第五章 第六節 集う者
「どういうつもり?」
ついさっきまで彼女が乗っていた車にシンが加わる形で、車は空港まで走行していた。シンと初対面のアルスとフェイトは話しについていけず、実質リースとシンの一対一となっていた。
「何でカインが出たんだ?」
「聞いてどうするの?」
「何が行方不明になったか、知らないのか?」
リースの耳にその者の名は確かに聞こえてはいたが、それとカインの関係性までは把握していなかった。何より彼のそう長くは無いはずの過去のほとんどが謎だ。出来る限りの情報は引き出したいところだった。
「返答次第では、答えなくも無いけど」
「カノン。知ってるか?」
「名前は、一応」
リースが警戒しているのを感じ取ったのか、アルスが遠慮がちに答えを発した。何の方向性も見えない二人の会話は水面下で激しさを増していた。
「それで? あんたが何を知ってる?」
「フェイニータルに能力者が集まってる。ここにいる三人もそうだし、もう一人ハムレス
に増えるかもしれない」
「フェイニータルが完全にハムレスの傘下に納まるかもしれないね」
まだシンの目的が何か分からなかった。大体、カノンが行方不明ならばこの男がこんな所で呑気に会話に花を咲かせていい筈が無い。
「それでいいって多分あいつは考えてない」
「あいつなら、そう言いそうだ」
カインの目的は恐らくマリアを守る事、それだけだろう。彼女の能力の詳細を知っているわけではないが、ハムレスが当然狙ってくる事は誰の目にも明らかだ。カノンが不明ならばとりあえず様子を見に行くのは当然といえば当然の事だった。
「知らないだろうから教えておくが、今のカノンは危険だ。かなり」
「何かしたの?」
「いい様に動かされた挙句、再調整。不機嫌にもなるだろ」
「大丈夫かな」
「さあな。それより問題なのはこっちだ」
「探しに行かなくていいんですか?」
「上が協議中だ。直に命令が降りるんだろうさ」
「私達も?」
「他にいるか?」
「その為にわざわざ?」
「フェイト」
「は、はい?」
名前を呼ばれたフェイトがワンテンポ遅れて返事を返す。突然話題を振られた彼女が何を言われるのかと身構えた矢先、意外な質問が飛んできた。
「カインに会ったか?」
「はい」
「どんな反応してた? あいつ」
今度はきちんと返したフェイトに対する問いに、リースが怪訝な顔で反応した。
「知ってるの?」
「知りたいか?」
「変な態度されても困るしね。フェイトも」
長い付き合いでもないが、あの表情が普段と違う事くらいは彼女も分かっていた。その後時間が無かったため質問する時間も無かったが、知る人物がいるなら好都合だった。
「式根島でのデータも見たし、これからの予定も大体は聞いた。ハムレスはフェイニータルを味方に付けて、本部に喧嘩を売りたいらしい」
「またハムレスに喧嘩売るの? セイバーズ知らないわけ?」
「知ってるだろうさ」
「無理だね、あんた達が仮に一致団結しても無理。何か起死回生の策でも無い限り」
「それだ」
「はあ?」
「何でそんなにこだわる? 何か特別なものでもあるのか?」
断定的にいい放った彼女の言葉はシンの言葉に遮られる。何を指摘されたかも分からず馬鹿にしたような目つきで彼を見つめるリースに、シンはようやく本題に入った。
「そんなに異常なんですか?」
「どっかの組織の拠点でもない世界に能力者が複数いる事事態が奇跡だ」
「良く調べてるね」
アルスの純粋な問いにすらすらと答えたシンに、リースが少しだけ彼を見る目を変えた。まだまだ幼さの残る口調と態度だが、彼なりによく調べているらしい。
「ならこの世界にあって他の世界に無い物を探したほうが手っ取り早い」
「マリア様って言いたいの? 確かに珍しいけど、いないわけじゃないよ、聖女っていうのは」
「能力は?」
「無いけどね」
ハムレスが把握して入る世界の内この様な宗教が大多数に認められ信仰され、なおかつその少女の能力は判明していないにもかかわらず、これだけの能力者が集まるというのは、この世界を置いて他には存在しない。
「狙いはどう考えても彼女だろ? だったら」
「消す気?」
「他に方法があるなら教えてくれ」
ようやく本題に入ったシンにアルスとフェイトがあからさまな敵意を見せた。そんな事をすれば本当に世界は終わる。心のより所を失ったこの世界の住民の果てなど、考えたくも無かった。
「そんなに干渉が嫌?」
「なーんてな、冗談だ」
もう空港は目の前だ。話しの終わりも近づく中、シンは最後にこれからをの予測を告げた。もしその時が来れば使われるのはマリアだけではない。一人の少女の姿も頭にちらつく中、シンは最後の希望を彼に託していた。
「ただ、もしハムレスがそのマリア様とやらを使う気になった時、あいつどうすると思う?」
あいつが誰を指しているのかは分かりきっていた。黙りこくる彼らにシンが次なる言葉を放とうとして時、リースが鋭く言葉を返した。
「その時どっちの味方に付くかは」
「ハムレスに決まってる」
「なら、それでいいさ」
シンがいい終わるのと同時に車が停止し、シンはドアを開いた。空港の入り口でルークが不機嫌そうな顔をして立っているのがこちらからでも分かった。
「カインだった」
シンが手短に分かった事を報告する。未だどこかと連絡を取り合っているルークは、その言葉を聞いてどこかに何かを報告した。
「分かってる。出れるか?」
「あいつらはどうする?」
その問いにルークは当然だと言わんばかりに頷き、短く告げた。
「勿論、働いて貰う」