33話:再会
「始まったな」
「どうする? カロンはどうやらラムザは動かさないつもりのようだぞ」
ルエルナの最深部まで潜入した俺とベアトリクス、そしてジルは、崩れた柱の影に隠れながら、動き出す【冥兵】達の進軍を見守っていた。
カロンらしき男と赤髪の男――ベアトリクスの反応から見てあれがラムザ、が何やら広間の奥に立っている。広間にいた【冥兵】達の数はほとんどが地上に向かったのか、かなり減ってきていた。
「早く突っ込もうぜ!! あの面を見るだけで苛立ってくる!」
「落ち着けベアトリクス。万が一カロンに逃げられたら厄介だろ? もう少し見定めよう」
「……マスター、頼みがある」
「なんだ」
「――ラムザはあたしにやらせてくれ。世間があいつの事をどう言おうがな、あいつは母とあたしを不幸にした。だから、あたしがあいつに引導を渡してやる。手出しも無用だ」
「手出しするつもりもないさ。言っただろ、うちのギルドは味方だろうがなんだろうが気遣いは不要だ。好きに暴れろ。ただ、今飛び出すのはやめとけ」
「分かってるさ。分かってる……」
俺は、ベアトリクスの肩にポンと手を置いた。事情は分からんが、ラムザはベアトリクスに任せようと思う。
「なあ、アニマ。地上に向かう【冥兵】についてだが、ある程度の数はダンジョン内で、俺達【渡し人】の手で減らす事は出来るが……本当に大丈夫なのか?」
「心配すんな。今頃、ギルド庁も動いて、包囲しているだろうさ。それに俺のギルドメンバーも駆けつけているだろうし」
「ふむ……まああんたがそう言うならそうなのだろうな。言っとくが、俺は大して戦力にならん。期待はするな」
「ああ。ジル、あんたは隠れて、万が一カロンが逃げた場合に追跡してほしい。下手したら巻き込まれるかもしれないからな」
「分かった。努力しよう」
と、まあ作戦もクソもない感じで、事が進んでいるが……。正直不安も恐怖もある。
だけど、もうここまで来たら、躊躇っている暇はない。別に王都を守ろうなんていう正義感もないし、あのカロンって男にもラムザにも恨みも何もない。
だが、うちのギルドメンバーが関わっている以上は、放っておけない。
「旧冥王を倒して、【銀の月】の伝説の1ページにしてやるさ」
カロンも運のない男だ。
なんて思っているうちに、広間の奥へとカロンとラムザが引っ込んでいく。
「マスター、あいつら行っちまうぞ」
「あの奥は、行き止まりなんだろジル」
「ああ。輪廻の祭壇と呼ばれる場所だ。逃げ場はない」
「だとよ。うっし、そろそろ行くか」
俺はそう言って、銀のロングソードを構えた。広間の【冥兵】もほとんどいなくなったしな。
「では、俺は奴が逃げ出さないか見張っておく」
「任せたぜ」
俺とベアトリクスが同時に柱の陰から飛び出した。
さあ、戦闘開始だ。
☆☆☆
「スキルを使うまでもないな!!」
ベアトリクスが襲ってくる【冥兵】へとバルディッシュを薙ぎ払う。俺はその後ろを悠々と歩くだけだが、常に警戒をしておく。どこから何が来るか分からないからな。
ベアトリクスのバルディッシュによって胴体が真っ二つになってなお襲いかかってくる【冥兵】に俺はトドメとばかりに【ファイアー・ボール】の魔術で焼き切る。
「トドメは任せたぜ!」
「へいへい」
暴れ回るベアトリクスを止められる者は少ない。高階梯クラスの前衛職なら、あるいは、といった感じだが、そもそもダンジョンで死んでいる時点で、【冥兵】の素体となっている冒険者の強さはたかが知れている。
だから厄介だとすれば【冥兵】の一部に交じっている、明らかに異彩な雰囲気を放っている奴だ。
例えば――
「っ!! 危ねえ!!」
首がない、騎士が大剣を振り回している。その動きも洗練されており、元は高階梯の剣士だった事が良く分かる。
ベアトリクスは技術よりも力で武器を振り回している感じであり、格上には通用しない。
「ぐぬぬ……強いな」
ベアトリクスが後退してきた。
「交代するか?」
「まさか!」
うおおお!! と気合いを入れ直してベアトリクスが向かっていく。
俺はそんなベアトリクスを見ながら、少し憐れんでしまった。厄介なスキルを持っているが故に、自らに沢山、枷を嵌めているのだ。
きっとそれがなければもっと強い、仲間とも連携の取れる戦士になれただろうに。
「だけど……今の彼女だからこそ、辿り着ける強さもある」
何合か打ち合った後に、ベアトリクスの渾身の薙ぎ払いが首無し騎士に命中。轟音を鳴らしながら吹っ飛ぶ騎士へと俺はトドメの雷属性魔術を叩き込む。鎧が熱を帯び、中の身体が炎上。
「あー! トドメさすなよ!! あいつはあたしが倒そうと思ったのに!!」
「ベアトリクス。お前の敵はそいつじゃないだろ。ほら――」
俺はそう言って銀滅を広間から奥の祭壇へと続く通路の前に立つ男へと向けた。
「……侵入者は殺す」
赤髪に、銀鎧。手には俺の銀滅とよく似たデザインのロングソード。
「……任せたぞ、ベアトリクス」
「ああ……アアアアアア!! ラムザァアアアアア!!」
ベアトリクスが怒号を発し、地面を蹴って加速。尋常でない速度を乗せたバルディッシュによる一撃がラムザへと叩き込まれる。
「――ベアトリクスか。大きくなったな」
しかしラムザは平然とそれを剣一本で受け流し、更にベアトリクスへと笑いかけたのだった。
冥兵達には、基本的に意識や記憶がありますがあるだけでそれに沿った行動ができるわけではありません。ラムザや一部の強者は魂の強度が高い為、条件反射で受け答え程度ならできます。このラムザ自体はベアトリクスを娘と認識していません。いっそ記憶もなかった方がどれだけ良かったことか……




