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最終章 第二十節 繋がり(2)

「これは……?」

「驚いた?」

 認証されましたとの言葉が表示された後、切り替わった画面を見てシンが我が目を疑う。

「彼の、多分あの部屋の持ち主の個人的なサイトをレイブンが利用したんでしょうけど」

 トップページには関心を引くような点はどこにも見当たらない。恐らく、見る者の八割

は何の変哲も無い日記だと思いバックしていくだろう。そして後の二割はまずタイトル部

分に目がいくはずだ。おかしな記号が並ぶその文字の意味する所に、何人が気づくだろう

か。

「式部島に関する考察」

「少なくとも、十年前には始まってる。このサイト」

 当たり前の様にタイトルをシンがすらすらと読めたのは、ハムレスで彼が教育を受けた

からに他ならない。が、そうなるとますます彼女がこのサイトを知っていたことが不可解

になってくる。

「どうやってここの存在を?」

「見てきたから。私の中の鏡を通して」

 全てを見渡すことの出来る鏡の力。半信半疑ではあったが、こうまで目の前で証拠を見

せ付けられては信じるより他なかった。ハムレスがあれ程までに固執したのだ、寧ろこれ

位の力がない方が不自然だ。

「あの穴は?」

「私じゃない。信じてくれるかどうかは分からないけど」

「信じます」

 即答された沙耶香が目を丸くし、苦笑なのか微笑なのかよく分からない笑みをシンに向

けた。

「ありがと。でも、あの穴は私に繋がってる、マリアにも」

 サイトのスクロールバーをゆっくりと下げていきながら、沙耶香が静かに言葉を発して

いく。書かれているのは式部島の詳細なデータだ。普通の人が見れば郷土研究家なのかな?

と疑問に思う程度の内容だろうが、下に行くにつれその内容は怪しさを帯びていく。

「多分、私とあの子が鍵なんだと思う。何の鍵かは分からないけど、誰かが何かしようとしてる」

 本題に入ったのだろうか、先ほどまで一般的な内容で示されていた内容が突如として、

鏡に特化した物となる。その内容を要約してくれているのか、それとも元から知っていた

のか、彼女の口調も説明染みた物となっていく。

「鏡は、この世界と世界を繋ぐもの。じゃあ、何で今まで発動しなかったのかな?」

「それは」

 自分達がいなかったからだ。そう発しようとした言葉を彼女は遮った。

「本当に巫女の血を受け継いでいたのは、お母さんじゃなかったから」

「えっと、その! でも」

うろたえながらも必死に言葉を探すシンに、彼女は静かに首を横に振りサイトの最下部のページを指し示した。

「お父さんだった。この力を持っていたのは」

 年月と名前、そして写真が記された白黒写真に彼は目を見開く。一見、幸せそうな家族

写真に見えるそこには、彼もよく知る顔があった。というより、ハムレスの一員であるは

ずの彼が何故この時代にここで笑っているのか。

「50年前!?」

有り得ない事だった。五十年前と言えばロイヤルナイツはおろかハムレスも存在してい

なかった頃。となれば何が起こってこんな事になっているのか、混乱する彼はその答えを知る事を無意識に恐れていた。

「ひいお婆さんの世代に、二つに血が分かれた。お婆さんの長男として生まれたお父さんは、一つ下の妹さんと仲良く暮らしてた」

「お母さんは?」

「次男の、だから私にとってはお爺ちゃんかな。その人の子供として生まれた。何の力も持たずに」

「でも、だったらひいお婆さんの時に」

「発動はしてたんだよ、昔から。その時まで本来なら何の影響も与えなかったはず小さい力だったんだから」

「よくあるでしょ? 今年は大漁になります様にとか、野菜がよく実りますように、とか。あれと一緒で、今年も一年平和に過ごせますようにって、そんなささいな事を願ってた。ここの人たちも」

「だったら、何でこんな事に」

「こういうお祈りってね、運命を捻じ曲げるんだよ。本来なら捻じ曲げられる事のなかった運命を、この世界の人たちは少しずつ変え続けてきた」

 地域にある伝統的な信仰、そんなどこの世界にもある物でもこの世界に住む人達にとっ

て、それは確かな力となっていた。ただのお祈りが、世界全てを変えかねないほどの。

「でも、少しずつなら何の影響もないはずだった。海に醤油を一滴落とした位じゃ何の影響もないのと一緒で、そんな力なんてあって無い様な物だった。ハムレスに目をつけられるまでは」

「……何をしたんですか? ハムレスは」

 半ばその答えを得ながらも彼は問わずにはいられなかった。しばしの沈黙の後、彼女は

ようやく声を発した。

「その振り幅を大きくしていった。何の影響もない力を強くしていった。自分たちの領域にこの世界を入れ、意図的に元からあったこの世界の人達の振り幅を最大限に! そして行き着いた先が!」

「マリア、なんですね」

 自分達が平和に暮らせるように、日々楽しく生きていけるように。そんな願いが究極に

達すればマリアの様な者が生まれるのは半ば必然だった。誰もが彼女を信仰すれば、宗教

間のいざこざなど起こり様がない。誰もが彼女の幸せを願えば、個人的な利欲の衝突が国

家同士の大規模な戦闘に発展するはずがない。何故なら、彼女がそんな事を望むはずがな

いと世界の全ての民が知っているから。

「じゃあ、レイブンは」

「ロイヤルナイツは、文字通り聖なる騎士。彼女の為だけに作り上げた軍隊で、あの人は本気でハムレスからあの子を守ろうとしている。どうして彼女の生まれた理由が分かったのか、私には分からないけれど」

 冷静に考えれば、彼女の広まりはもっと遅くてもよかった。王は彼女を押し込めたとい

うし、その存在が認知されないまま彼女が一生を終える可能性は少なからずあった。レイ

ブンが大々的に世界に広めさえしなければ。

「でもハムレスはメイルに侵攻してる。どうやってレイブンはマリアを手に入れられたんですか?」

 カイン一人でも当時の軍隊を倒すには十分だったろう。それだけの力が彼にあったにも

関わらず、どうして彼はマリアを攫ってはいかなかったのか。

「簡単でしょ? そんなの」

 そんなシンの疑問にも、彼女は答えをきちんと用意していた。

「会っちゃったんだから。無理に決まってる」

 断定された答えに、シンは彼に初めて会った時の事を思い出す。最初は言葉少なく、次

に会った時はマリアとの攻防戦ではマリアを守る騎士となっていた。あの時の自身の暴走

は苦い記憶として残っているが、今はそんな事を後悔している場合ではない。

「だからあいつ……」

 行われたのはひかりと同じ、記憶の消去。それしかもう考え付かなかった。だとすれば

答えは簡単だ、カインは一度マリアを助けている。となるとまた一つ彼の脳裏に疑問が浮

かぶ。

「だったらどうしてカインはまたマリアの元にいけたんだ?」

 記憶を消去してやり直したのなら、やり方を変えればいい物をこれでは全く同じ失敗を

ハムレスは二度繰り返している事になる。そんな間抜けな事をあの組織がするだろうか。

「レイブンが呼んだんだよ。いざという時の為に」

「未来予知?」

 噂されている彼の力に確かそんな物があったな、とシンは一度見た彼を思い出しながら

可能性を口にするが、そんな物があるならもっとうまい方法だってあるだろうに。と納得

のいかない顔をするシンに、彼女は寂しげな笑みを浮かべた。

「彼もまた、捻じ曲げられた世界の被害者だから」


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