2話:助けた美少女は獣人でした
「このスキル……とんでもない事になりそうなんだが……」
俺はそう呟きながら、小さな店舗や屋台が立ち並ぶ狭い裏通りを歩く。
一旦、現実の事を考えよう。ギルドを追放されたとなると、収入がゼロになるという事だ。多少の貯金はあるものの、無収入で暮らせるのも一、二か月ほどが限度だろう。
支援魔術はもう自分にしか使わないと決意した俺は、他のギルドに入る気はすでに無かった。
「ソロでのんびり冒険者でもやるかあ」
それは中々に悪くない考えだ。勿論、一人で出来る事はたかが知れているが、幸い、かなり万能に近い能力を得られた。生活する程度の金を稼ぐだけならなんとでもなるだろう。
「うっし、じゃあギルド庁に行って、冒険者の再登録するか」
なんて言いながら裏通りを進むと、横にある裏路地で何やらもめ事が起きているのが見えた。
帽子を被った可愛らしい青髪の少女がガラの悪そう男達三人に絡まれている。
「真っ昼間から……何やってんだアレ」
この裏通りは【ぼったくりロード】と呼ばれ、ワケあり品だったり盗品だったりと、後ろめたい商品が売られており、素人が買い物するのにあまりオススメできない場所だ。
当然、売り手買い手の間で揉め事が多いのだが、基本的にここでは自衛手段のない者が搾取されるという暗黙の了解がある。
よって、少女が男達に絡まれてようが、みんな知らない振りをするのだが……。
その少女と俺はたまたま目が合ってしまった。
そして俺は――その灰色の瞳になぜか怖いぐらいに惹かれてしまった。少女の顔は整っており、少しだけ幼さが残っているものの、男達に絡まれているというのに冷静な表情を浮かべている。胸まで伸びた青い髪は癖があり、毛先があちこちに跳ねていた。
男達のゲスい声が聞こえる。
「君さあ、流石にこの不味そうな色のポーションが2000ユールってのはぼったくりだよな? 使っても全然回復しねえし。詐欺だぜこれ。詐欺師にはどうするのがここのルールだっけ?」
「詐欺師は身包み剥いでもおっけー!!」
「ぎゃはは!!」
それを聞いた少女が目を細めて、口を開いた。白く鋭い犬歯が見える。
「……君らはやはり頭が悪いんだな。そのポーションは消費した魔力を回復するものだ。棍棒を振り回すしか能がない猿が使っても、意味がないのは当たり前だろ」
うわー……煽るねえ。
「あん? ぶっ殺すぞ!!」
男の一人が剣を抜いて少女へと向けた。その刃によって少女のローブが切り裂かれる。
「良く見りゃ良い身体してんじゃねえか。一通り楽しんだら娼館に売ってやるよ!!」
少女の露わになった肌着を見て、男達が下卑た笑い声を上げた。んー、流石にこれを見過ごすわけにはいかない。
さて、どう助けようかと考えていると――
「まったく……来るのが遅いぞ、お兄ちゃん」
少女が俺を見て、ニヤリと笑いながらそんな事を言いやがった。おいおい、そこはきゃあ助けて~、だろ。
「あん!? てめえがこいつの兄か!? じゃあてめえもついでに身包み剥いでやるよ!!」
馬鹿な男達は案の定、俺に剣を向けてきやがりました。俺は暗い赤髪で少女は青髪だ。兄妹なわけないだろうが。
こうなった以上は、戦う他ない。俺は支援魔術をとりあえず軽く五つほど自分に掛けてみた。
急に身体が軽くなる感覚。俺を中心に、矢や飛来物を跳ね返す緑色の風が渦巻き、魔術に対する虹色の障壁が俺を囲んでいる。
ああ……やばい。すごくやばい。この湧き上がる力が、我ながら恐ろしい。
俺は軽く地面を蹴っただけで、あっという間に男達へと肉薄する。
「へ?」
俺は軽く、羽毛を撫でるかのような優しい手付きで、驚きのあまり動きが止まった目の前の男へと手を払った。
スキルすらも使っていない、ただそれだけの動きで――轟音と共に男が吹っ飛び、横の壁へとめり込む。
そのままその男は地面へと落ちた。ピクピクと痙攣しているところを見ると、生きてはいるようだ。
危ねえ、死ぬほど手加減してこれかよ。
「は?」
「っ! 逃げるぞ!! こいつやべえ!」
残りの男達が脱兎の如く逃げ出した。うん、俺も同じ立場だったら逃げる。
少女の帽子が俺の攻撃の余波で飛ばされたのか、地面へと落ちた。彼女は帽子を拾うと、俺へとなんとも嘘臭い笑顔を向けたのだった。
「はは……強いんだね、お兄ちゃん。好きになりそうだよ」
その少女の頭部では――青髪と同じ色の獣耳が揺れていた。
メインヒロインはケモ耳僕っ子ですね。いやあ、やさぐれた男と僕っ子の組み合わせは良いっすな(デジャヴ)