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塵壺の底  作者: みみつきうさぎ
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第七話「変化」

<登場人物>


影月 十太郎  

 本作の主人公 少々いいかげんな性格でありながらも、自称「やる時に、たまにはやる男」元締に頼まれた仕事を引き受けたゆえに、闇の地にて闇住者に追われる


霧雨 九蔵

 沈着冷静な霧消流剣術の使い手 十太郎と共に元締に仕事を頼まれたことで、事件に巻き込まれていく


六道 三右衛門

 江戸の口入れ屋の元締め 旧知の知人 夢戒僧正に依頼された仕事を十太郎に任す


夢戒僧正

 『丑寅の関』向こうの地にある旧寺の住職


鷹田 康三郎

 鳳凰藩士 主君の密命を帯び、十太郎と接触する。家臣の砂田と土呂は青葉藩にて捕縛斬首


菊川 保知

 鳳凰藩家臣 『朝露』の里より、忍びの者『草』を率いる。獄につながれた鷹田の救出を主君から命じられる


月草

 『朝露』の一草 年長の少女 数え十五 青葉藩潜入途上で死亡


銭巻

 『朝露』の一草 二番目の少年 数え十四 鷹田を獄から奪還する途上で死亡


田菜

 『朝露』の一草 三番目の少女 数え十三


ちがや

 『朝露』の一草 四番目の少年 数え十


堅香子かたかご

 『朝露』の一草 一番年若の少女 数え九つ


明石 右近

青葉の赤鬼と恐れられる青葉藩家臣随一の剣豪  『丑寅の関』の関守に命じられる。


川田 長兵衛

 青葉藩家臣 明石の重臣


支倉 兼嗣

 青葉藩筆頭家老 『丑寅の関』の事変に深くかかわりをもつ


大谷 古四郎

 青葉藩随一の豪商 遣欧使節に乗じた密貿易で得た富で青葉藩に武器を供与


ノーノ・サントス

 異国より遣欧使節団とともに密入国した少女 兼嗣の命で大谷家に寄宿している


レイナ・ファルケ

 ノーノとともに密入国した修道女 兼嗣の命で大谷家に寄宿している


射干玉の化生

 青葉藩の獄にて保友と対峙 幻術で保友を翻弄する


丹羽 勘兵衛

 鷹田と同じ獄の囚人 鷹田に丑寅の関内での一端を伝えるも刑死


鳳凰 崇宗

 鳳凰藩主 爽やかな風貌で家臣の信頼も厚い 人前で声を発さず二人の小姓を使って家臣を動かす


葦毛 坊丸

 崇宗の小姓 右目が蒼い 感情を表に出すことなく崇宗の言葉を家臣に伝える


栗毛 峰丸

 崇宗の小姓 左目が赤い 感情を表に出すことなく崇宗の言葉を家臣に伝える


闇住者

 詳細不明

 陸奥国むつのくに日和田宿の郊外に『安積山あさかやま』という丘陵が街道沿いに拡がっており、松林の中にはいくつかの草庵が結ばれていた。その中でも街道より一番奥まったところにあるみすぼらしい草庵こそが、保知に告げられていた隠れ家である。


 二人の少女、田菜たな堅香子かたかごは、この場所にたどり着いてから寝る間も惜しみ、まだ動けない骨のようにやせ細った鷹田の身体に薬草の汁を塗っていた。

 鷹田は獄から助け出されたあの日から何日経ってるか検討もつかなかった。炎の中に何か獄卒たちが混乱し、逃げ惑っているのが覚えている最後の光景であった。


「ここはどこか?」


「話せませぬ、言ってはならぬと言われているから」


 田菜は薬草を塗りおえた患部に細長く裂いたさらし布を丁寧に巻いた。


 子供らの無駄のない所作からこの子らは『草』であると、すぐに見抜いていた。自分をあの窮地から救い出してくれた保知の一族の者らで間違いはないと確信した。


「お前たちすまぬ」


「あたいらは、言いつけを守っているだけ、守れって言われれば守るし、殺すって言われれば殺すの」


 鷹田は齢十にも見えない子が、無邪気に笑いながら話す言葉に、返事を返すことなく目を少しだけ伏せた。


「もうすぐちがやが食べ物と新しい馬を持って戻ってくるから、それまではまだ横になっていてください」


 田菜がそう言ってまもなく、草庵の外から馬の蹄の音と荒い息遣いが近付いてきた。


「戻ってきたよ!ちがや思っていたよりも早かったみたいだね」


 堅香子かたかごは立ち上がり、入り口に立てかけた扉代わりの木の板を横にずらした。


「!」


 入ってきた者を見た途端、堅香子かたかごは猫が飛び跳ねるように後ろに下がった。


「鷹田、上様はお前が何も持ち帰ってこなかったことに非常に御不満である」


 藩主『鳳凰崇宗』の小姓、蒼い瞳の右目をもつ『葦毛坊丸あしげぼうまる』であった。

 鷹田は痛みのひかない身体をむりやり起こし、その場に平伏した。


「申し訳ございませぬ、分かっていたこととはいえ、青葉藩の守りは非常に固く、為す術はありませんでした、もちろん生きて許しを請おうとは考えてもおりませぬ、ただ……」


 坊丸は平伏する鷹田の頭を、土のついた毛沓けぐつで踏みつけた。


「ただ……何だ」


「丑寅の関を越えた者からの伝言だけをお伝えしたく、生き恥をさらし、塵のようなこの命をつないでおります」


「申してみよ」


「子供に……首のない子供に気をつけよ……と」


 鷹田の言葉に坊丸は声変わりのしていない高い声でけたたましく笑い声を上げた。


「ほう、やはり上様のおっしゃたことは間違いではなかったようじゃ、鷹田、お主には上様より褒美が与えられる」


 坊丸がそう言うが早いか、鷹田の後ろの首筋に刀を突き立てた、血しぶきが飛び散るのを田菜と堅香子は黙って見ているしかなかった。


「殺すのではない、お主は新しく生き返るのじゃ、上様の恩情に深く感謝せよ」


 骨のようだった鷹田の全身がはち切れんばかりに膨らんだ。噴き出す血が止まったとき、そこにいるのは人の姿をした異形の者であった。鳥のような目とくちばしを持ち、全身に蛇のような鱗が隙間なく肌を埋めていた。


「そこの二人の『草』よ、あともう一草を加え、お主たちは彼の手足となって、丑寅の関を越えよ、それが上様の命である」


 異形の者と化した鷹田は、怯える田菜の右耳を引きちぎり、咀嚼しながら旨そうに飲み込んだ。

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