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2:ロケラン?

「俺は、異世界なんか行きたくないんじゃあああああ!!」


 突然、目の前に降ってきた異世界行きの切符。

 以前なら、喜んでそれを手にしただろう。

 しかし、今の自分は「異世界ほへと」の大ヒットによって、お金も持っているし、周りからもチヤホヤされているし、女の子からもモテモテなのだ。

 そんな富と名声を投げ捨てて、訳のわからない異世界で一からやり直すなんて、はっきりいってNO! やだ! 真っ平御免!


「じゃあな、アレックス! このバナナはもらっておくぜ」


 岸辺で呆然としている猿に言い放って、自分は川の流れに逆らってオールを漕ぎ始めた。

 こちらに向かってくる他の船を避けながら船は川を逆走し、先ほど侵入した広い川との分岐点に進む。


「やめろおおお、そっちに行くなあああああ!」


 岸辺を四足歩行でタタタタと船に並走しながら、アレックスが叫んだ。

 それを聞いた自分は、「やはり」とニヤリ。

 自分の推理は、こうだった。

 船は、上流から下流へ向かっている。

 そして時間の流れを考えた時、下流の先に異世界があるのなら、上流には自分が元いた世界があると仮定することができる。

 さらに、川を逆走している自分に対するアレックスの反応。

 間違いない。

 このまま、川の流れに逆らって上流に行けば、元の世界に帰れる!


「よっしゃあああ!」


 自分は、掛け声とともに思いっきり船を漕ぎまくった。

 船は、まるでエンジンを積んでいるかのごとくバーストし、川を駆け上がる。

 アレックスが叫んだ。


「まずい! お前ら、止めろおおおおおお!!」

「ウキイイイイイ」

「ウキイイイイイ」


 アレックスの声に近くにいた船上の猿が呼応し、次々と自分の船を他の船が取り囲んだかと思うと、ガンガンガン!!

 自分の船に続々と連結して、アクシズを押し戻すモビルスーツ軍のごとく下流に向かって一気に押し返す。


「おいおいおい! こんなやつ放っておいて、さっさと俺を異世界に連れてけよ!」

「うっさい!」

「ぎゃあっ!」ザブーン!


 他の船に乗っていた同い年くらいの男が、自分の船の暴走を止めようとしている船主の猿に文句を言った結果、オールで殴られ、川に落下した。

 まさに地獄絵図。


「お前ら、邪魔すんな!」


 自分は、目の前で進行妨害をしている船に飛び移り、オールで猿をなぎ払った。

 さらに、後ろの船、後ろの船へと、サメの頭を渡る因幡の白兎のようにぴょんぴょん飛び跳ね、猿という猿を川に叩き込む。

 

 バキッ、「ウキャー!」、ドゴッ、バシャーン、「ひええええええ」、ぐちゃ、バキーン!


 途中、誤って人間も何人か葬ってしまったが、今さら細かいことにこだわっていられない!

 無双ゲームのごとく次々に猿時々人間を蹴散らしながら船の上を進み、自分はとうとう連結していた最後の船に乗っていた猿を足蹴りで突き落とした。

 その猿は、落ちる寸前なんとか踏みとどまろうと、乗っていたリーゼントヘアの男に掴まったが抵抗虚しく、男もろとも川へザブン。

 これで自分を邪魔するものはいなくなった。


 よし、あとはこの船に乗って川を登るだけだ!

 自分は、幾多の猿を川に突き落としたオールをやっと本来の使い方で用いて、船を発進させた。

 小さな木造船はみるみるうちに加速し、狭い川を抜けて柩や棺桶が流れる広い川に合流する。

 ここまでくれば……と、自分がホッと胸をなでおろした、その時だった。


 ヒュルルルル。


 空気を切り裂く音。


 河原で花火でもあげてるのか?

 なんて思いながら、自分は後ろを振り返った。

 が、しかし、それは花火なんて呑気なものではなかった。


 ヒュルルルルル。

 小型の対戦車用ミサイル弾が、自分の船めがけて接近していたのだ!


「ぎゃああああああああ!!」


 自分は、全速力で船を漕いだが、時すでに遅し!


 BAGOOOOOOOOON!!

 ミサイルは、船の”けつ”あたりに着弾!

 水しぶきが上がり、船体の後ろ半分が消失した。

 船は斜めにバランスを崩して、勢いよく水が侵入、もはや沈没待った無し!


