聖女なんて存在しない
誰にでも優しい聖女様。
皆に平等に優しくて、痛みも悲しみも分かち合ってくれる。
魔王の脅威に脅かされるこの世界では、彼女のような完璧な人間が必要だった。
聖女様は多くの人から頼られる、立派な人だった。
けれど、絵に描いたような薄っぺらい幻想だったのだ。それは。
そんな聖女。存在しない。存在してはならなかった。
我々は、あまりにも辛すぎる幻想を一人の聖女に押し付けてしまった。
国の重鎮も、王様も、騎士も、民も。
誰か一人でも、彼女の心を労わってやれていたら、聖女様が重すぎるプレッシャーで心を壊す事が無かったのに。
いつも笑っていた聖女様が、心の底で泣いていた事に気づいてやれたはずなのに。
いつも健気に人を労わっていた聖女様が、次は自分の身かもしれないと恐怖していた事に気づけたかもしれないのに。