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第五章 第二節 現実の中で

「ここからルーデまで二時間以上かかる。身を休めておけ」

「相当きつそうだったもんねえ」

「黙れ」

本来ならハンドルがついているはずのシートには速度や燃料残量を示すメーターが各種ついているだけで、広々とした空間が構成されていた。車内が一つの部屋の様になっており、車の中だと言う事を乗者に感じさせない作りとなっている。

車内をぐるりと取り囲むように設置されているシートの四方にそれぞれが座り、改めて先ほど手渡された書類に目をやる。

「この入領許可証だ」

「無かったらどうなるんですか?」

「切られる」

「げっ!」

 アルスが何気なく発した質問の答えに、アルスが突然仰々しくなるのにリースが噴出した。

「大丈夫だよ。パスポートみたいなものだから。……だよね?」

「無論だ」

「真面目だねえ」

 リースの問いに当然の如く頷いた流星は、懐から携帯電話を取り出しどこかと会話を始めた。現地の言葉に切り替えた為か、異世界に渡った経験のあるカインやリースは素早くその言葉に対応したが、アルスの耳には何が何だか分からない。

「何話してるんですか?」

「私達の宿泊先かな? ルーデってめんどくさそう」

「外からの来訪者に敏感になるのは仕方ない」

 電話のやり取りは恐らくホテルからだろう。先ほどから人数や設備などを確認するやり取りが続いている。

「分かってるけどね」

「決まりですから仕方がないです」

 両者が納得の表情を見せ、間もなく通話が終了した。

「聞いての通りだ」

「どこ?」

 リースがアルスの為の通訳も兼ねて電話の詳細を尋ねる。西に行けば行くほど陽が沈むのも遅くなっていく。まだまだ陽は高かったが、彼らの感覚からしてみればもう夜だった。

「ルーデからすぐの所だ。夜の内に手続きは済ませておく」

「そりゃありがたい」

 整備された道路を車は走っていく。周囲に建物は無く、現在の白吏の衰退振りを如実に示していた。

「ハムレスが来る前からだ」

「こんな風になったの?」

 リースの視線に気付いたのだろう、独白の様に流星が呟いた。何も無い岩だらけの大地は、中心部から離れた途端地平線の向こうまでずっと続いていた。

「元々遊牧民族だ。近代化などは無縁の話だ」

「でも、あなたは元々ハムレスの人間では?」

 アルスの問いに答えるの彼は、少しだけ苦虫を噛み潰すような表情で細い目を更に細める。

「出身はこの世界、血も白吏だ」

「実験台か?」

「似たようなものだな」

 カインが推測にお互い苦笑を交わしあっているうちに、機会音声は目的地が近い事を告げた。

「少し早いが、お前達には丁度いいだろう」

「ふぇすね」

 アルスが欠伸しながら車を降りていく。頭はそれ相応の頭脳を誇るのだろうが、体は完全に人のそれだ。長時間の移動は厳しいだろう。

「疲れたかな?」

「少し。部屋あいてますか?」

「204号室だ」

「ありがとうございます」

 リースの問いかけに伸びをしながらアルスは宿へと向かって行く。

「外出は禁止されているわけではないが、あまり遠くへは行くな」

「ああ」

 再び車に乗り込み去っていく車を見送ってから、カインは目前の建物を見つめた。場違いのように建つそのホテルはどこの都市と比べても遜色の無いものだ。

「何でこんなもの建てたんだろうね」

 カインの傍らに立ったリースがホテルを見上げ呟く。

「ルーデに宿泊施設が無いんだろう。あそこは特化しすぎている」

「私の部品も作ってるのかな」

「さあな」

「工場見学とか」

「勝手にやってろ」

「冷たいねえ、デートなのに」

「子連れで、か?」

「そこはほら、色々と妄想も際立つというか」

「良かったな」

「って、ちょっと! って、あ!」

「どうした?」

 すたすたとホテル内に入って行こうとするカインに、リースが何か不味い物を思い出したかの様に慌ててホテル内へと入って行く。事件かと思い慌てて駆け込んだカインの目に、半泣き状態のアルスが目に入った。

「言葉が、通じなくて」

「はいはい、私がチェックインするから」

 手を繋いで黙ってリースの後ろについて行くアルス達の姿を見て、カインは思わず額に手を当てて嘆いた。

「何で国際言語に対応して無いんだ」


「落ち着いたね」

「お前も自分の部屋に戻れ。ここに反フェイニータル組織が無いわけじゃない」

 小奇麗な部屋のベッドにリースは腰を下ろした。三人にはそれぞれ個室が与えられ、アルスは真っ先に自分の部屋のベッドに潜り込んだ。力を持っているとはいってもまだ子供だ。かく言うカインも正直この長旅に疲れていた。

「まさか、こんな所で来る?」

「それはそうだが」

 壁にもたれ掛ったまま警戒を崩さないカインに、リースがやれやれといった顔で微笑む。

「どんな子だろうねえ? っと」

「興味無いな」

 リースが手を伸ばしてテレビのスイッチを入れた。ここではルーデの番組も白吏の番組も映る為、情報収集には最適だった。

「ある程度は知ってるけど、やっぱり来てみなくちゃ分からない事も多いしね」

 画面に映っているのは現在の白吏の経済指数を表すグラフだった。特に主だった産業を持たず、武力も無い民族が治めているにも関わらずこの広い領土が放っておかれているのは、特に資源も何も存在しない事に他ならない。

「うーん。大した事無い、かな」

「このまま放っておいたら、二十年も立てば白吏の土地は全てルーデに買収されるだろうな。元々そうやって始まった都市だ。何も不思議な事じゃない」

「まあ、ねえ」

複雑そうな表情でリースは頷いた。弱肉強食の言葉そのままに、白吏はルーデに食べられていた。ほんの三十年前に始まったこの都市は、みるみる内に彼らの領土を侵食していった。後にはフェイニータルが顔を出し、ハムレスも顔を出し、そのスピードは衰えるどころかスピードを増していた。

「現にあの男のように実験台にもされる有様だ。無駄だろうな」

「無駄」

「どうした?」

「潰されるしかないのかなあ」

 それは白吏の事を思ったのか、それとも何かが彼女の胸を去来したのか、また自らも苦い記憶が思い起こされ、彼は俯き小さく声を漏らした。

「それも、今更だ」


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