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8 ゲーム

 クズの元に一つのゲームとVRのようなものが届いた、そこには『ゲームに選ばれた、十個の指輪を集めよ、さすればどんな願いも一つだけ叶う』と書いてあり、ゲーマーのクズはすぐにゲームを始める。意識が遠のきしだいにはっきりとしてきた。

 そこは大きな門がある街の入口、街からは土がむき出しの道が伸び、先は森、山につながっている。道の両側には真っ白い草原が広がっており見渡す限りがほぼ草原だった、その草原の真ん中に街がある。

 門は開いており人が多く行き交っている。まだお昼頃だろうか太陽は黒い雲に隠され見えなかったが、行動するには十分に明るかった。門の隅に立っているクズの横には妖精が浮いている。

 なにこれすご、ゲーム世界に入り込んだみたいだ。クズは思った。


「ようこそなの! 私は妖精のフェア、クズの案内係なの!」

「まてまずは待て、クズのニュアンスが違う、言葉尻を下げるな、クズじゃないクズだ」

「……ここはチアイの国の――」

「ゲームの説明とかいいわ、聞きたくなったらこっちから聞く。で、なんでみんなこっちを見てるんだ?」


 行き交う人から不審な目を向けられながらクズは質問した。こちらをチラッとみたりしている。関わりたくないような感じが見て取れるほどに。


「はぁ、私は今、神の使いなの、普通の人に私の姿は見えないの。見せようと思えば出来るの」


 そういう事は早く言えよな!

 クズはフェアの言葉を無視し、街の中に入った。フェアも付いて飛んでいる。街は舗装された道が綺麗に十字を描き、多くの建物がある。建物は綺麗に見え特に変わったことはない。店の看板には見たこともない文字が並び武器屋や防具屋、道具屋などは看板横の絵でなんとかわかった。


「なぁ、文字が読めないんだけど」


 クズは小声で話しかけた。


「私が読んであげるの!」

「いや、ならいいわ」


 クズは冒険者ギルドっぽい建物に入った、カウンターの横には依頼が書かれているであろう紙が掲示板に貼ってあり、クズは掲示板を見つけるとそこに向かった。するとピンク色の長い髪をしたきつそうなつり上がった目をした少女、歳は高校生くらいだろうか。主要な部分、胸、肘、膝を銀色の鎧で包んだ軽装に革のブーツと革のグローブをしている。腰には一般的だろうブロードソードらしき物を下げていた少女が走り寄ってきた。


「あなた、もしかして初心者冒険者?」


 なんだ? こんなイベントがあるのか? 言葉は特に問題ないな、なぜだろうか? いや言葉も文字もわからないゲームとかゴミだけどな。


「あ、はいそうですけど」

「やっぱり! ねぇ、もしよかったら私たちのパーティに入らない? 一人枠が余ってるのよ。ほらこっちこっち」


 女性に手を引かれテーブル席にクズは連れて行かれた。

 手があったかい!? ……VRゲームってやつはこんな進化してるのか……それにしても、綺麗な人だなぁ。

 テーブル席には男と女が座っていた、クズがそこに行くと立て続けに自己紹介が始まる。 


「私はウィッチのイースです」

「俺はナイトのウッディだ」

「そして私がソードマンのアルよ!」

「あ、俺は、クズです」

「なんだ、まだ職業も決めてなかったのか? おいアル何やってんだよ」


 ウッディが笑いながらアルの腰を叩く。


「ごめーん、全然気付かなかったわ。クズ、カウンターでパパッと職業決めちゃいましょ。付いてってあげるわよ」


 カウンターの奥側には女性が座り本を読んでいる。


「この水晶に手をかざすと適正職業がわかります」


 女性に言われるがままクズが水晶に手をかざすと、水晶に適正職業が表示されたらしい、なしと書かれていた。

 適正職業なし、このゲームは無理ゲーだ。そんな事を思っているとカウンターで受付をしていた女性が冒険者ギルドの説明をしてくれた。

 冒険者ギルド、それは人の安全のためモンスター退治や、食料の運搬護衛などを目標とする、人のために作られたギルド。基本的にはモンスター退治、ダンジョン探索などを生業にしている者たちの集う場所であった。

