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最終章 第十節 絆(7)

「ふんふんふーん」

 フェイトと分かれた後、ひかりは鼻歌まじりに廊下を進んでいた。何も余裕があるわけではなく、ただ一人心細いのを誤魔化しているのは必要以上の力で握られた拳を見れば明らかだ。

「いないなあ」

 既に分かれた友人を思い、置いてきてしまった友人を思い、心のもやもやを振り払い、と忙しい彼女に変化が起こったのは、それから間もなくの事。

「えっ!!」

 気配がある。それも敵とか味方とかそういった気配ではなく、自分の気配が。

「何で!?」

 見知らぬ場所で自分と同じ気配を持つものが現れたとき、考えられるケースは三つ。

一つは自分の分身、あるいはクローンがいるケース。この場合とりあえず安心できるのは、気配の大きさに差が無い以上、戦闘力に大きな隔たりが無いこと。まかり間違って会うことになろうとも何とか戦闘にはなるだろう。次に気配だけを誰かが出現させている場合。この場合、場所は既に知られており、尚且つ能力の詳細まで看過されている可能性が高い。

最後に相手そのものが対象の気配に成りきっている場合だが、この場合出現するならフェイトのほうだろう。ひかりと思い油断した所で攻撃、なら筋も通るが、ひかりの前に現れたところで彼女は迷うことなく撃つだけだ。使う力程のメリットがない。

「って、考えてても仕方ないよね」

 パニックなのか冷静なのかよく分からないまま、ひかりは杖を出現させる。力の気配を感じてフェイトが来てくれればいいが、同じ気配が二つ同時に現れたら、彼女はまっすぐこちらに来てくれるのだろうか。

「……相手の狙い、これかなあ」

 再び思考の海に溺れそうになるのをぐっとこらえ、彼女は周囲の気配を懸命に探る。何も全く知らない気配を辿っているわけではない、対象は自分だ。

「見つけた。ライトエクス――」

 間もなくして、扉が現れた。開けるまでも無く、中に誰かがいる。ひかりという仮面を被った、何かが。力を高め、部屋ごと吹き飛ばせるだけの力を溜めに溜め、引き金を引こうとした瞬間、思わぬ形で相手が姿を現した。

「ちょっと待った!!」

「えっ!! アルス君!?」

 突然の再開に驚きを隠せないひかりだったが、相手の反応は少し違った。

「や、やあ。いきなりで悪いんだけど、ちょっと眩しい」

「……本当?」

 目の前に立っているのは、誰かが化けているのでもなければ、アルスなのだが。

「え、な、何?」

 未だ煌々と光続ける杖の先端を向けられっぱなしの彼の額に汗がにじむ。何かしただろうか、と本気で記憶を探る彼に、ようやく彼女はその杖を逸らした。

「本物だね」

「こっちがどんな思いで追いかけてきたと思ってるのさ」

「その気配は?」

 目の前で溜息をつく少年の気配は既にアルスの物で、ひかりにはその変化が不思議で仕方が無い。

「真似させてもらった。ここに来るために」

「凄いね」

「まあ、こういうのは得意だから」

 一体その過程にどれだけの技巧がいるのか、撃つことが本職の彼女が聞いた所でわかるはずも無い。気配を同じにすればその人の所へワープできるのだろうか。

「まあ、こういうのは得意だから」

 少しだけ照れくさそうに笑った少年は、出てきた扉を振り返り腕を組む。

「で、ここは?」

「狭間、じゃないの?」

 問いかけられた質問に、ひかりはぽかんとした表情で返す。互いの認識の違いがずれているのに気付かないまま、二人は顔を見合わせる。

「狭間? ここが?」

「行った事、あるんだよね?」

「だってここどう見ても学校……」

 そんな事を言われても、とアルスは首を傾げる。来た事はあるものの、あの暗闇とここが同じだとは断定できない。

「暗くなかった?」

「いや、気付いたらここにいたけど?」

 再び繰り返される問答に、互いの表情はますます暗くなっていく。せっかく辿り着いた場所が狭間ではないなら、一体ここはどこだというのか。

「とりあえずフェイトを探そうか」

 考え込んでも仕方が無い。彼にとって最大の懸案事項を解決すべく動き出した彼の耳に、ひかりはあっけらかんと口を開く。

「いるよ。フェイトちゃん」

「どこに!?」

「えっと、あっち」

 アルスの形相に驚きながらもひかりが指差したのは、延々と続く廊下の遥か先。その長い廊下に初めて気付いたアルスは、闇雲に行動する無意味さを悟った。

「最初から、話して貰える?」


 ひかりの話を聞き終えたアルスが天を仰いだ。状況は把握できたが、対策が分からない。

「とりあえずフェイトに会おうか。どこにいるの?」

 フェイトに会った所で状況が変わる訳ではないが、何が現れるか分からない今、集まっておいて損はない。

「三十分後に分かれた所で会おう、って言ったからそこに来ると思うよ」

「三十分後? 何分経ったの?」

「え?」

 快活に答えていたひかりの表情が固まる。

「え? って、時計は?」

「あ」

 彼女のその反応が全てだった。つまり、時間を知る機械がない。

「あって……」

 フェイトも何を考えてそんな事を言っただろう。と、アルスはがっくりと肩を落とした。

「も、戻ろうか」

 気配がある以上どこかにはいるのだろう。少し遠い上、何故か元いた世界よりもやもやした感のある空間で、彼女の居場所を詳細に探るのは困難だ。ならば、他に選択肢はない。

「うん……」

 申し訳なさそうに後ろからついてくるひかりを横目に、アルスはまだ見ぬ少女を思いペースを速める。早く辿り着いた所で彼女が来るわけでもないが、それでも自然とペースは速くなった。


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