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第八章 第五節 始められた場所

「で、ここどこなんですか?」

 アルスが見慣れない家屋が立ち並ぶ光景を物珍しげに眺めながら、前を歩くシンに尋ねた。生活感が全くないのは、先ほどから一人も生きた人間を見ていないからだろうか。時々、人間だった何かの一部が転がっているのが見えて、フェイトが顔を背けている。

「式根島だ」

「しきねじま?」

 聞いた事のない地名だ。場所からして例のあの国の領土なのだろうが、それにしてはやけに辺りが静かだ。

「ある意味この世界の全てが始まった場所だ」

「何かあったんですか?」

 それに加えて、とアルスは先ほどから様子のおかしいシンの背中を見つめる。落ち着きがないわけではないのだが、どこか先ほどまでの余裕が感じられない。カノンが現れたから、という理由で納得できないことはないが、それでも不自然さは否めずアルスは胸の内でもやもやとしたものを抱えていた。

「ここら辺のどこかに何かあるんだろ」

「はあ」

 それ以上何かを言うのもためらわれて、アルスは空を見上げた。雲ひとつない、と言えるほどではないが、天気は快晴だ。秋になってから大分立つが、過ごしやすい気候はまだ続いていた。

「何だか寂しい所……」

「いきなり人が消えてるよね。何かあったのかな?」

 そう彼らが会話している間にも、シンの歩は迷いなく進んでいく。まるで目的地があるかの様な歩き振りに、彼らは異論を挟む余地もなくただついてくばかりだ。

「と」

 目の前の背中が止まり、シンはその顔を海の方へ向ける。が、1軒の家がその前にあるためここからは見えない。感じられるのは海からの風だけで、アルスから見れば何の面白みのない景色だ。

「シンさん?」

「もう少しだ。行くぞ」

 アルスの声で気づいたのか、それとも初めからそのタイミングで歩き出すと決めていたのか、アルスとフェイトが何かを問う間もなくその場を後にし坂道を彼は坂道を登り始めた。

「行くって、どこにですか?」

「感じるだろ?」

 と言われても、アルスには何も感じられない。この島全体がどこかこの世界とは違う気がするのは事実だが、彼の感覚ではまだそこまでだ。

「何かある」

「フェイト?」

 そんな彼に対し、隣に立つフェイトはどこか表情が暗い。どうしたのか、と問いかけてもシンと同じくはぐらかされてしまいそうな気がして、彼は問いかけたい好奇心を胸に封じ込め、歩き出した。もうすぐ、というなら答えはすぐそこにある。


「やっぱりな」

「ここ……」

 シンが自身の推測が当たった喜びをまったく感じさせない声で、ため息混じりに吐き出した。その隣でフェイトが鼻をつまみ、目を閉じる。

「大丈夫か?」

「はい、何とか」

「臭いの?」

 シンの声に何とか頷きを返すフェイトだが、やはりその表情は暗い。隣で心配するアルスに気丈な笑みを返して、

「大量の血の匂いだろ」

「血? 戦争でもあったんですか?」

 そこまでの流血騒ぎ、となると彼には戦争という単語しか浮かばない。こんなちっぽけな島のどこに争う理由があるのか、彼にはさっぱりだったが。

「少し違うな」

 さすがに次の目的地はアルスにも簡単に分かり、彼も迷わずシンと同じ方向に歩を向ける。何かの建造物の隣にこぢんまりとした、それでいて大事に扱われていることが分かる、

倉庫を限りなく小さくした感じの様な物がある。

「何か入ってるんですか?」

「何も無い。今はな」

 そう言ってシンがそれに手をかけた瞬間、彼の手は見えない何かに弾かれ、彼の体はそれと合わせて一、二歩後ろへ下がる。

「弾かれた!?」

「アルス、触れるか?」

「また凄い事をさらりと言いますね」

 そう文句をぶつぶつ言いながらも、アルスは素直に手をそれにかける。自分がやらなければ次に誰が対象となるかなど考えて見なくても明白で、アルスはそこまで読み取られている自分の行動心理に呆れながら、扉を思い切り開いた。

「何もありませんけど?」

「空っぽ?」

 アルスがまず中を見て拍子抜けし、変わって中を覗き込むフェイトも彼と同じような表情でシンを振り返る。

「だろうな」

「だろうなって、初めから分かってたんですか?」

 何も無い物を見るためにここまで来た、では意味が無い。ここまで歩いて収穫はそれだけかと落胆するアルスに、シンはぽつぽつと口を開く。

「ここ、とあそこか」

「何がですか?」

「ここにあるべき物の居場所が分からなくてな」

 確かによく見れば、その箱の中に何かはある。用途がイマイチよく分からないが、おそらく重要なものなのだろう。

「あるべきもの? 何ですか」

「鏡だ。ただ普通の物ではどう考えても無いけどな」

「ざっと大きさとか色とか教えて下さい」

 何故か自身ありげに微笑むアルスにフェイトとシンは顔を見合わせ、ただ言われるがままに頷いた。


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