第拾話 「浪人くずれ」
「群」と表現するのが、数多の骸に対する適切な言葉であろう。その群れが笹藪の間から無秩序に湧いてくる。
具足のぶつかるにぶい音が草擦れの音の高波の中でさらに揉まれて、ここにいる十太郎らに押し寄せてきた。
子供のような身体に腐食した具足が垂れ下がり、とってつけたような土に半分埋まっていた死人の首が据えられている。その萎びた両の手には錆びてはいるものの刀や折れた槍が握られていた。
右近は、地面についてままの大刀の刃先をほんの少しだけ持ち上げ、腰の位置からなぐようにして、笹ごと複数の骸を両断した。
「赤鬼様ぁ、さっきは力がもうないと言うのは嘘でやしたね、その気迫だけで骸が下がって、こっちの方ばかりに襲ってくるようになりやした」
「浪人くずれのお主らがけしかけたのよ!お前のその無駄口を黙らせるにはそれくらいが似合いだ」
「そいつぁ勘弁してくだせぇ、もう十分、鬼のこん棒のようなその『玄武切り』の切れ味を見せてもらっただけでもう十分でさぁ」
まだ伏したままの保知をかばいながら軽口を叩く十太郎も刀代わりの『かぶとわり』で骸の錆びた刀を腕ごと落とした。そこから流れるように九蔵の刀が骸を裂き、草むらの中にその半身を次々と蹴り飛ばしていく。
骸の波は途切れることはない。
「ここにとどまるには数が多い」
太刀を風のように振るっていた九蔵もあまりの骸のしつこさに顔をしかめた。骸の脂が刃にのり、切れ味が急激に悪くなっている。
「九蔵さんも年を経たねぇ、このくらいで音を上げるなんてぇ……」
「さっきから息が切れているお前ほどでは」
「間違いねぇ、糸の切れた凧になった気分だ……」
「十太郎、気付いているか」
「ああ、腐っていても、こいつらは猿やカワウソなんかじゃねぇ」
十太郎は初めは半信半疑であったが、切り口を確かめていくうちに確信に変わっている。
「身は人……それも……子……」
「言うまでもねぇ」
「首なしの小さき子供とは骸のことを指していたのか?」
「いや、こんな単純な仕掛けじゃねぇよ、こいつらはただの酒のつまみよ……ほら、あの赤鬼様だけでもあれだけ踏ん張れているんだ、青葉の侍が揃ったら、こんな猿もどき、ものともしないもんだろう、だが、その侍のほとんどが仏さんになっちまっているってことは……」
「早く、『ひそむ』を連れて江戸に戻るしかないか」
「さすが九蔵さん、話が早ぇ、赤鬼様は伴天連の姉さんが守るだろう、この青鬼さんは、俺が抱えていく、だが、離れるのは今じゃねぇ、旧街道に出てからだ」
「分かった、お主の変な人助けは少々呆れるが」
「いいことすりゃ、お天道さんが守ってくれるって貧乏長屋のガキどもに言ってるからな」
右近、十太郎と九蔵が骸を退けている間、伴天連の女はずっと詠唱を続けている。
(伴天連の使う技も見ておかなければ、ただの手妻ではねぇはずだ)
十太郎は彼女らの周りに骸が寄り付かないのがとても不思議であった。だが、それはもう始まっていた。
ここで鳥の目を十太郎が持っていたとしたら、さらに彼を悩ますこととなっていたであろう。
彼女らを中心に光の円の輪が徐々に波紋のように大きく拡がり地面を静かに振るわせた。




