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塵壺の底  作者: みみつきうさぎ
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第六話「伴天連」

<登場人物>


影月 十太郎  

 本作の主人公 少々いいかげんな性格でありながらも、自称「やる時に、たまにはやる男」元締に頼まれた仕事を引き受けたゆえに、闇の地にて闇住者に追われる


霧雨 九蔵

 沈着冷静な霧消流剣術の使い手 十太郎と共に元締に仕事を頼まれたことで、事件に巻き込まれていく


六道 三右衛門

 江戸の口入れ屋の元締め 旧知の知人 夢戒僧正に依頼された仕事を十太郎に任す


夢戒僧正

 『丑寅の関』向こうの地にある旧寺の住職


鷹田 康三郎

 鳳凰藩士 主君の密命を帯び、十太郎と接触する。家臣の砂田と土呂は青葉藩にて捕縛斬首


菊川 保知

 鳳凰藩家臣 『朝露』の里より、忍びの者『草』を率いる。獄につながれた鷹田の救出を主君から命じられる


月草

 『朝露』の一草 年長の少女 数え十五 青葉藩潜入途上で死亡


銭巻

 『朝露』の一草 二番目の少年 数え十四 鷹田を獄から奪還する途上で死亡


田菜

 『朝露』の一草 三番目の少女 数え十三


ちがや

 『朝露』の一草 四番目の少年 数え十


堅香子かたかご

 『朝露』の一草 一番年若の少女 数え九つ


明石 右近

青葉の赤鬼と恐れられる青葉藩家臣随一の剣豪  『丑寅の関』の関守に命じられる。


川田 長兵衛

 青葉藩家臣 明石の重臣


支倉 兼嗣

 青葉藩筆頭家老 『丑寅の関』の事変に深くかかわりをもつ


大谷 古四郎

 青葉藩随一の豪商 遣欧使節に乗じた密貿易で得た富で青葉藩に武器を供与


ノーノ・サントス

 異国より遣欧使節団とともに密入国した少女 兼嗣の命で大谷家に寄宿している


レイナ・ファルケ

 ノーノとともに密入国した修道女 兼嗣の命で大谷家に寄宿している


射干玉の化生

 青葉藩の獄にて保友と対峙 幻術で保友を翻弄する


丹羽 勘兵衛

 鷹田と同じ獄の囚人 鷹田に丑寅の関内での一端を伝えるも刑死


鳳凰 崇宗

 鳳凰藩主 爽やかな風貌で家臣の信頼も厚い 人前で声を発さず二人の小姓を使って家臣を動かす


葦毛 坊丸

 崇宗の小姓 右目が蒼い 感情を表に出すことなく崇宗の言葉を家臣に伝える


栗毛 峰丸

 崇宗の小姓 左目が赤い 感情を表に出すことなく崇宗の言葉を家臣に伝える


闇住者

 詳細不明

 目の前にあらわれた二人の女性の姿を見て、右近の表情が少し和らいだ。


「大谷屋の伴天連バテレンだな」


 右近の声に、西洋頭巾をかぶっていない黒髪の少女は顔を起こし、その栗色の瞳で十太郎らを見つめた。


「化生の者どもが既に目覚めつつあります、既に雉川堤の『涅槃獄』が落ちました。青葉の者たちは他藩の手による者だと決めつけていましたが、片倉様だけが『桃宴』の闇住者の所業と見抜いておりました」


「して、その数は?」


「毒を操るむしの一匹」


「ううむ、一匹であの獄を」


おおとりの忍もいたようですが、あのように巨大な人の肉球にくだまを造るのは蟲しかできません」


 右近の会話を耳そばだてて聞いている十太郎、九蔵には初めて聞く言葉ばかりであった。それよりも、異国の者たちが、「舌人」もいないのにこうも簡単に話をしていることが不思議だった。 

