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第七章 第七節 今も ここで

「何か怖いね」

 そうフェイトが言って自身の身を竦める。本来なら有り得ない感覚に彼女自身戸惑いながらも、初めて感じた感覚は錯覚ではない。

「そう? 別にそうとも思わないけど」

 少なくとも外のような寒さは感じない。アルスからすれば突然そんな事を言い出したフェイトの気持ちが良く分からなかった。

「気のせいだよ」

「とは思うんだけど」

 一階からの階段を昇って行くと、広い部屋が彼らを迎えた。武器庫や宿舎は併設されているため、一見他の省庁と何ら変わらなくも見えるが、セキュリティは他の比ではない。

「どの機械も生きてない」

 アルスが一通りパソコンを見て、諦めの息を漏らす。後上にあるのは各課の事務室やら倉庫やらだが、そこにあるのはこの世界の機密情報ばかりで肝心の他世界の情報に付いては皆無だ。

「それでも何かあるかも」

「いや。ハムレスは基本紙は使わない。全部メールか電子媒体の彼ら特有の機械を用いて

送ってくるようにしてるから」

 証拠を残さないためでもあったし、何よりそんな事に資源を使うくらいなら他の物に使ったほうがマシだという考えが既に彼らに染み付いていることが原因だが、今の現状においては少々まずい状況だった。

「カノンがこの国に入ってから誰かがすぐに消したのかな」

「でも、一分とかかってないんだよね?」

 当然攻め込まれればそういった情報を消されると判断したルーク達はカノンに速攻を命じて、彼もそれに応えた。気配を消して一気に攻め落とした彼の後、カノンはすぐに乗り込んだものの、データを見たという報告はなかった。

「というより、普通のに調べても分からない所にあるんじゃないかな。自白剤使っても政

府の人間は口を割ってないみたいだし、ひょっとしたら政府や軍は何も知らないのか乗せられただけかも」

「宣戦布告までして?」

 軍以外で機密情報を持つことのできる人物は限られる。アルスの頭に様々な人物が現れては消え最後に一人の候補が残った。

「他にそんなことができそうなのは」

「王家かな」

 どうやらフェイトも同じ考えに至ったらしい。今はもう権力を失って入るものの、カノンやアーバンが会いに言っている事を考えれば、もう候補はそこしか残っていない。

「そんなに遠くはないね」

 バスが出ているとは思えないが、そんなものは関係ない。少々彼にとっては恥ずかしいが、フェイトがアルスを背負っていけば時間は早い。

「じゃ、行くね」

「誰にも会わない事を願うよ……」

 少々気後れしながらもアルスはフェイトに体を預け、彼女は走り出した。


「アーバンですが」

「始めまして。白谷というものだが」

 電話だ、と連絡を受けアーバンが受話器を取ると、見知らぬ男性の声が聞こえてきて彼は眉をひそめた。

「はあ」

「カインと一緒にメイルへ行ったそうですね」

「ええ」

 どうやら用件はこれらしい。彼にも当然彼らの失踪のニュースやメイル王国の現在は知っていたが、彼自身関係者ではないかと疑われ、謹慎中の身だ。

「何をお話したか、お聞かせ願えますか?」

「調書でよけれなロイヤルナイツに問い合わせれば貰えますよ」

 もう何度も受けた質問にうんざりしながら彼は応えた。レイブンもマリアもどこかへ消えた今になってもなお、ロイヤルナイツの軍事力は健在だ。この世界の民も最初は混乱していたが、今では何ごともなかったように暮らしている。正直まだまだ混乱が続くと思っていた彼にとっては拍子抜けする展開だ。

「いえ、読ませていただいたのですがね。少し引っかかりまして」

「何か?」

「許可って、本当に何か分かりませんか?」

 やはり、とアーバンは予想通りの質問に何度となく使ってきた言葉をここでも使った。そんな事はロイヤルナイツからも何度となくされてきたが、彼にも心当たりなどなかった。

「いえ、それに関しては本当に」

「思い当たることも?」

「ええ」

 少しの時間が過ぎて、受話器の向こうから落胆の息が漏れてきた気がした。

「分かりました。また何かありましたらこちらの番号に」

 最後にそういって彼は受話器を置いて、アーバンは息を吐いた。尋問に告ぐ尋問で体は疲れていたが、彼も知りたかった。

「どこにいるんだよ? お前」


「綺麗」

「これなんだろう?」

 それから程なくして、アルス達は王宮前に辿り着いていた。彼らが着いたときには既にひかりは到着しており、二人で王宮の周囲にある美術品を見て楽しんでいる。

「行くよ」

 予想通りとでもいうべきか、ここにも人一人どころか何かが動く気配もなかった。がらんとした王宮内に踏み入れた彼は、ここでとある事実に気付いた。

「ねえ、王は今どこにいるか知ってる?」

「どこだろ? 知ってる?」

「一般人に混じってるとか?」

 ひかりとフェイトが気にするわけもなく、ロイヤルナイツやハムレスは捜索しているはずだが、そんな報告はどこからも受けていない。

「何でだ?」

「探してみよ」

 考える時間も惜しい現状では、行動は思考に勝る。ひかりとフェイトが動き出す中、アルスはいつもの様に球体を周囲に展開し、王宮内に散らした。

「生きている気配は全てあぶりだせ」

 シンほどの感知能力を持たない彼らにこの建物内全てを探すのは物理的に無理がある。どこに隠し扉があるか分からないし、もしかしたら今もまだこの中にいるかもしれない。

「見つけた」

 程なくして、彼に一つの知らせが飛んできた。送られてきた情報を脳内で開示すると、意外にも目的の部屋はここだった。

「入り口のホールに?」

 とはいえ、彼が見渡した所で何もない。確かに場所はここだが、まだ何かし掛けがあるらしい。

「これかな?」

 その球の軌道を追うと、すぐに壁に当たった。一見何もなさそうには見えるが、間違いなくこの向こうか下には空間がある。壊すか何とか仕掛けを解くか、考えている間に目の前の壁は吹き飛んだ。

「フェイト……」

「駄目だった?」

「フェイトちゃん凄い」

 どうやら考えがそのまま口に出ていたようで、驚きに固まっている彼の顔をフェイトは心配そうに覗きこむ。その後ろで素直に賞賛の言葉を送るひかりといい、貴重な文化財の一部を簡単に壊した事に対する後ろめたさが彼に残った。

「どうするのさ。これ」


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