 ナイトのように国に仕えているわけでもなく、訓練などもない。市民の税で給料が貰えるなど安定しているわけではないが、モンスターを倒した時などに支払われる報酬は破格であり自身が強ければ富や名声を得ることもできる子供が憧れる職業だ。もちろん国が危険視するモンスターの退治依頼などもあり、国からの信頼も厚い。弱かったら即死ぬらしいが。

 その後、門の前で待ち合わせをすることにし、草原の簡単らしいクエストを受け。クズは道具屋に立ち寄ることにした。


「おい、装備を買う金がないぞ」

「だから説明を聞いて欲しかったの! はいなの」


 フェアから金貨を何枚も受け取り、道具屋に入った。ナイフとモンスターに効く道具をいろいろ買った。


「てかこれ十個の秘宝を集めるんだろ? 無理じゃね?」

「商人でも目指せばいいの! もしかしたら……きっともしかして買えるかもしれないの! クズは絶対の契約書が作れる能力があるの! その名もベッソウオブザエンペラー! お金を稼いで秘宝を買い取るの! それに――」

「秘宝どこにあんの?」

「それは教えられないの! その代わり私がサポートしてあげるの! 頼もしいの!」

「……お前何ができるの?」

「クズの代わりに契約書が作れるの! あとお尻が光るの!」


 フェアは腰に手を当て胸を反らした、そのまま振り返り尻を光らせる。

 ホタルかよ! ……どこにあるかもわからない秘宝を買い取る? いくらするんだよ。やっぱ冒険者で強くなるしかないだろ、……無理だな今日だけやったらゲームやめよ。

 クズはとりあえず一旦ログアウトしようと考え、念じたり、指を目の前で動かす。


「…………おい、ログアウトってどうやるんだ?」

「何言ってるの? そんなのあるわけないの」


 は?


「え、じゃあどうやってゲームやめるんだよ! おい!」

「秘宝を集めるしかなの! だから話は聞いて欲しかったの!」


 帰れない? 俺はこの世界でゲームをクリアしないと帰れないのか? どうやってクリアするんだよ……もう無理じゃないか…………。




 草原、そこは岩がむき出しにポツポツとある以外はなにもない、街から離れたところに木材で出来ている小屋が二軒あり、ところどころに子犬が歩いていた。ウッディを先頭にアル、その後ろにクズはイースと並び歩いていく。


「ハァ!」


 ウッディが突然子犬に斬りかかり、背後から叩き潰すように切りつけられた子犬は真っ二つに裂け、内蔵を撒き散らし血が飛び散り左右に分かれて倒れた。

 は?


「モンスターはこうやって倒すんだ」

「さすがウッディね、久しぶりの剣はどう?」


 クズが唖然とし立っているとイースが肩に手を置いた。


「初めは少しグロいですが慣れますよ、昨日私たちが出会った、はずれ職業のテイマーさんでも英雄のような強さがありました」

「クズもやってみましょう? モンスターなんていくらでもいるんだし慣れないとね?」


 マジかよ。

 小屋の方角に進んでいくと一匹の子犬が後ろを向き座っているのを見つける。


「頑張ってください」


 イースに小声で声援を受けながら、背中を押され犬に忍び足で近づいていく。あと一メートルというところでクズに気がついた子犬はクズに向き直る。すると子犬の愛らしい顔は目がつり上がり充血し赤くなった、犬歯がむき出しの鋭い牙、溢れ出すヨダレにシワが集まった鼻。可愛らしい顔は一瞬で鬼の形相に変わった。


