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5:カラス?


 自分の名前は、馬場(ばば)(つたえ)

 見た目は平凡な高校生だが、中学生の頃に書き始めた異世界ラノベが異例の大ヒット。

 印税がっぽり、周りのファンからもチヤホヤされて、悠々自適な日々を送っていた……しかし!!


「そんな、バナナ!」


 バナナの皮で滑って意識を失い、気づくと船の上。

 謎の猿、アレックスから異世界行きを告げられるも、現世でのリア充っぷりが忘れられない自分はアレックスをぶっ飛ばして無事に高校へ戻ってきたのだが、話はここで終わらない。


 しつこいアレックスは、「必ず貴様を異世界に連れて行ってやる!」という宣言通り、現世にまで干渉してきて、掃除道具入れ、カラス、ゾンビ、下駄箱、馬、トラックを操って自分を殺害し、再び異世界まで連れて行こうとしたのだ。


 そんな仕掛けられたトラップを何とか回避した自分は、アレックスが裏で手を引いている可能性のある商店街の客引き、路上の犬のフン、近所の野良猫に注意しながら家路についた。


 ここまでくれば大丈夫だろう。


 そう思いながら自室の椅子にドカッと腰を下ろした自分は、ふと窓の外を見た瞬間、思わずその椅子から転げ落ちそうになった。


 外の電線に数多のカラスが止まっていて、こちらをジッと見ていたのだ。

 おそらく、学校で教室の窓めがけて飛んできたカラスと同じ連中。

 すなわち、アレックスが後ろで手を引いているカラスということだ。


 ということは、ただのカラスに非ず。

 アレックスに何からかの形で異世界的なニュアンスを与えられた可能性があると考えるのが自然だろう。

 部屋の中にいるからといって油断はできない。

 外の電線に止まっているカラスたちは、その気になれば魔法で口ばしと羽をダイヤモンドのように硬化し、一斉に窓を突き破って部屋に侵入。

 悲鳴をあげる自分に群がり、肉という肉をついばんで、一瞬にして骨だけにしてしまうに違いない。


 逃げねば!

 そう思って、椅子から立ち上がった自分は、部屋の扉の前で立ち止まった。


 待てよ……逃げるったって、どこへ?

 それに、逃げたところで再びアレックスによる恐ろしい刺客が送り込まれるだろう。

 そんな連中に怯えながら暮らしたところで、ラノベなんか書けるわけがない。

 ということは、どうなるか。

 新刊は出ず、映画は打ち切りになり、ネットではオワコン認定。

 ファンは激減し、クラスメイトからはシカト。

 せっかく築き上げたリア充生活が、音を立てて崩れ去ってしまう。

 これでは、あの時アレックスに従って異世界に行くのと変わらない。

 じゃあ一体全体、自分はどうすれば……!


「戦え!」


 自分の脳内にいる小さな自分が叫んだ。

 戦え!

 そうか……そうだ!

 アレックスが自分を異世界に引き込もうとしている以上、自分の精神が落ち着くことはない。

 ならば、アレックスが送り込んだ使者を徹底的に駆逐し、果てはアレックスまで抹殺してしまえば、自分は異世界に連行されることはなく、悠々自適な日々を送れるというわけだ。

 よし……やる、やってやる!

 まずは、電線に止まっているカラスどもだ。

 アレックスにより、異世界的なドーピングを施されているとしても、所詮カラスはカラス。

 人間が勝てぬ道理はない。

 いや、むしろ勝たなければ、この世界でのリア充生活は保証されない!


 自分は、「よしっ」と気合を入れてドアを開けると、階段を降り、リビングで黒ゴミ袋、段ボール、ハサミを入手し、再び部屋へ戻った。

 さーて、ここからは楽しい楽しい工作の時間。

 まず自分は、黒いゴミ袋を二つ、パンツのように両足に履いた。

 さらに別のゴミ袋に、段ボールをチョキチョキして作った目玉やクチバシを貼り付け、それを頭からかぶり、最後に両手にそれぞれ新たなゴミ袋を装備して、鏡の前に立った。


「よし、これで俺は巨大カラスだ!」


 鏡に映る黒ずくめの姿を見て自分は、ニヤリと笑った。

 急ごしらえのため、出来は小学生の学芸会レベルだったが、贅沢は言ってられない。

 巨大カラスと化した自分は、そのまま窓を開けてベランダへ出ると、電線に止まっているカラスに向かって、


「ぎょええええええええ」


 両手のゴミ袋をバサバサさせながら絶叫した。


「「ガー!」」


 それを見たカラスたちは、一斉に電線から逃げるように飛び立つ。


 よしっ!!

 それをゴミ袋の目の位置に開けた穴から確認した自分は、喜びのあまりバサバサと袋を被ったままベランダで小躍り。

 すると、その時だった。


「何やってるの? お兄ちゃん」


 すぐ後ろで、追い詰められた子リスのような怯えた声。

 見ると、部屋の扉の前に妹がいて、巨大カラスと化した自分を化け物でも見るような目で見ていた。


「いや、真理恵。違うんだ、これはカラスを追っ払うために……ちょ、真理恵、真理恵ー!」


 自分は、誤解を解くためマイシスターの名前を呼びながら、ゴミ袋をバサバサさせたが、時すでに遅し。

 妹の真理恵は、黙って扉をバタンと閉め、部屋にはゴミ袋を被ったラノベ作家が一人。

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