第四話「おさなご」(一)
<登場人物>
影月 十太郎
本作の主人公 少々いいかげんな性格でありながらも、自称「やる時に、たまにはやる男」元締に頼まれた仕事を引き受けたゆえに、闇の地にて闇住者に追われる
霧雨 九蔵
沈着冷静な霧消流剣術の使い手 十太郎と共に元締に仕事を頼まれたことで、事件に巻き込まれていく
六道 三右衛門
江戸の口入れ屋の元締め 旧知の知人 夢戒僧正に依頼された仕事を十太郎に任す
夢戒僧正
『丑寅の関』向こうの地にある旧寺の住職
鷹田 康三郎
鳳凰藩士 主君の密命を帯び、十太郎と接触する。家臣の砂田と土呂は青葉藩にて捕縛斬首
菊川 保知
鳳凰藩家臣 『朝露』の里より、忍びの者『草』を率いる。獄につながれた鷹田の救出を主君から命じられる
月草
『朝露』の一草 年長の少女 数え十五 青葉藩潜入途上で死亡
銭巻
『朝露』の一草 二番目の少年 数え十四 鷹田を獄から奪還する途上で死亡
田菜
『朝露』の一草 三番目の少女 数え十三
茅
『朝露』の一草 四番目の少年 数え十
堅香子
朝露』の一草 一番年若の少女 数え九つ
明石 右近
青葉の赤鬼と恐れられる青葉藩家臣随一の剣豪 『丑寅の関』の関守に命じられる。
川田 長兵衛
青葉藩家臣 明石の重臣
支倉 兼嗣
青葉藩筆頭家老 『丑寅の関』の事変に深くかかわりをもつ
大谷 古四郎
青葉藩随一の豪商 遣欧使節に乗じた密貿易で得た富で青葉藩に武器を供与
ノーノ・サントス
異国より遣欧使節団とともに密入国した少女 兼嗣の命で大谷家に寄宿している
レイナ・ファルケ
ノーノとともに密入国した修道女 兼嗣の命で大谷家に寄宿している
射干玉の化生
青葉藩の獄にて保友と対峙 幻術で保友を翻弄する
丹羽 勘兵衛
鷹田と同じ獄の囚人 鷹田に丑寅の関内での一端を伝えるも刑死
鳳凰 崇宗
鳳凰藩主 爽やかな風貌で家臣の信頼も厚い 人前で声を発さず二人の小姓を使って家臣を動かす
葦毛 坊丸
崇宗の小姓 右目が蒼い 感情を表に出すことなく崇宗の言葉を家臣に伝える
栗毛 峰丸
崇宗の小姓 左目が赤い 感情を表に出すことなく崇宗の言葉を家臣に伝える
闇住者
詳細不明
(一)
(何でぃ、この化け物は?)
小屋の中に飛び込んできたものを見て十太郎は怖さよりも先に、その存在の一挙一動に目を奪われた。
ぬるりとした灰色の小さな身体の上に、腐敗した落ち武者の首が揺れ、細い枝のような手の先には赤さびた脇差ほどの小刀が握られている。
十太郎にはそれがよく出来たからくり人形にも見えた。
「こやつが『骸』か……」
九蔵はその生き物の動きをじっと観察しつつ、刀の柄を握る小指に力を加えた。
「見世物小屋で売りゃ、一匹で二両にはなりそうだ、もっとそいつのツラを拝みたい、もう生木はごめんだ、全部使っちまうぜ」
十太郎はそう言いながら、小屋内にあるだけの焚き付け用の小枝や薪をどんどんと囲炉裏にくべた。小枝はバチバチと音を上げ、炎が小屋の天井まで届くほどの高さまで吹き上がった。
「全部で四だな、目の前に一、その外に三」
「いや、外に四だ」
「九蔵さんはどんな時でも耳がいいねぇ」
骸を前に落ち着いた二人の姿を見た手負いの侍は驚いた。歴戦の武者でもその姿を初めて見た者たちのたいていは怯んでいた。
「お前たちは……」
「おっと、お侍さん、ちょっと熱いかもしれませんが、暗くて手元が狂ったらアレなんで、火を強くさせてもらいやした、すぐに終わりやす」
侍は、この場においても落ち着き払うこの二人がただの町人や浪人ではないことを確信した。
「さて、おっぱじめるか」
十太郎のその言葉を合図に九蔵の刀が骸の首を音も立てることなく落とした。十太郎は火の付いていない長めの薪を左手に持ち、小屋の前に垂らしてある筵を前に突き押した。
そこを狙っていたかのように錆びた刀が針山のように蓆を貫いてきた。
その隙をついた九蔵が蓆を切り落とし、外に転がり出ると二匹の骸の腕を両断した。腕を失った骸はその場で背中を見せた九蔵の喉笛に食らいつこうと飛びかかるが、その落ち武者の頭部には十太郎の兜割りが半分ほどめり込んでいた。
小屋の囲炉裏の火が外に漏れ、ぼんやりと周囲を照らし出した。
侍が床を這いながら表に出た時には、骸の切断された身体が転がり、墨汁のような黒い体液を地面に流していた。
「おっと、お侍様、無理しちゃいけませんぜ、すぐに終わると言ったじゃねぇですか」
「お前たちの目的は何だ」
「答えられないと言ったらお許しいただけますか……あの長物は天下の名刀『玄武切』、その持ち主といえば泣く子も黙る青葉の赤鬼こと『明石右近』さま」
「そこまで知っておったのか、許さないと言ったら、わしをここで切るのじゃろうな、この骸どものように」
右近は獣のような鋭い目つきでそう言った。
「そんな無粋なことはしやせん、拾った命は大切にしねぇと天神様からバチがあたる、黙っていてくれるだけでお身内のいるところまでは」
「面白いやつらじゃ、許すも何もわしのヘノコまで握られてるようなこの体で何ができると言うのか、どうせ戻ってもこの始末じゃ切腹じゃ、わしも一緒に連れていけ、この丑寅の地では案内人が必要になるであろう」
この予想外の申し出に十太郎と九蔵は顔を見合わせた。
「赤鬼様はお噂通り、無茶な御仁ということが心底分かり申した、ではお言葉に甘えて案内をお願い申す」
それが二人の出した結果であった。




