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21 幼女

 ドラゴンの背中に乗せてもらい、信仰国へと物凄い速度で移動する。森を抜け、草原を抜け遠くに見える国へ。水に浮いている国、そんな国が見えてくるとドラゴンはいきなり人間の姿と変わり無い体へと戻った。


 は?


「おま何してんの!?」

 

 だがそのセイギの問いかけは無視された。胸に顔を埋めドラゴンは抱きついていた。横顔はニヤニヤしているような気がする。計画どうりに物事が進んでいる。そんな顔だ。

 どうすんの!? どうすんのこれ!?

 セイギは幼女を守るため、無意識にドラゴンの体を自分の体で包み込んだ。そして地面を削りながら落下と移動のスピードを殺した、自分の背中で。

 しばらく経ってもドラゴンはセイギの胸の中から動こうとしなかった。セイギは焦って問いかけた。


「大丈夫かドラゴン!」

「うへへ、楽しかったですねセイギ様」

「……いくか」


 セイギたちは信仰国へと向かった。水の中からだ。最初の街では冒険者カードを見せて出入りしていたが、ほかの街でもそうする事が出来るかは知らない。壁を壊して入っていた。今回は簡単だ。水の上に木が浮いている平たい船みたいなものだ、外壁があるわけではなく一本の橋を渡って普通の人は出入りしているのだろう。見張りのいない湖側から堂々とよじ登った。魔法を使い服を乾かしたあとにドラゴンとは別れることにする。手分けして巫女を探すのだ。


「かくかくしかじかだ、巫女を探す」

「畏まりました」


 セイギは孤児院へと向かう。道中の人に場所を聞きその場所を訪る。

 元いた街の孤児院から、この信仰の国に送られた子供は孤児院にいるかもしれないと考えて。

 孤児院に着くと中々に立派な建物だった。他の建物と同様に木で出来てはいるが、大きく外観も綺麗でベランダなども見える。

 おそらく国から大切にされている施設なのではないだろうか。と思わせた。

 セイギがドアにノックをしようと近づくと、幼女が中から出てくるところだった、昼間だが最初にいた国と違い働いてはいないのだろうか。服装も丈夫そうな布にところどころ飾りつけがしてあり裕福そうに見えた。

 その幼女の表情は遠足に行く前の子供と変わらない、後期心旺盛な雰囲気、ワクワクとしているのが見て分かる。元気そうにドアをバーンと開けるとセイギと目があった。とても明るい性格の子なのだろう、物怖じせずに大きな声で挨拶をしてきた。


「お兄ちゃんこんにちわー!」

「こんにちは、この孤児院の子かな?」

「そうだよー!」


 嬉しかった。ここまで元気そうにしている子供は初めてだ。この国はいいところなのかも知れない。孤児院にいる子でもこんなに元気なのだ。

 幼女は走り寄ってくると見上げてきて尋ねる。


「私はミィだよー! お兄ちゃんは?」

「お兄ちゃんはセイギだよ、ここの管理人さんは巫女さんって人知ってるかな?」

「巫女さんならみんな知ってるよー! なになに? どうしたのー? ミィが教えてあげようかー?」


 おや? 有名なのか?


「じゃあミィから教えてもらおうかな」

「いいよー! んーとね……甘いもの食べたい!」


 人差し指を口に当てて考えたかと思うと、元気よく街の大通りを指さした。甘いものが買えるのだろう。

 あぁ、可愛い、金なんていくらでもあるぜ!


