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第八章 第十節 独りよがりの正義すら

「何故知ってる?」

「調べればすぐに分かる事をここまで隠し通せたのは、レイブンがいたからか?」

とぼけたのか、本当に知らないのかジャスティはすぐに見抜いたが、カインに事の成り行きを任せる事に彼はすぐに決めた。事情の知らない自分が下手に根堀葉堀聞くのは、かえって危険だ。

「カイン、違うそれは」

「隠したいのかもしれないが、隠せる立場で無い事も分かるだろう?」

隠し切れていない苛立ちが言葉の端々から垣間見えて、ジャスティは眉を上げた。何をそんなに焦っているのか、何を知っているのか。アーバンが仮にジャスティの読みと違っていたとしても、今それが重要な問題なのか。

「おいおい、そんなにピリピリすんなよ。暑苦しいだろ」

「暑苦しいのはお前だ」

「そりゃどうも」

 彼自身の能力を見ての発言なのか、それとも本当にそんな風に思われているのか分からず、ジャスティは拗ねた様に口を尖らせる。

「いや、ありがとう」

「感謝されてるとは思えねえよ」

 そんな彼の様子がおかしかったのか、アーバンがクスクスと笑い声を立て始め、ますますジャスティの口が尖る。

「で、カイン。どうしたって今更そんな事を気にしてるんだ?」

「関係無い」

「だって、何故知ってる? って聞き返したって事は、こいつ事実は認めて、お前の情報源を聞き出してるんだぞ。それを隠してた、だなんて責めちゃ可愛そうじゃねえか」

「なら、何故こいつは妹が行方不明になってこんなに冷静な――」

「そうだよな。いきなり訳の分からず苛立ち始めるお前よりはずっと冷静だ」

実際の所、ジャスティにはどうしてもアーバンが冷静だとは思えなかったが、カインの目にはそう見えるのだろう、と二人の慌てぶりに内心呆れかえりながら落ち着かせるように口を開いた。

「あのな。今お前らがしたいのはマリアとやらの救出だろ。それをこんな所でわーわーと喧嘩しててもしょうがねえじゃねえか」

それっきり三者が黙りこくったまま、何とも言えない空気が流れる中、ようやく冷静になったのか、カインが静かに声を発した。

「マリアは知らなかったんだな」

 寂しげに発せられた声に、アーバンも声を落として悔いるように呟いた。

「自分が王女ということも知らないんじゃないか。俺だって、知っていたとは言っても、父に一言いわれただけだ」

「で、確かめに?」

結局、何一つ出来ないままこんな事態になった事に一番悔いているのはここにいる二人ではないだろうか、と部外者ながらにジャスティは彼らを気の毒に思った。だから、次のカインの言葉に噴出してしまう自分がいたのだろう。

「すまない」

「ぷっ」

「笑ったな?」

本気で向けられている事が分かる殺意に降参のポーズを取りながら、彼はアーバンの後ろに回りこむ。盾にされた形の彼はそんな二人に挟まれて、思わず発した言葉に彼もまたカインの怒りを買った。

「仕方が無いさ。これでもまだ子供だ」

「誰がだ!」

 

「で、何でマリアが王女だったらやばいんだよ」

「王女だったら、というか」

アーバンの異世界出身者ゆえの疑問に、アーバンがどう答えようかと悩んでいる間にカインが口を挟んだ。

「元々、この世界に能力者は多くない」

「多くないっていうか、一人だろ」

ジャスティにしてみれば、聞く限りでも見た限りでもマリア一人だ。他にいるのなら当然ハムレスが見逃すはずが無い。

「正確にはな。ただ、この世界生まれの能力者はいるんだ」

「誰だよ?」

「巫女だ」

「分かった。後でまとめて質問してやるから、今はあれをどうすればいいかだけを教えてくれ」

お決まりの指示語に、彼は理解を諦めたのか、もう一つ椅子を引っ張り出して足を投げ出す。長い話になるのか、カインは立ち上がって窓を開けた。心地よい風と共に、カインの必要以上に説明じみた口調で彼の耳に届く。