 ※「舌人」は通訳者のことを意味する


「右近様、後ろの方々は?手をわずらわせる者たちでれば、ここでレイナによって焼いてしまいますが」


「そこまでせずともよい、両名は我が身を守ってくれた浪人くずれだ、丑寅の関にて解放してやれ」


「右近様の命とあらば」


 二人の会話を聞いていて、十太郎はいてもたっていられず横槍を入れた。


「赤鬼様のありがたいお言葉といえ、こちとら前にお話しさせていただきやした商いのヤボ用もございますんで、それはご遠慮させてもらいやす、そちらの異国のご婦人方にゃ心はどんなに焼かれても、この身体は焼かれたくないことも重ねてお願いいたしやす、その願いが聞き入れられなきゃ、こちらにも江戸町人の意地ってもんがありやす」


「これは面白い殿方ですこと」


 紫色の布を巻いたような頭巾を深々とかぶった女性は、十太郎の口上に静かに笑って返し、呪文を唱え始めた。


「レイナ控えなさい」


 右近の前に立つ少女は厳しめな口調で、その詠唱を遮った。


「連れの方々、お許しください、ただ、この地はたいへん汚れております、あなた方のような者たちがいつまでもいる所ではございません、右近様のおっしゃる通り、すぐにお帰りください」


「異国の娘さんにこう丁寧に頼まれたらまぁ考えるだけならいい、ただ考えるだけだ、赤鬼様、どうかしておくんなせぇ、子供を連れ帰るだけのことでござんず」


「子供?」


 子供という言葉に少女が反応した。


「その子の名は?」


「娘さんの頼みとあってもそりゃ言えねぇよ、って九蔵さんよ、なんて名だっけ?」


「十太郎」


 それまで黙っていた久蔵が声を掛けた。


「ああ、分かっている、この話を聞いている者がもう一人いることは、そいつもこんな妙ちくりんな奴らがうようよといる山の中にはるばる潜ってきたもんだ」


 この言葉には右近も二人の異国の女性も驚きの色を隠せなかった。


「姿を見せな、ここにいる奴らはみな味方のような顔をしているが、いつでも寝首を欠くことの出来る刺々しい奴らばかりだ、あんたが一人増えたところで何も変わらないよ」


 生い茂る草の中から一人の青年が無言のまま立ち上がり忍び装束の姿を見せた。

 菊川保知であった。


「何やつ!」


 右近の形相は鬼のように変わった。


「貴殿は話すと思うか?」


 保知の声が冷たく辺りに響いた。今すぐにでも斬り合いが起こるような空気が拡がっていく。


「おっと、まったまった、忍びの兄さんよ、あの異国の娘さんがこの地は汚れているって言ってっていただろう、これ以上、ここにいる連中が汚すことはねぇ、ほれ見てみなせぇ、忍びの兄さんも赤鬼様のように傷だらけだ、そんな傷物どうしがやり合っても、普通のお客は喜びませんぜ、とりあえず、使われてないとはいえ笹場の旧街道まで行きゃ何とかなんだろう、赤鬼様、まずは骸だらけのこの草っ原を抜けてからもう一度話をお聞きしやす、そのくらいのお目こぼしはくだせぇ」


 手負いである右近としても、渋々、十太郎の申し出を受けざるを得なかった。


「忍びのむっつり兄さんよ、あんたは青鬼様と勝手に呼ばせてもらいやす、手前は十太郎と呼び捨てで結構ですんでお見知りおきを願いますぜ、もう一人の連れは九蔵ぅて言うんですが一応、九蔵さんってさん付けしてやってくだせぇ、じゃないと言の葉よりもだんびらの方が、めっぽう速く飛んできやす」


「好きにしろ」


「おっ、もう一人、大切な名を聞いていなかった、異国の娘さん、名は?」


「ノーノで結構です」


「洒落た名だね、異国の花のようだ、長屋の鼻水垂らしたガキどもに聞かせたら目ぇ丸くして驚くぜ」


 十太郎の何気ない戯れ言に、少女も思わず笑みをこぼした。


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