「ガルゥアアアアア!」


 子犬がクズに飛びかかり、クズの上に馬乗りになった。必死に引き剥がそうとするが子犬の力は強くビクともしない。子犬が顔面にかぶりつこうと何度も牙を鳴らすが顔を動かしなんとか避ける。そして子犬が首にかぶりつこうとした時、ウッディが子犬を持ち上げ、地面に叩きつけた。子犬は潰れ動かなくなった。


「はぁはぁ」


 なんだよあの力、すごく重かったぞ、見た目と全然違った。それに……。

 クズは自分の肩口を見、愕然とする。

 そこには服が破れ、爪で引っかかれた傷跡があった。まだ血は流れ出している。

 すごい、痛い。もう嫌だ誰か助けてくれ。こいつも、助けるのが遅い、何やってんだよ、何やってたんだよ!


「なんか、ごめんね?」

「モンスターを倒せば勝手に強くなっていきますよ」


 アルとイースは励ましているのだろう、クズを気遣った。ウッディはまだ近くにいた子犬を狩っている。

 無理だ。この瞬間クズの中で何かが変わった。


「……今日は後ろから見てるだけでもいいですか?」

「ええ、少し残念ね。一番弱いモンスターなんだけど……」


 アルがウッディの元に行き、事情を説明してくれているのだろう。それからも狩りは続き草原の子犬は見当たらなくなってきている。


「うおりゃあ!」

「ウッディ!」


 ウッディが子犬を倒している間にアルが阿吽の呼吸で視覚をカバーし、援護している。クズとイースはお喋りしていた。


「なんか息ぴったりですね」

「二人は幼馴染なんです、私がこのパーティに入ったのは三年ほど前ですがそれからも何回か困難を共にしましたからね」

「? ではなぜこんな簡単なクエストなんかを? というかなぜ俺をパーティに入れてくれたんですか?」


 イースは少し悩んだように手を口元に持っていった。


「まぁ言ってもいいでしょう。実は今日限りで冒険者はやめてしまうのです。危険な仕事ですからね。ですから最後に子供たちにも言われて。たぶん二人は私を気遣って新しい仲間を増やそうとしてくれたのでしょう。あんなことがあったのに」


 イースの顔は微笑んでいた。


「それはなんというかおめでたいですね……俺がイースの仲間でもいいんですか?」

「はい、この街にいる限りクズを強くしてあげますよ。あの英雄さんのように」


 イースは、ふふっと笑った。

 草原から子犬を狩り終えた一同は小屋に入り食事を摂ることになった。クスはとりあえずコップに水を汲んで三人の前に差し出した。


「おう、サンキュ。初心者冒険者なのに気が効くじゃないか」

「ありがとうございます、このバカップルは気が効きませんからね」

「バカップル? ……ちょ! イース! まさか結婚のこと言っちゃたの!? 私から言おうと思ってたのにー!」


 クズとウッディはポカポカと軽く叩きあっているアルとイースを眺めながら食事をとる。アルは何かを忘れるように、懸命に明るく振舞っているように見えた。


「クスが興味ありそうにしていたので仕方なかったのです。そう仕方なかったのです!」

「も~、……でもクスごめんなさいね、今日だけしかクエストに付き合ってあげられなくて……」


 アルは申し訳なさそうにクスの方を向いて両手を合わせていた。


「大丈夫で――」


 クスが言いかけたのをイースが手で口を塞ぎ煽りだした。


「心配するなら自分たちなのでは? まだ初夜も迎えてないんですよね? 私たちはこれから上手くやっていきますよ」

「ちょちょちょ、イースにしか相談してなかったんだからそう言うのは言わないでよバカ~!」


 ウッディも心なしか顔が赤らんでいるように見えた。

 こんなに何でも言い合えるほど仲がいいのか、色々な冒険を共にし仲が深まっているんだろうな。とクズは思う。

 食事が終わるとクズ以外はなんだか眠そうに目を擦っている。


「おかしいな、あんなクエスト程度で疲れたか?」

「そうかも……しれないわね……、あ、もう……ダメ」


 三人ともテーブルに突っ伏して寝てしまった。


「本当になんというかおめでたい……」




 

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