24話:ファイブデビル・スマイルズ
「復活?」
いや、言葉の意味は分かるが……。
「……【冥王】――いえ、ここでは旧【冥王】と呼称しましょうか――はとある男の裏切りによってダンジョン内で崩壊し、中心メンバーも全滅。残った者はほとんどいません。私はたまたまその時、別行動していたので、死を免れたのです。そこからは話が長くなるので割愛しますが、大怪我をした私は隣国に身を潜めました。ほとぼりが冷めるまで……」
Sランクギルドを崩壊させ、そして引退してなお、確かな実力者であるレガートに深手を負わす存在。にわかに信じがたい事実だ。
「僕は、わけが分からなかったからね。ギルドは崩壊、見知らぬ連中がギルドを乗っ取って、僕は殺されそうになったから逃げたのさ。それからは、彼らの目に付かないようにこの王都の闇の底で暮らしていたんだ。レガートも当然死んでいると思っていたさ」
「私は……どうすればいいか分かりませんでした。全てを一度に失いすぎたのです。そして恥ずかしながらシエラ嬢について考えが及ぶまで随分と時間が掛かりました。密かに何度も王都に戻り、必死に捜索しましたが……見付かりませんでした」
「僕は隠れていたからね。自分を探す存在がいれば敵だと認識していた」
二人が今日再会出来たのは偶然なのだろうか。分からない。それでも、シエラの嬉しそうな顔を見る限り、良かったと思う。
「私は、生活拠点を隣国に移していました。ですが、ある日、ある男が私の下を訪れたのです」
「アンダンテか」
「ええ。彼は……とても優秀ですね。まさか私の正体と居場所をたかがギルド庁の職員に知られてしまうとは思いませんでした。そして彼の口から、聞かされたのです。【冥王】が再び動き出すと、カロンが……戻って来たと」
カロンという名前を聞いて、シエラが震えた。
「私は、迷いました。もう引退した身です。のんびり庭いじりして暮らそうと考えていました。ですが……私はまだあの時の事件を自分の中で清算出来ていない事に気付いたのです。なので、こうして王都に戻って来たのです。そして、驚きました。アンダンテから、【冥王】の調査に協力してくれる闇ギルドがあると教えられ、そしてその拠点がまさかのここだったからです」
レガートはそこで、一旦口を閉じ、細葉巻を吸い始めた。紫煙が揺れ、甘い香りが漂う
運命……なんだろうな。ここを守り続けたシエラの粘りが二人を引き合わせた。
「話を戻しましょう――かつてあったSランクギルド、つまり旧【冥王】は、私を除き全滅。ですが……人は死に、骨になれど、武具は残りました。あるものは死体漁りに拾われ、あるものは隣国に売られ……様々な運命を辿ったでしょう。その剣がマスターの手にあるのも、何やら運命めいたものを私は感じますね」
レガートが俺の剣を見て、微笑んだ。その言葉に、シエラがハッと何かに気付いたような顔をした。
「使い込まれた武器には、魂が宿ると言います。もちろん、それぐらい武具は大事に扱えという教訓めいた言葉なのですが……とある場所では、それが真実となる。そしてそれを利用して……全滅し、この世から去った、かつての英雄を文字通りもう一度この世に復活させる。それがカロンの、【冥王】の狙いでしょう。あの男にはそれが出来る力がある」
話がデカくなってきたな。とりあえずまとめてみよう。
「つまりだ。【冥王の徴】を集めてる理由は、それに宿るかつての使い主の魂を使って本人を復活させる為。そしてかつての旧【冥王】を再び結成する……ってことだな」
「そうです。そしてそれはおそらく、昔のままではなく、歪な怪物として生まれるでしょう。カロンがそれを平和的な事に使うとは思えません。私は……個人的な動機になりますが、それを断固として阻止したいと思っております。そして盟友の仇であるカロンをこの手で……始末しないといけない。それが唯一生き残った私の役割でしょう」
レガートがそう言い切って、口を閉ざした、その青い瞳には、静かな怒りが宿っている。
さて、まずは確かめないといけない事がある。
「アスカ。お前の兄が確か【冥王】と関わっていたな」
「そうだよ師匠。二年前に【冥王】の者と一緒に深層に潜ってそれっきりだ」
「カロンが戻って来たのが、おそらく二年前だ。偶然だと思うか?」
「そんなわけないだろうな。おそらく兄の死にそのカロンとやらが関わっている」
俺は真剣な表情で話を聞いていたテトに顔を向けた。
「テト。パパと呼んでいる人がいるな? その人が【冥王】の関係者……つまり敵になる可能性がある」
「パパがテトの味方だったことは……一回もないんだよ、お兄ちゃん。だからテトは……気にしない」
テトが力強く、そう言い切った。
俺は最後に、隣に座るシエラの細い肩に手を置いた。
「なあ、シエラ」
「なんだいアニマ」
「父親に会いたいか? その話が真実であれば、親父が戻ってくるんだぜ」
どう動くかはすでに俺の中で決まっていたが、意志は確認しておきたかった。
「――まさか。父は英雄として立派に戦い死んだ、と僕は思っている。だから、例えどんな形で戻ってこようが、それは偽物だ、まがい物だ。ぶっ殺していい、ぶっ壊していい」
シエラが笑う。その微笑みに嘘も虚勢もない。
「なら決まりだな。まず、俺はレガートをこのギルドに迎え入れたいと思う。もちろん、協力関係が終わるまでだが」
俺が全員へと視線を送る。
反論はなさそうだ。
「ならば、新しいメンバーを迎え入れたギルド【銀の月】の第一目標が決まった」
「ほお、それはなんだい? 聞かせてくれ、ギルドマスター」
シエラが悪い笑みを浮かべ、そう聞いてきた。いやシエラだけではない。アスカもテトも、そしてレガートも邪悪な笑みを浮かべている。
そして当然俺も、同じような表情を浮かべ、こう宣言した。
「【冥王】及び、カロンを――殲滅する。うちのギルドに手を出したことをたっぷりと後悔させてやろう」
五人目のメンバーが加入しました。そして【銀の月】がいよいよ動き始めます
次話で新ヒロイン登場……? デュエルスタンバイ!
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