11話:VSネクロマンサーな少女
「〝死刃を震わせ血を啜れ〟――【死王の軍勢】」
少女が詠唱しながら大剣を地面に突き立てると同時に、悪寒。
「下だっ!!」
俺の警告と共に、アスカと俺はバックステップ。少女と俺達の間にの床に無数の魔法陣が現れ、そこからボロボロになった剣が突き出ていた。
そして、ヌルリと魔法陣からその剣を突き上げていた骸骨の兵士達が這い出てきた。窪んだ眼孔には炎が揺れており、骨だけとなった身体には粗末な鎧を装備している。手にはボロボロの剣とシールド。
それはスケルトンナイトと呼ばれるアンデッド系の魔物で、それが約20体ほど、細い路地を埋め尽くしている。だが普通のスケルトンナイトと違って、赤黒いオーラを纏っているのが不気味だ。
「死操士か」
支援術士と同じかもしくはそれ以上に使い手が少ない職種である死操士。理由は、その不吉で不浄なスキルや魔術が忌み嫌われているからだ。
更に死操士の適性の発現させる為には、常人では考えられないような凄惨な経験をする必要があり、常人なら適性を持っていたとしても、まず発現しない。
その特有のスキルや魔術は、大人ですら目を背きたくなるような物ばかりだ。
それを……あんな幼い少女が平気で使っている。
それはあまりに異常すぎる。それにこれだけの数のスケルトンナイトを同時に召喚できるところを見るに、どう考えても高階梯の死操士だ。
「師匠、あの子供――殺しますね」
アスカの眼光が鋭くなり、刀の柄へと手をやりながら腰を沈めた。おそらく彼女は、生半可な覚悟で突っ込めば返り討ちにあうことを予感していたのだろう。
俺が答える代わりに剣を構えると、アスカが地面を蹴った。
雷の如き速度で踏み込んだアスカが抜刀。右の壁に斬閃が刻まれ、彼女の目の前に立っていたスケルトンナイト達がその剣風で吹き飛ぶ。更に左側の壁にも斬撃の跡がつき、彼女を中心した前方の半円上の範囲内全てが細切れになっていた。
たった一振りであれだけの斬撃を放ったそれは、まさに絶技と呼ぶに相応しいだろう。
だがその攻撃は細長い路地では、遠くまでは届かない。一気にスケルトンナイトの数が半分に減ってなお、奥に佇む少女は余裕そうだ。
少女が口角を上げたのを見て、俺は嫌な予感がした。
「アスカ!」
俺の言葉を受け取ったアスカが、振り払った剣を戻しつつ目の前に迫ったスケルトンナイトを斬り伏せ、飛翔。横の壁を蹴って空中へと舞いあがったところで、前方にいた少女が更に大剣を地面に深く突き刺した。
その瞬間に――スケルトンナイト達が爆発した。
「――っ!! 【シルフヴェール】!!」
俺は反射的に、矢や投擲武器などの物理的な遠距離攻撃を跳ね返す支援魔術を自身に掛けた。爆散し、飛んでくるスケルトンナイト達の骨や剣などの破片が壁や地面を破砕する。
俺へと届いた破片も、俺の周囲に展開された緑色の風によって跳ね返り、更に前方の破壊を加速させた。空中へと飛んだアスカも自分へと迫る爆風と破片を、剣を薙ぎ払うことで放った衝撃波で相殺。
今のは危なかった。前までの俺なら為す術なく身体中に破片が突き刺さり死んでいただろう。【シルフヴェール】もこれだけの量の飛来物があると本来なら途中で効果が切れてしまうはずだが、魔術強化のバフのおかげで全て跳ね返せた。
「……嘘」
粉塵が収まった向こう側で、少女が無傷の俺と音もなく着地したアスカを見て目を細めた。
狭い路地という立地からして、おそらくは必殺の連携だったのだろう。スケルトンナイトを召喚し、それと戦わせて、間合いに入った瞬間にスケルトンナイトを爆破。これだけ狭い場所だと爆風も勢いを増し、まず避けられない。
現に、俺の周囲以外は、骨やら何やらが散乱してめちゃくちゃに破壊されており、その威力の凄まじさを物語っている。
死操士らしい、陰湿で、そして的確なやり方だ。
アスカが着地した際にたわめた膝を一気に伸ばし加速、少女へと向かっていく。
「――【天日】」
アスカの刀が眩しいほどの光を纏いつつ、振り払われた。だが少女はまだ戦意を失っていない。
「……〝再編〟」
アスカの輝く斬閃が少女へと届く直前。
少女の呟きと共に、周囲に散乱していたスケルトンナイトの破片がまるで時が戻ったかのように元の姿へと戻ろうと高速で飛んでくる。その最中にいたアスカへ、無数の破片が飛来。アスカは直前で刃の軌道を変え、全周囲から迫る破片へと払った。
俺は前方へと【ファイアボール】を放ちながら前進。復活したスケルトンナイト達を灰すら残さず焼き切る。
アスカがまるで俺の動きを分かっていたかのように自身の背後から迫る破片を無視して、逃げ場となる上から飛来する破片を刀で払うと跳躍。
アスカの真下を俺が放った火球が通り過ぎ、少女へと迫った。
「っ!! 【骨壁生成】」
少女が慌てて骨を寄せ集めて作ったような壁を自身の前に生成し俺の火球を防ごうとするが無駄だ。
俺のスキルとバフで超強化された火球はあっさり壁を破壊すると勢いを少し落としながらも更に前進。
少女が迫る火球を見て、尻餅をついた。
「……負けた」
少女の降参したような声を聞いて、俺は【ウォーターフォール】の魔術を発動。火球を少女の目の前で打ち消す。
目をまん丸にして、驚く少女へと俺は肉薄するとそのまま剣の柄を少女の頭へと振り下ろした。手加減したおかげで、綺麗に意識だけを刈り取ったその一撃で少女が倒れ込むのを、俺が受け止めた。
「殺さないのですか」
背後から、アスカがそう声を掛けてきた。
「降参していたからな。まだ戦う意志があったら別だが」
「……甘いですね。ま、師匠のおかげで助かりましたので、文句は言いません」
俺の腕の中で気絶しているその子は、その姿だけを見ればただの子供だ。
だが、確実に俺達を殺そうと二段構えではなく、三段構えの罠を張っていた恐ろしい死操士だ。
「それで師匠。その子、どうする気です?」
アスカの呆れたような声が路地に響いた。
スケルトンナイトさん「扱いが雑で草。でも良いんです、幼女万歳」




