトリクス……どけ。今度こそ殺すぞ」
「やってみろよクソ親父。うちのマスターと戦いたいなら、まずはあたしを倒す事だな」
「……仕方ない」
ラムザが剣を構えた。
「もうお前の声も聞きたくねえよ――っ!!」
そして、ベアトリクスはバルディッシュを床に落とすと、両手の指を自らの両耳へと突っ込んだ。
引き抜いた手には血が付いている。
おそらく鼓膜を破ったのだろう。
「――天衣無縫」
そしてバルディッシュを拾いもせず、目を閉じた。
「……? 気でも狂ったか?」
ラムザが警戒する。
それはそうだろう。なんせ一見すれば、ベアトリクスは目を瞑って棒立ちしているだけにしか見えない。しかも耳まで自分で潰した。
だが、俺はあのスキルの力を知っている。
【天衣無縫】――それは自身を危機に追い込めば追い込むほど、次に放つ一撃の威力と範囲を拡大させるスキルだ。
カウンターにしか使えず、更に自身が危機でないと効果を発揮しないので使いにくいスキルだろう。なんせ、味方が近くで戦っているだけで、危機ではないと判断されるからな。
だからベアトリクスはあえて、使いづらい武器を使っている。そして耳を潰し、目を瞑り視界を遮断、武器を構えてすらいない。
更にここまでやられたせいで、身体のあちこちを負傷している。正直、気合いだけで立っている気配がある。
つまり今、ベアトリクスはギリギリの状態なのだ。
そして俺は戦う意志はないので、味方扱いではない。つまり簡潔にいうと、これ以上ないほどに……あのスキルの効果が高まっている。
「良いだろう。せめて、俺の最高の技で眠れ――【斬滅の銀光】」
ラムザが構えていた剣から、目に止まらぬ速度で接近。銀光を纏う剣がベアトリクスへと薙ぎ払われた。
その剣がベアトリクスの首へと触れた瞬間。
「今度こそ死ね――クソ親父!!」
開眼したベアトリクスが拳をラムザへと放った。
ベアトリクスの首へと刃がくい込むと同時に、ベアトリクスの拳から光が放たれる。
それはあらゆる物を破壊する死の光だ。
ベアトリクスを中心に、衝撃波が放たれ、あらゆる物を消滅させていく。それは俺へと迫るので、床を蹴って跳躍。
俺の下を破壊の嵐が通り過ぎていく。
俺が着地したと同時、床を蹴って倒れ込むベアトリクスを間一髪で抱き抱えた。
ベアトリクスの目の前にいたラムザは塵一つさえ残っていない。
「へへへ……こんどは……床は残しておいた……ぜ……」
そう俺に笑いかけると、ベアトリクスが気絶した。
「……良くやったよベアトリクス」
俺は回復魔術を掛けて、傷を治しておく。
「ふう、終わったな。あとは、地上に向かった奴らを殲滅するだけか」
俺はベアトリクスを抱えたまま、通路へと向かった。
こうして、【冥王】とカロンは、事実上、崩壊したのであった。
決着。
次話がエピローグです




