36話:死者の記憶、生者の経験
【輪廻遺跡ルエルナ・エ・ラ】――最深部、輪廻の祭壇。
「剣士も魔術師も暗殺者も誰も僕には勝てない!!」
カロンの声と共に、剣と剣がぶつかり合う音が響く。
線が細く、とても前衛職に見えないカロンだが、俺のわりと本気な剣による一撃を防いだ。更に速度を上げて打ち込むも、それも捌かれた。
「剣士に見えないのにやるな」
「それはお互い様ですよ」
カロンが斬り返してくるので、きっちり防御する。その剣圧は凄まじく、アスカに負けていない。
「遊びは終わりですよ――【アシッドクラウド】」
カロンが後退、立ち止まると、剣でこちらに魔術を放ち、白い霧が俺の視界を覆う。それは酸の雲であり、むやみに突っ込めば目や鼻だけではなく、吸いこんだ際に身体の中にダメージが入る嫌らしい魔術だ。
ついでに酸化防止の加工か魔術を装備に付与しないと、装備が腐食してボロボロになってしまう。
だが俺は気にせず突っ込む。そんな対策は当たり前に行っている。
「流石に対策しているようだね。じゃあこれは?――【カースフレイム】」
白い雲を抜けた俺を今度は黒い炎が襲う。おいおい、それ、魔術師の亜種系統である呪詛士の上級魔術だろ? なんで剣士であるこいつがそんなモノを使えるんだ?
俺は、聖職者のみが使える浄化の付与魔術を剣に掛け、黒い炎を切り払う。
「おや……あなた聖職者でしたか?」
カロンが驚いたような顔で突っ込んでくる俺を警戒する。
「なわけないだろ」
俺の剣がカロンの首を狙う。しかしカロンは俺と同じぐらいの反射速度でそれを首を振って躱し、ついでとばかりに剣によるカウンターを叩き込んでくる。
やっぱり近接戦闘の練度が異常に高い。おそらく身体能力だけで言えば俺の方が高いが、それを技術と経験でカバーしている。
だが、ありえない話だ。
剣士として一流になって、カースフレイムを扱えるほど魔術師として研鑽を積むなんて、あの若さでは不可能だ。
「どういうカラクリだ?」
「私を見た目で判断してはいけないということですよ」
カロンが軽快なステップで連撃を叩き込んでくる。その動きはさきほどまでと違い、まるで砂漠の民の舞踏剣士のような動きだ。
俺は冷静に【パリィ】で弾きつつ、避けるが、俺の服の端が剣圧だけで吹き飛ぶ。
なぜだろうか、妙な違和感を覚えてしまう。
カロンがバックステップし、また棒立ちになると、剣を俺に向け魔術を発動。今度はスタンダードな【サンダースピア】だ。発動が早くあっという間に俺へと雷槍が迫るが、俺は剣でそれを切断。
一瞬でカロンに肉薄すると、剣を突き出す。
「……おかしいですね。貴方、何者です?」
「それは俺のセリフだよ」
一瞬、反応が遅れたカロンがギリギリで俺の突きを躱す。
なんだろうね。この違和感。
「一体どういう手品を使えば、そこまで器用に色々使えるのでしょうね?」
カロンが笑いながら俺へと剣を払う。今度の動きを見る限り、騎士系の剣士のように見える。
そう。カロンは毎回、まるで別人のように動きを切り替えて襲ってくる。魔術を使う時は必ず後退して立ち止まって使うし、剣技も使う系統はバラバラだが、一つの系統を使っていると、他を使う様子はない。
まるで、その時その時で別人が乗り移っているかのようだ。
それに連携も出来ないようだ。舞踏剣士のステップで近付いてそのまま魔術を使えば脅威なのに使ってこない。
遊んでいると言えばそれまでだが……
「器用なのはそっちだろうが。【死操士】のスキルか?」
「中々賢いですね。その通りですよ。僕のスキル【死者の記憶、生者の経験】の力です」
「聞いた事ないな」
「僕しか持っていないでしょうからね!!」
カロンの柄から黒いモヤが発生し、カロンの剣を刃を覆った。
なんの付与魔術だ?
「これはですね……この付与魔術を掛けた剣で相手を殺すと……その知識と経験が奪えるんですよ」
「奪う?」
「ええ。そして奪った知識と経験は僕のスキルによって、あたかも僕の物のように扱えるのです。そして僕はこれを使ってこれまでどれだけの人間を殺してきたと思います?――五十四人です。つまり貴方は僕だけではなく54人の人間を相手にしているのと同義です」
……なるほどね。そういうスキルもあるのか。
世界はやはり広いなあ。
「五十四人ね……それは凄い。でも、それ五十四人と言っても……同時に使えるのは一人までだろ?」
まあそれでも十分強いんだけどね。遠近切り替えつつ襲ってくるのは単純に強いし、こちらが対策していない部分を見破られてしまうと、簡単にやられるだろう。
酸に毒、呪いに剣技、魔術。全てを防ぐのは基本的に無理であり、確かに厄介だ。
「でもよ、カロン。お前はやっぱり運が悪いな」
「……何のことです?」
「いや、俺もな、気付いたんだ。すげー強いスキルを手に入れてさ。俺ってすげえ最強じゃん! って思うけどさ。普通に考えれば、自分に起こる事は他者に起きるってことだよ」
「何が言いたいんですか?」
俺は、銀滅を構えた。さて、種も分かったところで、そろそろ終わりにしよう。
「何が言いたいかと言うと……たかが五十四人の知識や経験で粋がるなよってことさ。そして冥土の土産に知っとけ。そういうスキルを持っているのは……自分だけじゃないってことをな――【無援の覇者】」
俺はとあるスキルを使って、自分に掛けていたバフを全て――解除した。
アニマさん、ついに奥の手を。
次話でまた一旦第三者視点になります~




