34話:支援魔術全解放
「てめえが!! 父親づらすんじゃねえええ!!」
激昂するベアトリクスがバルディッシュを振り回す。しかし全てを紙一重で避けられるか、剣で軌道を逸らされてしまう。
凄い。あれが……最強のギルドマスターとして名高い、銀滅のラムザか。
「お前のせいで母さんはなああ!!」
「……ああ、ビクトリアは元気かい?」
「その名前を口にするなあああ!!」
俺は二人の戦闘を見ながら、ありったけの支援魔術を自身へと掛けていく。
筋力、瞬発力――超向上
体力、持久力――超向上
敏捷性――超向上
魔力、魔力生成量――超向上
あらゆる属性や物理的攻撃への耐性を付与し、矢避けの加護も付ける。
そして【一騎当千】のスキルによって、全てのバフの効果が二倍、効果時間も二倍となった。
「――なんだお前は。なんだその力は……本当に……人間か?」
ラムザが俺を見て、目を細めた。流石英雄さん、分かってるじゃないか。
「お前の相手はあたしだああああ!!」
ベアトリクスがバルディッシュをラムザへと叩き付けるが――
「黙れ、ベアトリクス」
雰囲気の変わったラムザが素手でベアトリクスのバルディッシュを止めると、雑に剣を払った。
たったそれだけで……ベアトリクスの来ていた胸甲が歪み、彼女の身体が吹き飛ぶ。
「お前は……危険だ。我が主の下に行かせるわけにはいかない」
ラムザがそう言って、俺へと向かってくる。
やれやれ……お前の相手は俺じゃないだろうが。
「悪いが、俺は奥の奴に用があってな。あんたと遊んでる暇はないんだわ」
「……行かせるとでも?」
「俺は、未婚だから分からないけどよ、これだけは知っているぜ?――女は怒らせると怖いってな」
俺がそう言った途端に、起きあがったベアトリクスが突っ込んでくる。その顔は怒りに染まっている。
「クソ親父があああああ!!」
ベアトリクスがバルディッシュを勢いよく薙ぎ払う。いや、その軌道に俺も入っているんだが。ラムザが即座に剣でそれを止めようと動き、俺はその隙にラムザの横を通り過ぎる。
「娘と、仲良くな。あと剣、借りてるぜ」
俺はそう言って、地面を軽く蹴った。それだけ、景色が歪むほどの速度が出て、一瞬で俺は広間から奥へと繋がる通路を通過。
ラムザもベアトリクスも遙か後ろだ。
通路の先にはこれまた広い空間が広がっていた。
上を見れば天井が崩れており、そこにはあの静かの海があった。淡い光がその空間の中央を差し込んでいる。そこには歪な台座があり、その前に銀髪の男が立っていた。
男が俺の気配に気付き、振り向く。
「誰ですか?」
「あー俺はアニマ。【銀の月】っていうギルドのギルドマスターだ。そっちは【冥王】のカロンだろ? 自己紹介はいらねえよ」
俺はそう言って銀滅をカロンへと向けた。
「銀の月……ああ、なるほど。ラムザの剣の持ち主ですか。こんなところまでわざわざ返しに来るとは」
「俺は義理堅くてな。ああ、そうだ。そういやあんたの部下に拠点襲われたんだよ」
「失敗したようですね。やれやれ……最近の冒険者も暗殺者も質が落ちている」
嘆くように言うカロンに、焦っている様子はない。
「お前の計画は全て把握している。【冥兵】も地上に向かっているようだが、日の目を見る事はねえよ」
「計画……? おいおい、勘弁してくれ……計画だと? まさかこの僕が……計画を練ってそれを実行しているとでも思ったのですか」
「冥王を復活させて王都襲撃。それが計画だろ」
「それに何の意味があるのです?」
へ?
「確かに、僕は冥王を復活させた。王都も襲撃させようと動かした。人間も冒険者も何もかも死ねばと良いと思っています。だけどね、これは決して計画なんてもんじゃない」
「じゃあなんだよ」
「ただの……遊びですよ」
俺が怪訝そうな顔をすると、カロンが腹が抱えて笑い始めた。
「アハハハハハ!! 傑作だよ!! まるで僕が悪の親玉で君がそれを倒す正義の味方みたいじゃないか!! 僕はただ、ラムザに会いたかっただけだよ!! あとは全部オマケだ、些末な事だ! 王都が滅ぼうが、【冥兵】が死のうがどうでもいいんだよ!!」
狂ってやがる。俺には理解できない。
カロンがどういう感情をあのラムザに抱いているかは知らんが、復活させるまでは分かる。だけど、それ以上は分からない。
「ラムザはね! 戦っている時が一番かっこいいんだ!! だから最高の相手を用意しないといけない!! だったら全冒険者にケンカを売るのが一番だろ!? だから復活させた! だから王都を襲わせたのさ!! それ以上でもそれ以下でもない!!」
「ただの思い付きかよ。なるほど、計画ですらないのは分かった。それにお前をぶっ倒す理由はもう十分あるんだ。今さら、正義の為とか人類の為とか言われなくて安心したよ」
「心配しなくても、君に僕は殺せないですよ。僕はもう死を超越したんだ」
カロンがそう言って黒い石が嵌まった剣を掲げた。その石からは怪しい光が放たれている。
「じゃあ、ギルドマスターとして、仕事しますか」
俺は銀滅を構えて、地面を蹴った。
こうして、【銀の月】と【冥王】の激突が各所で始まったのだった。
アニマさん本気モード。ただし奥の手はどうもまだ残しているっぽいですね