「いいよいいよ、いくらでも買ってあげるからね」

「やったー! わっふーい!」


 走るミィの後を追いかける、子供の足だ、さして速くはない。

 一軒のお店の前で立ち止まると外にある椅子に飛び乗って座る。

 

「おばさーん!」


 その声に店の中からはおばさんが出てくると嬉しそうに微笑んだ。


「あらあらミィちゃん、来てくれたのかい? 本当にいい子に育ってくれたねぇ」

「うん! 挨拶だよ!」


 おばさんは嬉しそうに頭に手を伸ばした。撫でようと思ったのだろうか。


「おばさん?」

「あらそうね、すぐに果物持ってくるわね」

「うんありがと!」

「お連れのお兄さんも食べるかい? ミィちゃんの分はサービスするよ」

「そうですね、頂きましょう」


 おばさんからりんごのような見た目をした赤い果物を自分の分だけ買った。本当に一つはサービスらしい。

 それを食べると食感は苺だが、味はりんごの甘味を抑えたような味だった。


「んふふー、あまーい! これねーすっごく高い果物なんだよー?」

「そうなんだ」

 

 これが、か。

 ミィは幸せそうに果物にかぶりつくと口の周りをベタベタにしている。


「お兄ちゃんはなんで巫女さんのこと知りたいのー?」

「あー、冒険者なんだ、その関係で少しね」


 果物を飲み込み目を輝かせてお願いされる。


「冒険者なんだ! ミィね! 街の外見てみたい! 外に出たらいけないんだって……ダメ?」

「まかせろ! でもその前にご飯食べようか、いや、やっぱり外行ってからだな」

「――? わかったー!」


 いい街のようだし今はこの子の願いくらい叶えてあげたい。

 しかしどうしようか、まさか水の中を行くこともできないしな。行ってから考える!

 街の外に繋がる橋に向かって歩いていると度々声をかけられる。もちろんミィにだ。誘拐だとは思われていないようだ。


「ミィちゃん元気?」

「うん! 元気だよ! 挨拶!」

「そうかそうか、これ食べな?」

「ありがとう!」


 食べ物を渡されたり立ち止まって話をしたり。ミィは人気者なんだろうなとセイギは思った。

 そんな中一つのお店の前でミィは立ち止まり物欲しそうに見ているものがあった。だらしなく寝転がっているネコの髪飾りだ。


「ほしいの?」

「……うん、でも」

「買ってあげるよ?」

「物はあんまり、でも、このくらいならいいかなー? ……うん! ほしい! この黒い猫さんがいいな! 白い猫さんは友達にあげたいんだけど、ダメかな?」

「いいに決まってるだろ!」


 友達にあげるなんて、なんて優しい子なのだろうか。素晴らしすぎる。

 ミィは黒い猫の髪飾りを付け嬉しそうに笑うと、白い猫の方は大事そうにポケットへとしまった。

 しばらく歩くと橋が見えてくる、橋は降りていたが、その前には門番をしている騎士がいた。

 

「お兄ちゃん、やっぱり無理かな?」


 セイギの服をギュッと掴み寂しそうに顔を下に向ける。


「まかせろ! 見えなくする!」


 セイギは魔法を作った。光の屈折で姿が見えなくなる魔法だ。

 魔法をかけてそのまま門番の前を通り過ぎようとするとミィは不思議そうにしていた。


「ほ、ほんとに見えなくなったの? お兄ちゃんは見えるよ?」

「ん? 誰かいるのか?」


 門番の言葉を聞き、両手で口を押さえるミィと顔を見合わせると走った。街の外に出てからもしばらく走り、声が聞こえない距離までくると二人で笑いあった。


「あはははは、お兄ちゃんすごーい!」

「ふはははは、まっかせろい。次は空でも飛ぶか?」

「できるのー!? 飛びたい飛びたーい! 肩車してー!」

「まっかせろい!」


 また新しい魔法を使った。ミィを肩車して空から見る光景は美しく、楽しかった。湖に浮く国は改めて見るととても幻想的で、太陽の光が目に眩しい。反対を向くと果てしなく広がる草原に、そこを駆けるモンスター。髪を撫でるそよ風、はしゃぐ声。心が温まる。


「ほら、これ食べるか?」


 そういってセイギが渡したのは肉まんだ。それを不思議そうに受け取ると警戒もせずすぐにかぶりつく。

 

