25話:銀滅
翌日。
朝、俺はカウンターでレガートが入れてくれた紅茶を飲みながら、今後について話し合っていた。シエラは昨晩飲み過ぎたのか、まだ寝ている。
「まずは、情報収集ですな。昨晩私が言った事はあくまで推測であり、最悪の事態を想定した際の話です」
「だな。必要なのは、カロンの居場所と、そのもったいぶった――とある場所――とやらを確定させるところか」
「確度の低い情報は、ノイズになりかねませんからね。それの調査も含め、いくつか良さそうな依頼を見付けておきました」
そう言って、レガートが数枚の依頼書を俺の前に置いた。流石、用意がいいね。
「全部、中層か」
見ればそれらの依頼は、ダンジョンの中層での依頼だった。なるほどね、まあそうだろうと思ってたはいたよ。
「ええ。予想されていたと思いますが……【眠りの揺り籠】が有力候補地です。そして【冥王】の本拠地もダンジョン内……おそらくこれも【眠りの揺り籠】付近でしょうな」
ダンジョンは、上層、中層、深層と大まかに三つに分けられる。そしてそれぞれの層にも、細かい分類があって地帯と呼ばれ、名前がついている。
例えば、最も浅い部分であるダンジョン入口から5Fまでは【始まりの洞窟】、5Fから10Fは【捕食者の調理場】と呼ばれ、それぞれの地帯に生息する魔物やトラップも違う。
そして【眠りの揺り籠】といえば、15F~20Fに広がる巨大地帯であり、中堅冒険者達の行く手を阻む難所としても有名だ。
「……噂に聞いた事があるよ。今は亡き者の魂に会える場所が【眠りの揺り籠】のどこかにあるって。俺は信じていなかったが」
「ええ。私も一度だけ遠目に目撃した事があるのですが……そうですね、あの世とはおそらくああいう場所なんだろうという気がしました。とてもじゃないですが、近付きたいと思いません」
「あんたですらそうなのか。嫌だなあ……俺、あそこ苦手なんだよなあ」
「ふふふ……マスターなら大丈夫でしょう。それにアンデッド系に、その剣はすこぶる相性が良い」
俺は腰に差している銀のロングソードの柄に触れた。銀は、アンデッドに対して特攻があるという。
「ああ、そういや昨日聞きそびれたな。この剣は、旧【冥王】の誰の武器だったんだ?」
「……【銀滅のラムザ】という名前を知りませんか?」
「……作り話だろ」
【銀滅のラムザ】――もちろんその名を俺は知っていた。それはこの王都の酒場で話される、噂話みたいなものだ。かつて王都にいた【銀滅七刃】と呼ばれる七人の英雄の話で、ラムザはそのリーダー的な存在だった。その剣技に並ぶ者はなく、そしてその魔術の前に立って、生き延びた者はいない、と言われている。
要するに、魔法剣士と呼ばれる職種なのだろうが、この王都ですら、ほとんどいない。魔術も剣技も極めきるのには生涯をかけても足りないのだ。それを両方とも極めるなど、無理に決まっている。
「だいぶ誇張されていますが、あの話のモデルとなっているのは【冥王】なのですよ。ギルドマスターであるラムザとその盟友である6人のメンバー。ええ、その中に私も入っています」
「あっ! もしかして【闇縫いレガルト】って」
【闇縫いレガルト】は、【銀滅七刃】の一人で、暗殺者だ。確か、暗器の名手だったはずだが……。
「……私ですね」
レガートが恥ずかしそうに笑った。
「じゃあ唯一の獣人である【蒼雷のラーク】は……」
「シエラの父である、ラルクの事です。まあ、あの話とはかなり違いますが……」
まじかよ、まさか実在していたとはな!! やべえちょっと興奮してる俺がいる。
「……その剣は、ラムザの物ですよ。もっともラムザは飽き性なので武器を良く変えていましたが。ですが、おそらく一番使ったのが、その剣でしょう。なんせ、彼の二つ名はその剣の銘から来ているのですから」
「つまり、この剣は――」
「ええ、【銀滅】という名前の剣です。魔術の触媒としても、剣としても、これ以上の物はないでしょう」
「なんでそんなもんがあんな依頼の報酬に」
「……それについては……本人から聞いた方が早いかと」
「へ?」
俺が怪訝そうな顔を浮かべたと同時に、狼亭の扉が開いた。
「わっかりづれえ場所だな! 死ぬほど迷ったぞ!」
入って来たのは、背の高い少女だった。俺と違って燃えるような真っ赤な髪をバレッタで後頭部にまとめており、その下の勝ち気そうな蒼い瞳が印象的だ。化粧っ気がないが、間違いなく美人の類いだろう。
胸や足といった最低限の部分のみ金属製で朱の模様が入った鎧を纏っている。
何より、その背にある武器が印象的だった。長い柄の先は十字架のようになっており、先端は槍のように鋭くなっている。そして横に短く伸びた柄の先には分厚い刃がついていた。
クレセントアックス……いや刃が三日月ではなく、もっと長く分厚いから、バルディッシュと呼ぶ方が正しいか。
そんな物騒な武器を背負った少女がズカズカと遠慮なく入ってくる。
「ええっと?」
俺がわけも分からずもレガートに目線を向けると、レガートが笑った。
「彼女が、マスターが探している依頼主であるベアトリクスです。いえ、こう言った方が早いでしょうな、彼女は――ラムザの娘、だと」
新しいヒロインが来たゾオオオ
というわけでぼちぼち、ダンジョンそして山場が迫っていますね。ギルドメンバーが大暴れするのでお楽しみに!




