22話:影を斬るは執事か悪魔か
ブリオがあっけなく殺された。
俺は、それに怒りとも悲しみともつかないなんとも言えない感情を抱いていた。
どこで間違えた。
だけど、それに答えがないなんて分かっていた。
「とりあえず、お前らは容赦なくぶっ殺す」
俺は、目の前に迫る二つの影が操るナイフを銀のロングソードで弾く。かなり動きが速いし、的確にこちらの急所を狙っている。
暗殺者の類いなのか、動きが尋常ではない。
「けど、やっぱり遅いな」
俺は剣を返し、二つの影を切断。一撃で殺す事を考えているのか、避けられたり、防がれたりした時の動きが悪い。
頭上に迫る影へと剣を払い、俺は前進。まるで重力を感じさせないような動きで左右の壁を使って前後左右から影が襲ってくる。
俺はアスカが使っていたあの技を見様見真似で放つ。一閃で、複数の斬撃が俺の周囲を襲い、血しぶきが舞う。
「……強い」
恐れをなしたのか影達が引いていく。おいおい、まだ小手調べだろ?
「私が出る」
そう言って一人の影が出てきた。黒いローブを着た、ブリオにトドメを刺した奴だ。
「疾っ!」
男が明らかに届かない位置でナイフを払う。
「っ!!」
ローブで見えなかったが、その男は手が異様に長かった。ムチのように腕をしならせて加速させたナイフのリーチが一瞬で伸び、俺へと迫る。
「――【パリィ】」
ナイフを弾いた事で生じた火花によって路地が一瞬明るくなる。その瞬間にローブの奥にある顔が見えた。まるでドクロのような顔にはタトゥーが施されており、それはこの銀のロングソードにも刻まれている【冥王の徴】に他ならなかった。
「やっぱり【冥王】のやつか! 丁度良い、聞きたい事が山ほどある!」
俺は再び迫るナイフを弾く。男は今度は左手のナイフも使って、斬撃の嵐を俺へと放つ。アスカに負けないほどの剣撃であり、俺は世界が広い事を痛感した。
まだまだ強い奴はゴロゴロいそうだな。最強と名乗るのはもう少し先にしようと誓う。
だが、こいつは分かってない。俺は決して剣士ではないのだ。
支援術士の力、舐めるなよ?
「――【重鎖檻】」
俺はとある魔術を発動。
「っ!? 弱体化魔術か!?」
男の動きが分かりやすいほどに遅くなる。それもそのはずだ。俺が放ったのは【重鎖檻】と呼ばれる、相手にデバフを掛ける魔術だ。これに掛かった者は、身体が普段の倍以上に重くなってしまう。しかも、この状態で動けば動くほど、重さは増していく。
重力の檻に捕らわれた哀れな小鳥は、もがけばもがくほどに、重力の鎖が絡まっていく。
「馬鹿な……剣士がこんな上位弱体化魔術を使えるわけが……」
俺は地面に這いつくばるその男へと歩いて行く。
「俺は、支援術士だからな。剣の方を褒めてくれよ」
そう嘯いて、剣先を男へと向けた。
「さて……何から話してもらおうか」
「くくく……我ら、【星影】を舐めてもらっては困る。だが残念だ。この肉体は気に入っていたのだが――【影転移】」
「ッ!!」
俺は、何かしようとする男へと剣を突き出すが、感触がおかしい。肉ではなく、まるで骨を突き刺したような感じだ
「死体……だと!?」
男は皮と骨だけの干からびた死体となっていた。顔面のタトゥーといい、先ほどまでベラベラ喋っていたはずの男であることは間違いないが、俺が剣を突き刺す前に死体になっていた。
「逃げられたか!?」
「――詰めが甘いですな」
暗闇から、別の声が響いた。
夜闇から、月光の下へとヌルリと現れたのは――白髪交じりの初老の男性だった。執事のような服に、右手には無骨な金属製のステッキ。
その爺さんの左手には、あの影のうちの一人を掴んでいた。
「なぜだ!? なぜ貴様がここに!?」
掴まれていた影が、先ほどまで俺と戦っていた男と同じ声を出していた。どういうスキルか魔術か謎だが、どうやら、あの影は全部あの男と意識や記憶を共有しているようだ。
そして一人が死ねば、無事な方に乗り移る。そういうカラクリだろう。
「逃がしてはいけませんなあ。こういうゴミは」
その爺さんが当然とばかりにそう俺に告げると、首を掴んでいる左手に力を込めた。
「がはぁぁ!!」
「さて、マスター。どうなさいますか? 殺しますか? それとも拷問を? どちらも得意ですが……拷問は無駄かと思います」
爺さんは笑みを浮かべながら左手に更に力を込めていく。影が泡を吹きながらも右手を掲げた。
「あんた何者だよ」
「私ですか? ああ、これはとんだご無礼を。緊急事態にて、名乗りが遅れましたね私は――」
「死ね!!」
影がそう叫んだ瞬間に、爺さんの頭上と背後から複数の影が襲いかかってきた。俺が爺さんを守ろうと地面を蹴る。
しかし爺さんは邪悪な微笑みを浮かべながら右手のステッキを振るだけだった。だがそのステッキが変形し、まるでムチのようにしなると、三倍以上の長さとなって振り払われた。
仕込み杖……か!?
俺が驚くと共に爺さんの周囲に複数の銀閃がきらめく。
大量の血と肉が地面へと落ちる音と共に、爺さんが金属音を響かせながらステッキを元の形に戻す。左手に持っていた影は首が切断されて既に死体になっており、それを見て肩をすくめると、まるでゴミのように放り投げた。
そして爺さんはステッキを身体の前へと持ってくると、慇懃に俺へと一礼をしたのだった。
「申し遅れました。私の名は――レガート。今はただのしがないギルド局員ですとも」
新キャラです! ジェネリックウォルターです嘘です。
仕込み杖はブラッドボーンのアレを想像していただければまんまそんな感じです。獣特攻ついてるとか。




