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第六章 第九節 REBIRTH

「私達だけ?」

 いつものフェイニータル屋上のヘリポート、見渡す限り青空が続く空の下、何故かリースの顔は晴れなかった。青の髪がよく映えてはいたものの、その口調は低い。

「みたいだな。あのちびっ子さん達は待機らしいぜ」

「ふうん。まあ、大勢で行っても意味無いか」

「勉強させてもいいのにな」

 そんな彼女の様子に構うことなくジャスティは上機嫌だった。何より久々の実戦と言う事が彼の気持ちを高揚させていた。

「あんたの戦い方のどこが参考になるんだか」

「ふん。俺も遊んでたわけじゃないんだぜ」

「はいはい。そういう台詞は私に勝ってから言いましょうねえ」

 気張るジャスティに冷めた視線を送りつつ、リースは目の前の任務にだけ集中した。これからまだ戦いは長い。問い詰める時間はいくらでもあるだろう。

「行くしかない」

 青の瞳は青を映し、彼らは空に消えた。


「ここ?」

「らしい」

 リースが見覚えのある光景に目を細め、ジャスティは手渡された地図と自身の中のデータをざっと参照して答えた。いつぞや、カインと彼女が交戦した場所。意識して探してみればあの戦いの後はまだ微かに残っていた。

「どうした?」

「何でも無いよ」

 ハムレスにとってこの場所は迎撃に丁度いい場所なのだろう。こちらは後は敵がのこのこ現れるのを黙って待って迎撃すればいいだけだ。

「百人か、二百人か、はたまた千人か」

「一億連れてきたって結果は変わらないけどね」

「まあな」

 そうこう言っている内に、彼らの後ろから人影が一つ現れた。気付いていた彼らが何の警戒もしなかったのは、単に彼が、よく知る関係だったからに過ぎなかった。

「ああ、確かに優秀な人材を失くすのは惜しいな」

「あ?」

 気づいた時、彼の体の右側頭部の一部が削られ中身が機械仕掛けの中身が露になる。幸いにも中心部から大いに逸れていたため致命傷にはならなかったが、体勢を崩すには充分な一撃だった。

「キュラス!」

 いち早く事態に気付いたリースがジャスティを抱えキュラスから飛び退る。距離を取ってジャスティが全身から発火させ、文字通り燃え上がる。

「味な真似してくれんじゃねーか」

「違うな」

「いると思った」

 キュラスと対になる位置からカインが姿を現し、リースはようやく状況を飲み込んでため息をついた。

「あの件か?」

 ジャスティもようやく自分たちがどのような立場に置かれたのか理解したようで、しきりに頭を掻いて、天を仰いだ。

「知る必要は無い」

「つれないな、キュラス」

 燃え盛る炎が一直線に彼の元に向かうも、彼に届く遥か前方でカインが立ちふさがりトライデントによって炎が遮られる。

「逃げろ」

 炎を放ち続けたまま、彼は後ろにいるリースに後ろを指した。視界が遮られている以上、逃げる事は可能ではあったが、すぐに彼らに追いつかれる事は目に見えていた。

「無理無理。処刑の対象なんでしょ?」

 キュラスはともかく、問題なのは今目の前で彼の炎を食い止めている男だった。二人がかりで勝てるかという相手だ。キュラスと二人で来られれば逃げる事も叶わない。

「でも、だ。ティスに会えなくなるぜ」

「仕方ないよ。そういう世界だし」

 会いたくないわけではないが、常に死と隣り合わせの世界だ。というより、彼女たちにそんな概念が当てはまるかどうかも怪しい。覚悟はあるし用済みとなれば捨てられるのは最初から分かりきっていた。現に、彼女もこれまで葬ってきた数は百を下らない。

