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13話:冥王の徴


「ん……」


 平和な寝顔だ。あの後、俺はその少女を置いていくことが出来ず、迷いながらも辿り着いた狼亭へと連れてきてしまった。


 いや、ちゃんと理由があるからな!


「で? その理由とやらはいつ教えてもらえるのかな?」


 二階にあるシエラの部屋のベッドを借りて、少女をそこに寝かしているのだが……既に拠点へと戻っていたシエラが俺をジト目で見つめてくる。そういえば、俺が銀のロングソードを装備しているのを見て、やけに驚いていたっけ。


「帰ってきたと思えば、ポンコツそうな美人剣士とどこからか掠ってきた女の子を連れてくるなんて、アニマは実は女性関係のもつれからギルドを追放されたんじゃないかと勘ぐってしまうよ」

「誰がポンコツだ、犬っこ」


 椅子に座るアスカがムッとした顔でそう言うが、さきほど食べたパンの屑がまだ口の周りに付いているので、説得力はない。


「犬じゃない、狼!」


 シエラが吼える。どうやら、犬と呼ぶのは禁句らしい。気を付けよう。

 

 さて何から説明しようかと思っていたら。


「……うーん、あ……れ?」


 シエラとアスカのじゃれ合いで少女が起きたようだ。


 少女はまだ寝ぼけ眼で周囲を見渡すと、俺とアスカの顔を見た瞬間に赤い瞳を光らせ殺気を纏わせる。


「落ち着け。危害を加える気はない」


 少女は持っていたはずのあの骨の大剣がない事に気付き、諦めたのか殺気を消した。


 アスカが柄から手を離し、俺に任せるとばかりに椅子を譲ると、入口近くの壁にもたれかかった。俺は椅子をベッドの横に持っていくとそれに座る。シエラは少女を安心させる為か、俺の隣にいてくれていた。


 そんな俺とシエラを見た、少女が口を開いた。


「……テトの剣はどこ」

「ちゃんと保管してるよ」


 俺がそう答えて、笑みを浮かべた。少女はそれを見てもニコリともしない。子供って苦手なんだよなあ……。


「なんで殺さないの」

「聞きたいことがあるからだよ。君、名前は?」


 出会った場所、そして死操士(ネクロマンサー)という職種。間違いなくこの子は、死体漁り(スカベンジャー)だろう。だが、不可解な点がいくつもあった。


「……テト」

「じゃあ、テト。君は【棺桶街】の住人だね」

「……アニマ、君はなんて子を掠ってきたんだ……」


 シエラが呆れたような声を出す。普通の奴なら、棺桶街の連中と関わりを持とうなんて思わないからな。


「うん……棺桶街に一人で住んでる」

「なぜ俺達を襲った? この剣を貰うとかなんとか言っていたよな?」


 そう。

 この死操士ネクロマンサーの少女――テトは確かに俺達を襲う前に、そう言った。まるで、俺のこの銀のロングソードを知っているかのような口振りだった。


 テトは俺が腰から外した銀のロングソードの柄を見て、目を細めた。


「その紋章……それ【冥王の(しるし)】だから」

「冥王の……徴?」


 なんだそれ。聞いた事がないぞ。


「待て。その名前知っているぞ」


 なぜか黙っていたアスカが真剣な表情でそう会話に参加してきた。シエラは何かを考えているのか沈黙のままだ。


「【冥王】はかつてあった、とあるSランクギルドの名前だ。そしてそのギルドの者達は必ずそのギルドの紋章をそれぞれ武具に入れていたそうだ。それが――【冥王の徴】」


 冥王……? 俺がこの王都に来たのは五年前だが、少なくともそれから今までそんな名前のギルドは聞いた事がない。これでもそれなりに冒険者業界の事を知っているつもりだったが……。


 すると、俺の横に立っていたシエラが口を開いた。


「【冥王】が結成されたのは十年前。そして七年前に()()し、歴史の表舞台から去った。Sランクギルドの条件に結成から五年以上という項目が加えられたのはこの事件が原因さ」

「……冥王は()()()()()()()()


 テトがそう言って、シエラをみつめた。


 まるで俺だけが置いてけぼりみたいで、釈然としない。


「待て待て。俺はその冥王も冥王の徴やらも初耳だぞ」

「そうだろうね。冥王は、元々はSランクギルドだけど、とある事件でギルドは崩壊、解散に追いやられてしまったんだ。その記録も全て抹消されたから、知らないのも無理はない」

「じゃあ、なぜシエラ達は知っているんだ?」


 少なくとも、シエラはともかくアスカはまだ王都に来て一年だ。俺ですら知らない、記録まで消されたギルドの事を知っているはずがない。


「……冥王は、解散してからも、闇ギルドとして存続していたんだよ。まさにその名に相応しい、冥府のごとき闇の中でひっそりと残り続けた」


 ……急にきな臭い話になってきた。俺はこの銀のロングソードが呪いの武器めいた何かに見えてきた。


 よく見れば、その柄に掘られてある紋章は骨と鎌をモチーフにしており、不吉な雰囲気を出している。


 そしてテトが口を開いた。


「……テトはパパに言われて冥王の徴を集めてる。それを……お兄ちゃんが持っていたから襲っただけ。死体になれば……持っている物は拾った人の者だから……」


 まるでそれが当たり前かのように、そう口にしたのだった。


1章のキーワードとなる【冥王】

かつての英雄達はどうなったのか……それにテトはどう関わっているのか。作中で明かされていきます。お楽しみに!

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ハイファン新作です! 冒険者のパーティに潜入してランクを決める潜入調査官のお話です!たっぷりざまあがあるので、お楽しみください!

冒険者嫌いのS級潜入調査官 ~冴えないおっさんなんて要らねえんだよ、と追放されたので査定は終了だ。ん? 元Sランク冒険者でギルド側の人間だって知らなかった? 今さら遅え、Eランクからやり直しな~



興味ある方は是非読んでみてください
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