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第一章 第四節 もう一つの

「入ります」

「どうぞ」

 フェイトはある一室に案内されていた。ここまで連れてきた研究員は入り口まで彼女を連れてきた後どこかへ立ち去って行き、彼女は一人ドアをノックして入室の許可を求めた。

 返ってきた柔らかな男の子の声を耳にして彼女は部屋に入った。カイン達の部屋とさほど変わらない広さの空間に三人の子供達がいた。一人はさきほど応対したと思われる、柔らかな風貌をした少年。今も如際無くこちらに寄ってきて握手を求めてきた。

「こんにちは」

「ああ、うん」

 答えになっていない返事をしながら彼女は他の二人にも視線を向ける。一人は勝気そうな赤い瞳に真っ黒な髪を持つ、今目の前にいる少年とさほど変わらない背格好をした少年。

 もう一人はピンク色の髪に優しげな瞳を持つ少女の姿があった。

「僕はルーク、あっちの彼はシン。それから彼女はルナっていいます」

「フェイトといいます」

「ええ、お話は窺っています。こちらへ」

 彼女はそのままルークに手を取られ、彼女は三人に取り囲まれる形で座る。

「私達の事知ってるの?」

「はい、先日黒部さんに聞きまして」

「黒部さん?」

「僕達のお世話をしてくれている人です。お会いしませんでしたか?」

「ううん」

「とても優しい人ですから。きっと仲良くなれますよ」

「それで、ルーク君達はここで何を?」

「ここの運営のお手伝いを。僕達皆親に捨てられたらしくて、黒部さんに拾われてここの施設の運営のお手伝いをしているんです」

 運営に携わっている、という話を聞いてフェイトは内心歓喜の声をあげた。やっと情報を得られそうな人間が現れた事で、彼女の言葉にも自然と力が入る。

「ここってどんな事してるの?」

「主に世界の紛争地域の鎮圧、とは聞いています。実際に鎮圧するのが誰かまでは知りませんけれど」

「私達は何のためにここに?」

「それにお答えするための情報を僕らは持っていません。ただ」

 気落ちしかけた彼女の気持ちが再び浮上する。ルークは少し考え込むように顎に手を当てて何かを思い出すような仕草を取る。

「ただ?」

 急かすように言葉を重ねるフェイトにルークは少しの間を置いた後、口を開いた。

「終わりが近いと言っていました。黒部さんは」

「終わり?」

「人間滅ぼしたりしてな。一層の事」

ここでシンが初めて口を開いた。ぶっきらぼうな口調の中にどこかフェイトに対する照れも見えてフェイトは微笑んだ。その笑みに慌てて視線を逸らしたシンにルナとルークはそれぞれがやれやれと肩を竦めた。

「そういう考えに行きつく所がシンらしいけど」

「それは賛成したくないなあ」

「終わり? その為に私達が?」

自分に特別な何かがあると彼女は思っていない。つまり他の三人に何かあるということだ。

「と、言うよりカインでしたか、あの少年が鍵を握っているみたいで」

「カインが?」

 さらに詳しく話を聞こうと口を開きかけた彼女を制するようにルークは手で待ったのポーズを作った。

「帰ってきたら僕らも挨拶にいきますから」

「う、うん」

「後で」

「分かった」

 そのまま部屋を出ると待ち構えていた研究員に連れられ彼女はまた別の部屋へと通される。

「次はここだ」

「入れ」

 外の声が聞こえていたのか中から男の声がしてフェイトは言われた通り中に入る。

「フェイトです」

 彼女を出迎えたのは若い男性だった。他の者と同じように白衣を身につけていたが、どこか退廃的な空気を持つ彼は歪んだ笑みを眼鏡越しに彼女の方へと向けた。

「知っている。よくできたロボットだろう?」

「ハムレスですか?」

 自分の正体を知っている事には驚くことも無く彼女は事実だけを彼に求める。彼は低く笑い声を漏らしながら答えた。

「いいや、この世界の住人だ」

「何の御用ですか?」

 何の抑揚もない声で質問を重ねる彼女にあくまでもその笑みを崩さないまま彼は彼女の心を読んでいるかのように発言する。

「気にならないか? さっきルークが言っていただろう? 黒部さんが終わりと言っていたと」

「盗聴ですか」

「彼らに人権などありはしない」

「どこまでも最低なんですね」

 彼女の非難にも何ら動じる事無く彼は話しを続けていく。

「気にならないか?」

「終わりが?」

「そう、終わりだ」

「いいえ」

 きっぱりと否定した彼女に対し彼は懐疑そうな視線を向ける。フェイトはその目に向かって、自身の持論を展開する。

「何故だ?」

「終わりなんてありませんから。何かがまだ始まるだけです」

「君らしい答えがだが、終わるんだよ、本当に」

 何故か自身を持って発せられる彼の言葉に流石のフェイトも気になりその目的を尋ねる。が、彼の答えは曖昧その物だった。

「何をする気ですか?」

「一週間後、いや、最初は六日後だな。終わりの始まりがやってくる。その後全てがドカンと、雲散霧消する事になる」

「貴方も?」

「どうだろうねえ。さあ、もう行くといい。カイン達のお戻りだ。ルーク達も少しはそっちの部屋に行かせるようにするから」

「ちょっとそれだ―」

 まだ問い詰めようとした彼女の肩を後ろから研究員が掴んだ。自身の力の無さを悔いながらも彼女は彼に捨て台詞を残した。

「絶対にカインはあんた達の思いどおりにはならない!」

 彼女が去った後の部屋、彼は一人答えた。

「別にカインなんてどうだっていいさ。カインはね」


「ただいま」

「おかえり」

 部屋に戻るとカイン達は既に戻ってきていた。とりあえず元気そうな事に彼女は一先ず安堵し、今日あった出来事の説明をリューエに求めた。

「カインが凄かったんだよ。本当に」

「何したの?」

「あっさりと敵を全滅させた」

 リューエが自慢するかの様に告げる言葉にフェイトは嫌な予感がしてカインの方に視線を向けた。口を開きかけたカインに変わってカイがその事実を淡々と告げた。先ほどの罰の悪さからくる照れ隠しのような物だったが、フェイトはその事実を聞いて顔を曇らせた。

「そう…」

「どうしたの?」

 顔を俯かせた彼女を思いやるように声をかけたリューエに一応の笑顔を作って彼女が答えた瞬間、カインが口を開いた。

「ううん、何でも―」

「守るためだ」

「え?」

「殺されると思った。カイもリューエも俺も。だから殺した。それだけだ」

「カイン?」

 驚いたのはその聞いた事も無い口調よりも、その瞳だった。何かを決めたかのようなその瞳に吸い込まれないよう慌てて彼女は視線を逸らした。ここまで来るともう、彼女は自然とカインと彼を重ねて見る様になっていた。

「失礼してもいいですか?」

「誰だ?」

 急にドアの向こうから聞こえてきた声と丁寧なノックに、まずカインが反応した。念のために力を込めて、いつでも迎撃できるように態勢を取る。

「そんな力の展開準備しなくても大丈夫ですよ」

「何?」

 力の展開を察知されたカインが驚きの声を上げた。そのままドアを開けて入ってきた三人を見てカインはまた驚く。

「へえ、本当に俺達と同じなんだな」

 シンが後ろからやる気のなさそうな声で呟く。

「同じ?」

 とりあえず相手に戦意は無いと判断したカインが力を抜く。それと同時にルークは微笑み、先ほどフェイトに会った時と同じ様にカインにも手を差し出した。

「僕はルーク。君はカインだね。お噂は色々と」

カインは状況も飲み込めないまま一応、その手を握った。


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