「あわわわわわ」


 なんとか体勢を立て直そうと、沈みかけのタイタニックのように傾いた船の上でバランスをとる自分。

 そんな自分の耳に「わっはっはっは!」と高らかな笑い声が聞こえた。


 後ろを振り返ると、アメリカ人がバスフィッシングで使うようなエンジン付きのボートがこちらへ猛スピードで向かってきた。

 ボートの上に人影。

 猿のアレックスだった。

 サングラスをかけ、タバコをふかして、肩にはロケットランチャーと、「お前は、渡哲也か」とツッコミたくなるような出で立ちのアレックスが、ボートの先頭に立って高笑いをしている。


「はっはっはっは! 逃げれると思ったか、ボケ!! こうなったら、力づくで異世界まで連れて行ってやるから覚悟しろよ、このスカンピン!!」


 そう言って、アレックスはロケットランチャーの銃口を自分に向ける。


「ま、待て! 話し合おう!」

「ダボが! 人のケツ、じゃなくて猿のケツをオールで殴っといて今更遅いわ! 見てみぃ、これ! ケツが真っ赤じゃ!」

「元からだろ!」

「じゃかぁしい! これで異世界までぶっ飛べええええい!」


 完全に怒りに我を忘れているアレックスは、ロケランの引き金を引いた。


 ヒュルルルルル。

 ミサイルが、こちらに向かってくる。


 このままじゃ異世界どころか、あの世へ一直線だ!

 心の中で叫んで、自分は沈みかけの船から外へ飛び出した。

 次の瞬間、船にミサイルが着弾。BAGOOOOOON!!

 爆風によって、自分は川の上を数メートル飛び、こちらへ流れてきた棺に勢いよく着地。


 バキン!


 思わず棺の蓋を突き抜け、中身を踏んずけてしまう。


「……はうっ!」


 その拍子に中から同じ年頃の少女が、棺に設置された小さな扉を突き破って起き上がった!


「ごめん、起こしちゃった!」

「いえ……あの、ここは? 私、さっきまで病院で寝てて」

「悪い、話は後。今はアレックスから逃げなきゃ!」


 頭に三角布を巻いた少女に言って、自分は棺を船がわりにして漕ぎ始めた。

 しかしそこは所詮、棺。

 あっという間に、アレックスのエンジン付きボートに追いつかれてしまう。


「髪が濡れてるな。乾かしてやろう!」


 そう言って、アレックスが自分の真横でロケットランチャーを構えた。


 もはや、ここまでか!

 覚悟を決めた、その時。


「ぎゃああああ、猿が喋ったああああああ!」


 後ろに乗っていた少女が、絶叫しながら棺桶に入っていた犬のぬいぐるみでアレックスを殴りつけた。


「ぎゃっ!」ザブン!!


 アレックスはボートから落下し、そのまま猿の川流れ状態で下流に流されていく。


「アレックス……どうやら、お前とは”犬猿の仲”だったみたいだな」


 自分は、少女の手に握られた犬のぬいぐるみを見ながら呟いた。


「ちくしょおおお、覚えてろよ! 必ず貴様を異世界に連れて行ってやるからなああああ!」


 アレックスは、濁流に揉まれながらも鬼気迫る表情で叫んで視界の先に消えていった。

 強敵の退場に自分が、ホッと胸をなでおろしたのもつかの間、


「大変よ! 水が入ってきてるわ!」


 後ろの少女が、袖を引っ張る。

 見ると、底に穴が空いていて水が侵入し、棺桶は今にも沈みそうになっていた。


「やばいっ、早くこっちへ!」


 自分は、とっさにアレックスが乗っていたボートに飛び乗り、少女の手を引いて自らの方へ引き寄せた。

 少女は片手に犬のぬいぐるみを抱えたまま、もう片方の手を自分の腰に回す。

 自分は少しドキドキしながら、ボートのアクセルを回す。


 ブイイイイイイイン!


 沈みゆく棺桶を背に、ボートは川を猛スピードで駆け上がっていく。


「ねぇ、アレ何?」


 しばらく走っていると、川の上流がまばゆい光に包まれていた。

 その光の中から、小さな船や、棺桶がひっきりなしに出現して、こちらへ流れてくる。

 それらを避けながら、自分と少女を乗せたボートは、まるで吸い寄せられるように光の中へ飛び込んでいった。

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