「違う。このままお前が死んだらあいつも死ぬぜ」

「どういうこと?」

「さあな。俺にはちいと、この世界は広すぎる」

 ジャスティが火力を上げ、辺りの木々に火が移り始めた。このままでは一面焼け野原となり、カインを除く三名にとっては厄介な事態となる。

「どこにいるの?」

「知らん。処刑対象に教えてくれるほど相手もお人好しじゃないさ」

「ジャスティ」

「変な顔をするな。この世界で頼りになりそうなの――」

 炎がふいに止み、あたりが君が悪くなるほどの静けさを帯びる。炎をがあちらこちらで延焼しているはずにも関わらず、彼らは時が止まったかのように動けなくなった。

「何?」

「なん――」

 カインとキュラスの反応はこちかからでは読み取れない。リースとジャスティもかろうじて声を発するのがやっとの状況の中、周囲をまばゆい光が包み、そして誰もいなくなった。


 中庭の扉が開かれる。彼女の許可を得ずしてこの扉を開ける権限があるのはレイブンだけだが、この日だけはシンもその権限を臨時に譲渡してもらっていた。

「どちら様ですか?」

「あいつの使いだ」

 そう言ってシンは身分証明書代わりに翼を開く。案の上、マリアは警戒を解いてこちらに駆け寄ってきた。

「カインのですか?」

「ついて来い」

 目も合わせること無く、言葉少なに彼女に背を向けた彼の後ろを彼女はとことこと小走りでついて来る。力を持つとはいってもカインの今の状況を考えれば、あまり直接関わらないほうが得策だった。何より、ああはなりたくないという恐怖がシンの歩調を速めていた。

「上、ですか?」

 普段急激な運動はしないのだろう。階段を上る音が段々とゆっくりになっていき、ついには止まった。

「後少しだ」

「はい」

 シンはそんな彼女に構わず屋上への扉を開き外に出た。思ったより風が強かったがヘリの飛行への影響は無いだろう。

「乗るぞ」

 あまりこういう人からこういう対応に慣れていないのか、シンの言葉に彼女はただいわれるがままに黙ってヘリに乗り込んだ。ぞんざいな態度を取り続ける彼に、パイロットが鋭い視線を投げかけてきたが、彼はそんなものを気にすること無く無造作に足を組んで発進を促した。

「よろしくお願いします」

 ペコリと頭を下げた瞬間、若干揺れたような気もしたが、不機嫌な少年と上機嫌の聖女を乗せたヘリは目的地へと飛び立った。


「空気がきれいですね」

 ヘリが降りたち、待機すると言い張ったパイロットを強引に追い返したシンは目を閉じて辺りの気配を探る。と、そう離れていない所に六つほどの気配を見つけ、シンはマリアについて来るよう合図を出して歩き出した。

「いるんですか?」

「いるだろうさ」

 明確に名前まで分かるのはリース、ジャスティの二名。カインとキュラスは気配は隠してはいるものの、その存在は彼には筒抜けだった。そして少し離れた位置にルーク。戦力的に一段落ちるからか前衛ではなく、いざという時の補助か連絡役だろう。もう一つの気配の居場所がいまひとつ掴めなかったが、どうせ近づいていけばその正体もはっきりするだろう。

「熱い?」

 前方から熱気が伝わってくると同時に、体に違和感があった。足が何かに引っ張られているような感覚が熱風と共に伝わってくる。何とか足を踏み出すものの、全力疾走しているかの様に、彼の息は荒かった。

「カイン!」

 意識が飛びかける中、マリアの声にシンは我に返り前を見やる。

「あいつ……?」

 どう見ても様子がおかしかった。対して向こう側にいるリースやジャスティ、すぐそこにいるキュラスにおかしな所は見受けられない。何より、カイン一人で彼らは充分なはずにも関わらず、相手の攻撃を食い止めるだけで精一杯という状況が何より異常だ。

「ん?」

 カインの膝が震え出し、トライデントが炎に押され始めた。援護しようとキュラスが改めて攻撃の体勢を取った瞬間、炎が止んだ。

「カ…」

 突然光に包まれ、シンは視界を遮られながらも必死に周りの気配を探る。何も感じられない空間を必死に掻き分けた先に、何かが見えたかと思うとそれは姿を消し、彼の視界も真っ白になった。


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