12話(追放者サイド):剣士ブリオの浅慮
【金の太陽】拠点内。
「おい! なんで俺の剣が磨かれてないんだ!?」
ブリオが近くにいた新人に怒鳴った。
「へ? いや知らないっすよ。ブリオさん達の武器の研ぎ依頼はいつもアニマさんが出してたんじゃないですか? 僕らは自分のは自分で研いでいますし……」
「またアニマか……」
何かトラブルやミスがあるたびに、出てくる名前だ。追放したというのに忌まわしい。
別の新人が、やってきてブリオに声をかけた。
「ブリオさん、リール商会から納品が来てますけど」
「んなもんお前で対処しろ!」
「いやだって、アニマさん宛てでして……」
「アニマはもういないって言っとけ!」
「はあ……そう言ったんですけど、そしたら責任者を出せって」
「……追い返せ!」
ずっとこんな事ばかりだ。アニマアニマアニマと皆、口を揃えてそう連呼するのに、いい加減ブリオは苛立っていた。
「な、なあ。あの時はよ、ブリオに賛成したけど……やっぱりアニマには戻って来てもらった方が良いんじゃないか?」
筆頭魔術師である、モデラートまでそんなことを言い出す始末だ。
「お前も、支援魔術が少ないと文句言っていただろうが。文句あるならラメンタに言え」
「いや、確かに支援魔術の効果は今の方が実感できるんだが、どうも魔術の発生速度が遅くなっている気がしてさ。それにスキルもなんか弱まったような……」
「なわけないだろ。気のせいだ。ラメンタは9階梯の支援術士だぞ? アニマなんてたった3階梯だ」
「でもそれは、ブリオが功績申請を……」
モデラートがそう言った瞬間に、ブリオが殺気を放った。
「アニマは追放した。戻すつもりもない。話は終わりだ」
「わ、分かったよ。ちっ……やりにくいな」
モデラートがブツブツ言いながら去っていった。そんな雰囲気と打って変わって、入口近くで、新人達が騒いでいる。
「お前見たか!? ダンジョン入口付近であった決闘!」
「見た見た! アニマさんヤバかったな! でも、なんか別人みたいな雰囲気で声掛けられなかったよ」
「相手は、あの【新人殺し】だろ? なんで支援術士のアニマさんが勝てたんだ? しかも土下座させてたし」
「……実はすげえ強い剣士だったんだよ。でもここにいる時は、ほらブリオさんが――」
「俺がなんだって」
ブリオが新人達の会話に割り込む。聞きたくない話だが、聞き捨てておけない内容だ。
「あ、いや……アニマさんがダンジョンにいたって話で」
「詳しく聞かせろ」
新人達が語る話は、ブリオにはにわかに信じがたい話だった。その新人殺しとやらは知らないが、どうやら有名な剣士らしい。そんな剣士に圧勝した上に弟子にした? あのアニマが?
「人違いだろ!」
「いえ……同じギルドメンバーですから間違えるはずありません。声も一緒でしたし」
「元、メンバーだろうが」
「はあ……」
「ちっ、くだらねえ噂をしてる暇があったら武器磨きでもやってろ!!」
ブリオは怒りのままに命じると、新人達が顔を見合わせてため息をついた。
こいつらのせいで、急にギルドの雰囲気が悪くなった。ブリオはそんな見当違いの怒りを抱きながら、目に付く者全てに怒鳴り散らしていた。
くそ、こうなったら直接アニマに言ってやる。ついでに、迷惑料としていくらか徴収しよう。その情けない姿を皆の前で見せれば、きっとこのうわついた空気も少しはマシになるだろうさ。
ブリオは自分の名案に一人、ほくそ笑んだのだった。
しかし、それが致命的な過ちであった事に……もうまもなく気付くことになる。
崩壊の序曲が鳴り響いていますね……




