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最終章 第五節 絆(2)

「あの……」

「放っといていいよ」

 先ほどからぶすくれたままのカノンの隣で、フェイトが自分が待たせたせいでは無いだろうかとやきもきしている。反対に、ライトは反対側の窓に肘を立てて先ほどから空の景色を楽しんでいた。

「やっぱりこっちの方が楽だよねえ」

 機内は不機嫌なままのカノンと上機嫌なライトに挟まれどうしようかとおろおろしているフェイトに、カノンは仕方なく口を開いた。

「ルーデ出身なんだってね」

「はい! 楽しみです」

「まさか、お仲間が一杯、とか?」

 カノンの心配を先回りしてライトが口を挟む。カノンの力をもってすればどうということは無いだろうが、自分と同じ姿の物体が次々になぎ払われていくのを好んで見たいものなどどこにもいない。

「多分、大丈夫だと思いますけど」

 フェイト自身、自信なく首を傾げる。彼女が誰かを目にしたことはないが、だからといっていない保障などどこにもない。

「いいストレス発散だ」

「訂正。一万単位で出てくればいいのに」

「一万……」

 三者が同じ光景を思い浮かべながらカノンは薄ら笑いを浮かべ、ライトはそのカノンに睨みを利かし、フェイトは二人の言葉を真に受けて神妙な面持ちで呟いていた。

「でも、その位出てくるかもね。それがライトかどうかはともかく」

「もう一種類あるからね」

「出てこないことを祈ってるよ」

 黒幕が誰か分からない以上、力は温存しておくに限る。以前の苦々しい記憶が思い出されるにつれ、やはりあそこで連れてきた方がよかったかと遅すぎる後悔に彼はさいなわれていた。

「はあ」

 ルーデまで、彼の不機嫌な表情はついに途絶えることはなかった。


「あの」

 フェイトが困り顔で左右の顔を窺っている。ルーデにはついた物の、やはりというか当然というか、黙って歓迎してくれるような所ではなかった。

「僕に聞くなよ」

「うぅ」

「私に聞かれても困っちゃうなあ」

 カノンがため息と共に、外を眺め、ライトは頭を掻いて苦笑する。

「どうしましょう?」

「僕に聞くなよ」

 繰り返される会話は、彼らの状況をそのまま表していた。

「どうします?」

 パイロットがカノンに指示を仰ぐ。とはいえ、カノンも何が何だかさっぱり理解できない状況の中、支持など出せるはずもなかった。

「ライト」

「やってるけど、本物だよ。確かに」

 ざっと周囲の状況を探るも、確かにそれは物だった。にわかには信じられないが。

「術の気配はあるけど」

 その答えを予期していたのか、カノンはここに来てから感じる膨大な気配にうんざりとしたまま気配を探る。

「けど?」

「戦いたくない」

「何で?」

「カノンさん?」

 意外な答えにライトだけではなくフェイトもカノンの方に視線を向ける。そんな二人の視線を感じながら、彼は瞬時に見抜いた相手の力を想像して鬱になっていた。

「絶対面倒くさい」

 眼下には、広大な敷地にいつのまに建造されたのか、広大な建造物が堂々と建っていた。


「うわあ」

「大きいね」

 フェイトとライトが同時に感嘆の声を漏らし、カノンはその大きさに呆れ果てる。

「こんなのに力使って何が楽しいんだか」

 近くに来るまで気配も感じられない、ということはそれだけの力をこれだけに注ぎ込んでいるのだろう。カノンからすれば無駄以外の何とも受け取れない。

「これ、カノン作れる?」

「無理。カインやシンでもね」

「駄目なんですか?」

 強さの象徴としてその三人以外を知らないフェイトが予想外の答えに不安な面持ちになるが、カノンはそんなことを気にせず眼前の建造物を見透かすように眺めた。

「力のベクトルが違う。多分」

「勝てる?」

 そんなライトの台詞に、彼は一拍おいてから初めて笑みを見せた。

「もちろん。こういうのを相手にするために僕を作ったんだから」


「暗い」

「問題はないけどね」

 一歩踏み込んだライトがそう感想を漏らし、後に続くカノンがその殺風景にすぐに建造物自体への興味をなくした。罠でもあるのかと思えばそうでもなく、本当にただの建造物だ。

「何もいませんね」

 少しの後、躊躇していたフェイトは意を決して足を踏み入れたが、あまりの何もなさに呆気に取られているようで、しきりに壁やら床やらを気にしている。

「一本道。デザインの才能ないね。こいつ」

 延々と続く道についにライトが不平を漏らした。歩き始めて五分少々、何も出てこないのは有難いが、何も出てこなければそれこそ彼らがここに来た意味もない。

「手に入れたばかりの力を嬉々として使ってる感じはする。とにかく大きいから」

 ここまでの力の使い手なら普通は何かしらの罠を入れたり構造を複雑化させるなりの工夫を入れる。確かにカノンには作れないものの、この程度アルスでも何とかなりそうなレベルだ。

「幼稚ってこと?」

「元々こんなのが得意だとは思うけど」

 こつこつ、と壁を叩くと確かに重厚な石の厚みを感じられる。切ろうと思えば切れるものの、そんな事をした所で体力の無駄だ。

「何かいるね」

「この向こうかな。けど違う」

「術者じゃない?」

「お仲間だ」

 感じる気配はカインやシンと同じものだ。ただ、それより少し違う。その気配はカインよりも鋭く、シンよりも深い。

「任せていい?」

「いいよ。けど、どういう性格か掴めないな」

 予め広大な敷地内に強者を複数潜ませておき対象を襲わせる。内部が複雑なら複雑であればあるほど成功率は増すが、やってるこ事は正反対だ。変人なのか、天才なのか、それともただの馬鹿か。行ってみれば分かる事だ。

「やっと、か」

 膨らむのは不安ではなく期待。自身の力への自信と、この状況をどこかで楽しんでいる自分に、彼は自身の根源を再確認した。

 開く翼はこの場に合わない純白の翼。そして手にするは、天使には似合わない大鎌『アズラエル』。

「行こうか」

 その顔に戦いへの期待を込めて、彼は地を足で蹴った。


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