1話:人にバフを使うのはもうやめた
新作です。楽しんでいただければ幸いです
2021/01/16
等価交換の説明文を一部修正(スキル効果は同じです
王都――最大手ギルド、【金の太陽】の拠点兼酒場内。
俺は自分のナイフを磨きながらため息をついた。鏡のように俺の顔を映す刀身には、暗い赤髪のくたびれた青年が疲れた目をしてこちらを見つめていた。
そりゃあ美形ではないにせよ、中々悪くないんじゃなかろうかと自分では勝手に思っているが、こう疲れ顔では台無しだ。
「アニマ、お前さ、やっぱり手を抜いてるだろ?」
ギルドマスター兼ギルドの筆頭剣士であるブリオがいきなりそんな事を俺に言いだした。
「そんなわけないだろ。新人達の面倒を見るのも大変なんだぞ」
俺は王都でも指折りのギルドとして名前が挙がるこの【金の太陽】に、【支援術士】と呼ばれる仲間の支援と敵の弱体化を主とした職業で、設立当初から所属していた。
更に物資補給やらギルド庁への手続きやらの諸々の雑務も全部俺がこなしている。
「明らかに俺達への支援の質が落ちているぞ。これは他のメンバーからも言われている」
ブリオは、ダンジョンがあり冒険者が大陸中から集まるこの王都でも名のある剣士だ。
そして他にも筆頭魔術師やこの大陸最高峰の回復術士など、冒険者の指標である【階梯】――最高位で13階梯――でいえば10階梯クラスの実力者が複数所属している。
五年経った今、このギルドはAランクまで昇格していた。
「それは前からも言っているように、新人達の支援を優先しているからだろ? お前らはもう十分強いから俺無しでも余裕じゃないか」
「言い訳はよせ。新人にチヤホヤされて、楽しているだけだろお前。もうすぐ、ギルドランク昇格の期間になる。五年目の今年はようやくSランクを狙えるんだ。だから、違う支援魔術師を雇う事にした」
ギルドのランク審査は厳しく、最高ランクであるSランクともなると、最低でも設立してから五年経たないと昇格申請すら出来ない。
そしてこのギルドは今年で五年目。ブリオが息巻くのも無理はない。
「楽してるって、お前な……。ま、もう一人雇うのは良い判断だよ」
そもそもメンバーが百人を超えた辺りから、俺の支援容量を軽くオーバーしているしな。支援術士は重要な割に地味だとか、強さが分かりづらいとかで不人気だ。それに戦闘以外でも効果があるため常時掛けっぱなしなんてザラだし。
なのに。
「だから、アニマ。お前には出て行ってもらう」
俺は耳を疑った。
「はあ!? 新しい奴がどんな奴か知らないが、一人でこの人数を支援するのは無理だって! 俺とそいつの二人体制が一番だろ!」
「お前と違って隣国で最も優秀な支援術士だ。お前みたいに楽な方に流れるような奴とは違う」
「新人を大事に育てようっと決めたのはお前だろ!? 設立メンバーの会議で決めたことに従ってるだけじゃないか!」
「言い訳をするな! 支援が出来ない無能なら、うちのギルドにはいらん」
信じられない。そんな馬鹿な話があってたまるか。俺だってそりゃあ新人達に感謝されて嫌な気はしない。だけど、ブリオ達にだって最低限必須のバフは掛けている。なのに無能扱いだなんて。
「あと、これは俺だけではなく設立メンバーの総意だ」
ブリオの言葉に、無言で成り行きを見ていた筆頭魔術師や、回復術士、他の古参メンバーも頷いた。
これだけ揃って、誰もこんな馬鹿な事に反対しないのか!?
「嘘だろ……お前ら本気か」
俺がそう視線を送るのも、全員が目を逸らした。
「残念ながら、本気だ。さっさと出て行け」
「…これまで掛け続けていたバフがなくなるんだぞ。それに雑務は誰がやるんだよ」
「ふん、次の奴はお前より上手くやるだろうさ」
俺はため息をついた。俺だって、自分が最高の支援術士などと驕ってはいない。それでも……ギルドに少しでも貢献しようと努力はしてきた。一生懸命、やっているつもりだった。
それが、否定された。それが――理解してもらえなかった。
なんだか急に俺は全てが馬鹿らしくなった。
「……分かったよ。もう、お前らとは赤の他人だ。じゃあな」
俺はそれだけを言って、【金の太陽】の拠点から出ていった。
認めてくれないのなら、理解してくれないのなら――もう他人に支援魔術を使うのはやめだ。自己中心的、利己的と呼ばれようが、知った事か。俺はもう、自分の力を自分の為にしか使わない。
そう決意した。
だから俺は、【金の太陽】の全メンバーに五年間掛け続けていた支援魔術――合計で千に近い数のバフを全て解除した。
その瞬間に、俺の脳内に突然、声が響く。
***
スキル【等価交換】が発現しました。
【等価交換】――これまでに支援魔術を掛けていた相手の経験や知識、魔術やスキルなどを、全て自らの物として扱えるようになる。
支援魔術を与えていた数と時間が多いほど、それぞれの効果に上方修正が掛かる。
***
そうして俺は、この五年の間で、ギルドメンバー達が手に入れた経験や魔術やらスキルやらの、知識の洪水に襲われたのだった。
なんだこれ。あまりの情報量に頭がパンクしそうだ。
とにかく俺の中に剣士スキルやら上級魔術やら回復魔術やらが、まるで昔からそこにあったかのように存在している。
しかもどれも見覚えがある物ばかりだ。同じギルドメンバーとしてずっと支援しながら見てきたせいだろう。
どうやら俺はそれらが使えるようになったらしい。【等価交換】というスキル名からすると、俺が支援魔術を掛ける代わりに、その間に得た物は知識やらなんやらがバフに対する等価として得られたのだろう。
ただ、問題は……剣技などの接近戦スキルも魔術も、使えるだけの身体能力や魔力を俺が持っていない点だ。
つまり、今のままでは宝の持ち腐れ。
「なら……」
これまで味方に使っていた支援魔術を全て……自分だけに掛けたらどうなるのだろうか。
俺は少し怖くなってしまった。
なぜなら、【等価交換】によってこんな恐ろしいスキルを取得していたからだ。
***
【一騎当千】――自身に掛かったバフの効果量を二倍にする。
***
未だに、眩暈がしてクラクラするが、それでも分かる事はただ一つ。
多分、俺は――最強になった。
ここから主人公の無双と最強のギルドへと道が始まります。
アニマさんは25歳、彼女なしです。苦労人ですね多分。
ハイファン新作始めました!
冒険者のパーティに潜入してランクを決める潜入調査官のお話です! たっぷり追放ざまあがあるので、お楽しみください!
↓URLは広告下↓
冒険者嫌いのS級潜入調査官 ~冴えないおっさんなんて要らねえんだよって追放されたけどダメだなこいつら。ん? 元Sランク冒険者でギルド話の人間だって知らなかった? 今さら遅え、Eランクからやり直しな~




