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第二章 第三節 目覚め

「これなんか似合いそうですけど」

「だったらこっちの方がいいかなあ」

 久しぶりに家で目を覚ましたフェイトは、沙耶香と共に買い出しに出ていた。勿論、今まで着ていた服ではあまりにも目立つので、お互い地味なジャージ姿だったが。

「でもいいんですかね、二人で」

「こんな事でもしないと気が滅入ってしょうがないもの」

 この世界のショッピングセンターと呼ばれる施設は、あの頃いた世界の物と大差なかった。だからこそフェイトもそれなりにリラックスできていたし、彼女を気遣う余裕すらあった。

「買っちゃおうかなあ」

「いいんじゃないですか。あの人達も遠慮するなとは言ってましたし」

 服を色々並べながら品定めする沙耶香と、それを眺めるフェイトの姿は微笑ましいものであったが、心の中には様々な思いが渦巻いていた。

「あの人達、あんな」

「一応、説明はされましたね」

 フェイト達は今日の朝、彼らから一応の説明は受けていた。世界とは何か、から始まる常人ならまず信じる事が出来ない様な話だったが、フェイトの補足説明もあって何とか理解はしていた。問題はその後で、彼らはあの鏡の正体も、今のカノンの状態に対する説明するための情報も何ら持ってはいなかった。

「もしカノンが起きた時、いきなり殺されたらどうするんですか?」

「大丈夫だろう、彼に自我は無い。起きてもぼけっと突っ立ってるだけだ」

 沙耶香の一見最もな問いに、白谷はさらりと言い切ったが、これにはフェイトも同感だった。シンやルーク達とは違って、カノンやカインは自我が薄い、というより感じられないのだ。カインはまだましだが、カノンは彼の言うとおり、何かこちらが指示しない限り自分から行動する事は無いだろう。

「信用できるの?」

 彼女の言葉でフェイトの回想は断ち切られる。俯いたまま発せられる言葉に対して返せる言葉は一つだけだった。

「できるか出来ないかではなく、するかしないかです。私の事も、同じです」

「じゃあ、する」

 予想外の即答にフェイトはその意を質す。いくら何でも、とは彼女でなくとも思わずにはいられない。

「いいんですか?」

「共同戦線張ったんだから、今さら勝手に離脱なんかしない」

 返ってきたのは彼女なりの答えだった。その強さの中には誰にも見せない葛藤があるのだろう。それすら隠せるのも、また強さだ。

「分かりました」

 そしてフェイトは答えを出した。ならば、せめて自分はその思いに少しでも応えたいと。そして願わくは、もう一度カインに会いたいと。


「あれ?」

 扉を開けた沙耶香が足を止めた。

「どうしたんですか?」

「靴が多い」

「え?」

 家に帰ってきた彼女達は玄関で異変に気づいた。靴の数は彼女達の分を除いて三足。計算するまでも無く三人が家の中にいる事は一目で分かる。

「誰だろう?」

 サイズからしてまだ子供だ。白谷が来ていてもおかしくは思わないが、どう考えても

異常な事態だ。

「誰だろう?」

「行きましょう」

 もしかしたらレジスタンスの人間かもしれないし、下手をすれば全て嘘でこれからどこかへと連れ去られる可能性もある。どの道ここまできたらもう逃げ場は無い。

「開けますよ」

 黙って頷いた彼女の顔を見て、フェイトは意を決して扉を開けた。

「よう」

 迎えたのは複雑な顔をしている白谷と神谷と、カノンだった。

 思わぬ状況に固まった彼女達を前にして、カノンは立ち上がり深々と頭を下げた。

「初めまして、カノンといいます」

「と、言う事なんだが」

 何も返せずぽかんとしている彼女達に代わって白谷が困ったように頭を掻いた。

「昼間、突然起きてきたときからこんな風だったそうです」

 神谷の補足説明にも彼女達は戸惑いを隠せない。この礼儀正しく自分達の目の前で微笑している少年が、あの冷酷な殺人鬼とは思えなかった。

「しかも記憶が無くてね」

「覚えてないの?」

「すみません、何かご迷惑をおかけしたのは間違いないみたいなんですが」

 沙耶香の問いにカノンは申し訳なさそうな顔をするばかり。その中でフェイトはカノンの様子を慎重に観察していた。

 なるほど、確かにカインと対になっているとこちらに思わせる顔立ちをしている。まるで同じ物を一つは硬質に、もう一方は柔らかくしたかのような印象をこちらに持たせる。さきほどからの柔和な笑みも作り物では無いだろう。

「何のためか。分かるか?」

 神谷とフェイトの向けて白谷は問いを発した。

「何のため?」

「デメリットしか思い浮かびませんけど」

 悩む神谷と違いフェイトはその問いの意味を汲み取って考えを語る。

「そもそも、最初から必要ならシンやルークと同じ扱いをしておけばいい。でもルークはともかく、シンは反抗してる。どういう風に転ぶか分からないリスクを犯すくらいなら、最初から与えないほうがいいに決まっています。それに、あっても辛いだけでしょう?」

「だよな、だったらメリットを考えなくちゃならない」

「つまり、必要になったという事ですか?」

「あるいは、それを良く思わない連中がいるのかもしれない」

「誰かが与えさせた? 彼らをも騙して?」

「かもな、正直俺からしてみればスケールのでかい話だからな。ま、こっちにとってはチャンスかもしれないが」

「チャンス?」

 そう返しながらフェイトは彼が何を言おうとしているか分かった。

「あ」

神谷も気づいたようだ。フェイトと目を合わせ、そして二人ともカノンの方へと視線を向けた。

「何がチャンスなの?」

 一人状況に取り残されている沙耶香がフェイトに問いかける。

「最強の味方をこちらは得たって事さ」

 彼女に代わって白谷は告げる。

「下手をすれば、彼だけで世界は制圧できるかもしれない」

 カノンの力は絶大だ。いくらカインが再びあちら側にあったとしても、それを問題ともしない力が彼にはあった。

「上手く立ち回れば、な」

最後の言葉は彼に向けられた。言われた当人はまだ事態を理解していないようだが、直に彼も自分の役目を知る事になるだろう。

「始めようか、戦争を」


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