「マリアの能力には不可解な点が多くて、俺も過去メイルに来たときの目的の一つがそれだった」

「さらう気だったのか?」

「本人がいなかったから、それは空振りだった。けれど」

アーバンの問いにカインはかぶりを振ってそれを否定する。そんな彼の言葉の続きが読めたのか、ジャスティが指を鳴らして後を継いだ。

「その後ひょっこり本人が再登場」

「顔も知らなかったから、他人の空似とも思った。その時はまだ自我という自我も無かったから、感想も無かったが」

「で、それとこれがどう繋がるんだ?」

「最初、誰も彼をも強制的に信仰させるのが彼女の能力だと思ってた。それでも十分協力ではあるし、利用価値もある」

それだけである意味世界最強の能力である事は間違いない事は散々考えられてきたことだ。であれば、当然話しはその先に向けられる。

「それで?」

「けれど、一向に動きの無いハムレスに疑問が出てきた。何故早く使わない? 使えばそれだけで他世界への侵攻も楽になる。死者も出ない、お金も掛からない」

「いい事だらけだな」

他の世界の惨状を知るジャスティが諸手を挙げて賛同する。もし彼女の能力がカインの言うとおりなら彼で無くても連れて行きたくなるだろう。

「今、連れ去られたんじゃないのか?」

「その可能性もある。だが、置き土産と言わんばかりのこれが分からない。一回目はまだ侵攻という目的があったようだが、今のこれはただふわふわと広がりながら進んでるだけだ」

「脅しか?」

あるいは用なしの世界を掃除したいのか、とはいえ、カノンやシンやカインがこの世界にいる今、全滅させるにはこれでもまだ足りないのだ。掃除にしても、手間が掛かりすぎる。

「だったら意思表示するんじゃないか?」

「放っておいてほしいのかね」

「こんな大々的に送り込んでおいて?」

「勝手に入ってきちゃったとか?」

「だったら、どうして大人しくしてるんだ」

アーバンとジャスティが口々に意見を出し合う中、カインは刻一刻と変化している群れに視線を向ける。

「ふわふわと広がりながら、か」

「覆い尽くす気か?」

「何ヶ月かかるんだよ」

アーバンの考えをすぐにジャスティが切り捨てる。覆い付くすにはスピードが全く足りないし、それならすでに覆われた地域には何かが発生するのが常だ。にも関わらず何も起きていないのは、狙いが別にあるからだ。

「だったら、探してるんじゃないか?」

「マリアか」

ならば、と思いつくまま呟くアーバンに、カインはモニターを見つめる視線を細める。どことなくどこかへ手を伸ばしているようにも見えるその群れが、確かに何かを探していると取れないことも無い。

「最初に戻ったじゃないか。で、許可ってなんなんだ?」

もしまだマリアの身がどこかにあるだけならば、これは早取りゲームだ。それも、一歩でも遅ければ負けが確定する容赦なしの一発勝負が。

「能力の使用許可だ。救うための」

「何だ知ってんじゃねえか。何なんだよ?」

「というより、使わせようと思えば使わせられるのか?」

ジャスティの何だ、という安心と、アーバンの懐疑を向けられたカインは、どことなく申し訳なさそうに口を開く。

「本人の意思次第だと彼は言っていた。俺も詳しくは知らないが、使うときは覚悟しろとも」

「お前が? それとも世界がか?」

「どちらもだろうな」

 強力な力ほどその発動には痛みを伴う。彼女の能力が何をこの世界にもたらすのか検討も付かないが、崩壊よりは恐らくマシだろう。

「で、どうするよ、上からは切られたんだろ?」

「何の事だ」

 あえて忘れ掛けていた事実をジャスティに掘り返され、カインの口調が低くなる。どうしようもない過去ではあるが、不思議と彼自身に後悔はなかった。ただ守れなかった自身の無力さが身にしみるだけで。

「お姫様守ろうとしたんだろ? かっこいいじゃないの、今じゃこの有様だが」

「レイブンに切られたのか?」

「そういうことだろうさ」

 ジャスティが訳知り顔にアーバンに話すが、事実はもう少し違っていたりする。ただ、それをカインがここで顔に出すことはなかった。

「どっかにいるのかね。そいつ」

 遠くでしか見た事の無い人物を思い浮かべ、ジャスティが面倒臭いなあとばかりにやる気無さ気にするが、その表情はどこか楽しんでいるように見えて、アーバンはそんな彼の様子に首を傾げた。

「いようがいまいが」

 そしてその一方、彼らに背を向けたままモニターを眺めるカインの視線は、とある一点に収められていた。恐らく彼が向かったであろう場所、いくつかの候補を潰して行くしかないが、最初に向かう場所はもう決めていた。

「見つけ出して必ず叩き潰す」

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