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27話:天衣無縫のトラブルメイカー

 

 王都地下ダンジョン11F――【暗落街】、上部。


 暗く、左右にボロボロ廃屋が並ぶ通路にベアトリクスの言葉が響く。


「あーかったりいなあ。なんであんたと二人でダンジョンに潜らにゃならんのだ」

「ぐだぐだ文句言うな。ほら、ダンジョンピープルの群れが来たぞ」


 俺がそう言って、前方を指差した。ダンジョンの10F~15Fは【暗落街】と呼ばれる地帯で、巨大な縦穴に複雑な構造をした巨大な街が浮かんでいる。左右の崖から無数の梁が突き出ており、その上に板を張って街や建造物の土台としている為、まるで浮かんでいるように見えるのだ。


 街と言っても廃墟であり危険な場所だ。暗く、視界が悪い上に足場は不安定で、一歩踏み外せば奈落の底に真っ逆さまだ。更にそこで狩りをすることに特化した魔物や亜人達が行く手を阻む。


 特に、ダンジョンピープルと呼ばれる亜人種は知能も高く危険な存在だ。ゴブリンに似ているが、手足が長く、肌が病的に白い上に目が異様に大きい。冒険者の武器を奪って使う程度の知能があるため、油断すると四方八方から矢を射られる事もある。


 どうやら前から来ているダンジョンピープルの群れは遠距離武器は持っていないようだ。手にはボロボロの剣や槍があるので油断はできない。


 が、俺は正直全く心配をしていなかった。ここまでの道中で、ベアトリクスの実力は十二分に分かったからだ。そしてなぜ彼女が他のギルドからすぐに追放されるかも。


「またあたし一人でかよ」

「俺がいると邪魔だろ?」

「まあな! うっしゃあいくぜええ!!」


 ベアトリクスがバルディッシュを後ろに引いて、腰だめに構える。


「ケキャキャキャ!!」


 ダンジョンピープルが一人で戦おうとするベアトリクスを嘲笑う。彼らが長い手足を使って器用に通路の上に無数に走る梁を伝って、向かってくる。


「――【天衣無縫】」


 あんなに騒がしく、がさつだったベアトリクスの気配が変わる。スッと目を閉じたベアトリクスの横顔は、認めるのが悔しいが、美しい。


 俺は急いで距離を取る。流石の俺も巻き込まれたくはないし、何より、俺自身が彼女の()()()()()()になってしまう。


 その立ち姿には凪、という言葉が似合う。周囲の音が一切なくなり、静寂が辺りを支配する。だが、それは……嵐の前の静けさに過ぎない。


 ダンジョンピープル達は警戒すらせずに、ベアトリクスへと接近。


 しかし、ベアトリクスは動かない。


 槍による刺突が迫る。


 それでもベアトリクスは動かない。


 穂先がベアトリクスの身体へと触れた瞬間――ベアトリクスがバルディッシュを振り抜いた。


四天(してん)……嵐骸(らんがい)!!」


 轟音と共に嵐が巻き起こる。彼女の周囲にいたダンジョンピープルは為す術なくその斬撃吹き荒れる嵐に切り刻まれ、血風が舞う。


 そして――風が止んだ。


「かはは、やりすぎちまったか?」


 彼女の周囲には破壊しか残っていなかった。周囲の廃屋は吹き飛び、床もボロボロになっている


「通路は壊さないようにって言ったろ」

「悪ぃ悪ぃ、ちと本気を出しすぎちまった。ここに来るのは初めてだが、こんな簡単に壊れるとは思わな――おろ?」


 ベアトリクスが何かの違和感に首を傾げた途端、彼女が立っていた軋む床板が――抜けた。


「ぎゃああああ!! 落ちるううううう!!」

「馬鹿野郎!!――【インスタントオール】!!」


 俺は反射的に身体能力を向上させるバフを使い、勢いよく地面を蹴ってベアトリクスへと手を伸ばすが……一歩届かない。


 ベアトリクスが目の前で奈落へと落ちていく。


「……あっやべ」


 そして俺は気付く。普段と違い、加減せず全力で地面を蹴ったせいで、ただでさえベアトリクスの一撃でボロボロになっていた通路が――今度は完全に崩れたのだった。



☆☆☆



 瓦礫と共に闇の中を落ちていく。下には、悲鳴を上げるベアトリクスが見える。


 俺は近くにある瓦礫を蹴って加速。


「なんであんたまで落ちてるんだよおお!!」


 落ちながら叫ぶという器用な事をするベアトリクスに俺は接近すると、抱き抱えた。


「ば、馬鹿! どこ触ってやがる!」

「触ってねえよ! 良いから暴れるな!」


 頭から落ちているせいで、下がよく見えた。暗闇しかないが、遙か下が、ぼんやりと光っているのが分かる。


「やっぱり、繋がっていたか」

「どこにだよ!!」

()()()()()。まあ問題は……着地をどうするかだが……」


 そう。ダンジョンの構造的に、【暗落街】の下は【眠りの揺り籠】のはずなのだ。


 なので【暗落街】から落ちれば、ショートカットになるのだが……。


「ぎゃあああ激突するうううう助けてえええええ」


 泣き叫ぶベアトリクスの声と共に下のぼんやりとした光の正体が見えはじめた。


 それは淡い光を放ち揺蕩う――()()()()


また作中でも説明出てきますが、ベアトリクスちゃんはカウンター特化みたいな感じです。更に、自分にとって不利な状況であればあるほど、カウンターの威力が上がるので、周りに戦う意志がある味方がいると威力が激減します。


スキルを使わなくても、ある程度は戦えますが……武器もあえて扱いづらい物を選んでいるのでめちゃくちゃ強いわけではありません。

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ハイファン新作です! 冒険者のパーティに潜入してランクを決める潜入調査官のお話です!たっぷりざまあがあるので、お楽しみください!

冒険者嫌いのS級潜入調査官 ~冴えないおっさんなんて要らねえんだよ、と追放されたので査定は終了だ。ん? 元Sランク冒険者でギルド側の人間だって知らなかった? 今さら遅え、Eランクからやり直しな~



興味ある方は是非読んでみてください
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