第八章 第四節 やはり無能
「何か来る?」
「策的範囲はあなたの方が広いみたいね」
リースが何かの反応に気付き、顔を上げた。隣で見張るように立っていたライトはその反応に、少し悔しそうに苦笑を示した。
「この調子だと後五分もしないうちに来るけど……何かよく分からない」
「ああ、あの子たち」
リースが顔を顰める横で、ライトもようやくその反応を捕らえたのか顔を明るくして、カノンの方を振り返った。
「だろうね。三人くっついてるの?」
「みたい」
後ろで壁にもたれ掛かっていたカノンはその腰を上げ、翼を開く。自身の気配を彼らに晒して、確実に自分たちの元にまで来させるためだ。
「多分戦闘意欲全開で来るだろうから、よろしく」
カノンと彼らの全開の邂逅は、最悪の形で始まり最悪の形で終わっている。流石にここであの時の続きを行う気はさらさらなかったが、相手にとってはそんな事は関係ないだろう。
「人任せ!?」
「何したの? カノン」
二人の強い視線に何故か彼は不機嫌そうな表情でぷいと視線をそむけたかと思うと、そのまま、また元の位置に座って目を閉じ、一言だけ発した。
「無能だし。僕」
「拗ねた」
「拗ねたね」
「拗ねてない!」
空しい叫びが、狭い島中に響き渡った。
「カノン!?」
「分かるの?」
「まあ、うん」
一方、未だ飛行を続けていたシンだったが、流石の彼でもスピードダウンは否めず対してスピードは出ていない。そんな折、アルスが今一番聞きたくない名前を突然出した事により、彼らの間に緊張が走る。
「不味いな……」
まだシンはカノンの気配は認めていなかったが、この状態で戦えば瞬殺されるのがオチだ。アルスとフェイトを見捨てればまだ戦えてもそれでは意味がない。
「何とかしたいな」
シンが飛行を止めてその場に漂う。どこか他の所に立ち寄ってアルスとフェイトを降ろしたい所だが、カノンは既にこちらに気付いているという最悪の状況も考慮したほうがいい。
「どうします?」
「このまま行っても――」
「アルス」
アルスとフェイトが心配そうな顔でシンの様子を伺う。と、シンが何かを思い立ったように、再び前進を開始した。
「はい?」
「無理でもやって欲しい事がある」
「また凄いお願いの仕方ですね」
面食らうアルスに、シンはどこか意地悪げな表情でにやりと微笑んだ。
「死にたくないならな」
「来た」
そして五分後、リースとライトは肉眼に確認できるまでに近づいてきた物体を見て思わず両者目を合わせた。
「球?」
見えてきたのは三つの球体で、彼女たち二人は見覚えのないそれに首を傾げる。
「逃げたのか……」
「カノン?」
何故か肩を落としている彼の傍らに三つの球体は近づいて行ったかと思うと、そこでそれらはすうっと姿を消した。
「カノン?」
「アルスだね、これは。どうする気なのかな?」
体内に入ったように見えて声をかえるライトに、カノンは心底不思議だという顔をして疑問を発した。
「気配だけ?」
「だろうけど、ここに来てくれないと話しが進まないんだけどなあ」
「何で逃げたのさ?」
まさか最初から律儀にこれだけが飛んできた訳ではないだろう。カノンに気付いてから慌てて対抗策を考えたのだろうが、その理由がカノンにはさっぱり分からなかった。
「僕の気配を感じたから、かなあ」
「逃げると思わなかったの?」
ここまでの拒否反応を相手が示したという事は、と推定したライトの批判にも、カノンはさっぱり分からないといった表情で首を振った。
「強い奴がいたら挑みに来るでしょ?」
そして再び彼女たちからため息と共に、言葉が漏れた。
「やっぱり無能だ」




