31話:命の宝珠
「なぜ、その名を」
ジルが驚いたような顔をする。どうやらやはり当たっていたようだ。
武器に宿る魂を使い、死者を復活させる。そんな禁術がもしあるとすれば、そうそう使い手なんていないだろう。
「奴は……元々【渡し人】だった。七年前に、ここがとある冒険者達に見付かってしまった。だが、彼らは気の良い奴らでな。我らを恐れることも蔑むこともなく、接してくれた。そして彼らが深層に行くというので、一人の男が案内を買ってでた」
「……旧【冥王】と……カロンの話か」
「ああ。そして彼らは、深層でとある物を見いだしてしまった。決して、人が使ってはいけない力だ」
そこまで言って、ジルが口をつぐんだ。察するに、魂を呼び戻す禁術か何かだろうか?
「【渡し】の間でも禁忌と言われる、魂の隷属。そしてそれを可能とする【命の宝珠】がラムザ達によって発見され、そして内部分裂が起きたそうだ」
ジルが語るのは、【冥王】が崩壊した際の真実だ。
「魂の隷属は人類の希望だと話すカロンを筆頭に数人が寝返ったそうだ。そうして彼らは殺し合い……全員が果てた。だが、カロンだけはすでに魂の隷属、そして【命の宝珠】の使っていたのだ。奴は密かに自分の記憶と知識をつまり、魂を予め用意した死体に移して、逃がしていた」
俺は、狼亭を襲撃した影達を思い出した。あいつらもなんかそんな感じだったな。
「だが、カロンも逃げ切れなかった。奴はもまた深層から一人逃げるので精一杯だったようで、【命の宝珠】を置いてきてしまった。地上に戻った奴は、地下に潜伏し、力を蓄えた……いつか再び【命の宝珠】を手に入れる為に」
「……で、二年前に【命の宝珠】を取り戻したと」
「その通りだ。そして次々と仲間を増やし、更に【命の宝珠】の力でああして次々と冒険者を復活させている……救いがあるとすれば……【命の宝珠】は少なくとも、このルエルナよりも地下でないと上手く機能しない点だな。おかげで、奴は拠点をここに作らざるを得ず、すぐに地上への侵攻が出来ないようだ」
地上への侵攻? 聞き捨てならない言葉だな。
「……つーかさ、なんでお前、そんなに知っているんだ」
ベアトリクスがジルを睨む。
「そう思うのも無理はないな。俺も、他の【渡し人】かつて、奴に魅せられた大馬鹿物の一人でな。奴の計画に賛同していた。だが……家族を奪われ、そして言いように使われはじめたのを見て、俺と、同志達は寝返った」
「家族……か」
テトの家族もいるのかもしれないな。パパとやらは十中八九、カロンかその手先だろう。
「奴は、かつての【冥王】を復活させようとしている。そして【冥兵】と共に王都を攻める気だ」
「……無謀だと思うけどな。ダンジョンの入口は厳重に管理されている。あんな怪しい集団が来たところで、封鎖されたら終わりだ」
ダンジョンは危険と隣り合わせなのだ。そんなものを雑に王都のど真ん中に置いておくほど王国の連中は脳天気ではない。
「……最近、地上へと繋がる別ルートが見付かった」
「なんだと!?」
「知っているのは、我々【渡し人】と……奴だけだ」
「……それはまずいな」
奇襲に近い攻撃でそんな事をされれば、少なからず王都に被害は出るだろう。地上に出てからは、他の闇ギルドも動くだろうしな。
「俺は……決めかねていた。このまま王都が襲撃されるのを見過ごすか、それとも……」
思ったよりも話が大事になりつつある。俺だけでは判断しかねるが……。
「時間はどれぐらいある?」
「……分からない。今日かもしれないし、一年後かもしれない。だが……【銀滅のラムザ】の鎧が運び込まれたのを見た同志がいる」
「……親父か」
ベアトリクスがポツリと呟いた。
「ラムザが復活すれば……【冥王】は長い眠りから覚めたという事になる。すぐにでも襲撃を開始するだろう」
一旦、地上に戻るべきか。その時間があるかどうかも分からない。
「マスター、何を迷っているんだ?」
ベアトリクスがそんな事を言いだした。
「迷う暇はねえぞ。あのクソ親父が復活するって話なら、もっかい冥府に叩き落としてやるだけだ。そのカロンとかいう男と共にな」
「お前、簡単に言うけどな……地上侵攻もあるし、そもそも俺らだけでどうにかなる話じゃな――」
「おいおいおい……何を言い出すんだよ、マスター。あんだけ最高だの最強だの話していたあんたのギルドの看板は嘘なのか?」
ベアトリクスがバルディッシュの柄を床へと叩き付けた。
「かつての英雄だの、命の宝珠だの、知るかよ。マスターのギルドは最高最強なんだろ? だったらぶっ潰せばいいだけだ。地上侵攻? だったら上に残ってるメンバーにそいつらをボコらせれば良いだけだろ。何も難しくねえ!」
「ははっ……流石は英雄の娘だ。かっこいいよベアトリクス」
「おい、あたしは真剣だぞ」
「分かってるよ。すまん、ちょっとビビってた」
俺は自分で自分の頬を叩く。
そうだった。そもそも迷う余地なんてない。冥王もカロンもぶっ潰す。そう決めたんだろ。
「ジル、地上には俺の仲間もいるし、ギルド庁にも知り合いがいる。誰か使いを地上へ送れないか」
「可能だ。我々にしか使えないルートだが」
「だったら、俺が手紙を書くから、それを俺の言う所に届けてくれ。ついでにその別ルートやらも教えろ。あんたらだけの秘密かもしれないが、こうなった以上はどうせ見付かる」
「……カロンを倒すのか? 倒せるのか?」
ジルがそんな事を言いだした。
だから、俺は不敵に笑ってそれに、こう答えた。
「俺のギルド【銀の月】はな、最高最強のギルド。そしてそのギルドマスターである俺も勿論――最強だ」
冥王とケンカ開始じゃああ!!
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