「――! おいしい! なにこれなにこれ!」

「もっと食べたかったらいつでも言うんだぞ、空を飛んだ感想はどうだ? これだっていつでもやってやる」

「すごーい! 鳥さんみたいに自分の羽で飛んでるみたーい! いいなー、魔法ってすごいんだね、私も羽があったら……どこまでも行けるのかな……もっといろんな世界を見に行ってみたいなぁ」

「見に行くか? 俺さ、国を作るんだ。ミィも来るか?」


 ミィの姿は見えないが、少し寂しそうな声は聞こえた。


「ううん行けないよ、私ね、もうすぐ巫女になるんだ。たくさんの病気の知識を覚えて、人を助けるの。それにね、私が巫女になる修行をしないと、おじいちゃんに迷惑かけちゃうかもしれないから」


 巫女、特定の人物ではないのか、医者みたいなものなのか? だとしたら探すのは大変そうだな。


「そういうもんなのか? いつからその修行ってのは始めるんだ?」

「うん、言えないけどまだまだだよ! お城にね招待されて素質があれば勉強するの! ほらここからでも見えるよ!」


 ミィの指差す方向には街の中心に城が見える、大きく立派な建物だった。


「あっ! こっちにはおっきなモンスターだ!」

「冒険者みたいに倒そうか?」

「ダメだよ! モンスターだって生きてるんだからそんなに乱暴な事しちゃダメ!」

「そうか、そんなもんか」

「そうだよ! そろそろ孤児院に帰ろっか? お兄ちゃんも今日は泊まっていかない? ね、お願い!」

「じゃあそうしようかな」

「うん」


 そのまま見えなくなる魔法を使い、孤児院へと向かった。


「おじいちゃーん」


 ミィは走って中へ入っていく、セイギはその後をついていった。

 テーブルを囲んで子供たちが待っているようで、そこにはおじいさんがいた。ヒゲの生えた優しそうなおじいさんだ。


「おかえりミィ、食事の準備はできておるよ」

「うん!」


 おじいさんの横に座るミィにおじいさんは頭を撫でようとしたのか手を伸ばすと、それを引っ込めてこちらを見た。


「そちらの方は?」

「うん! 今日遊んでもらったの! 泊めてあげてもいいかな?」

「あ……、そういえば連れがいるんでした」

「そうですか、ミィをありがとうございます。お連れの方もいらっしゃったらどうぞお泊りください。……おや? ミィ、その髪飾りはどうしたのじゃ?」

「お兄ちゃんに買ってもらったの!」

「そうかの、よかったの。……では、いただこうか」


 テーブルの上には今まで見たことのあるより豪華そうな食事が並んでいた。何かの肉、魚、高いと言われた果物。ミィが食べるとそれをみんな食べた。

 食事が終わり、部屋へと案内される。

 しばらくしてミィに呼ばれて孤児院の外に出た。どうやら行きたいところがあるらしい。


「白猫さんの髪飾り渡しに行きたいの!」

「もう夜だぞ? 明日でもいいんじゃないのか?」

「今渡したいの!」


 そう言うミィについて行くと一つの民家の前で足を止めドアをノックした。

 中からはボロ布を纏ったボサボサの髪をした幼女が顔を半分だけだした。


「ミィちゃん? 会いに来てくれたの?」

「うん! 挨拶しに来たんだよムゥちゃん、これあげる!」

「い、いいの?」

「うん! お兄ちゃんに買ってもらったんだ! お揃いだね」

「ありがとう……」


 白猫の髪飾りを手渡された幼女、ムゥは一度セイギに向かってお辞儀すると、大事そうにそれを握り締めた。二人はとても仲が良いのだろう楽しそうに笑いながら談笑している。会話を聞いていると民家の奥から声が聞こえた。


「いつまで話してるんだい! 早く戻ってきな!」

「……ごめんなさいお母さん。また……ね、ミィちゃん」

「うん! またね!」


 バイバイといったように小さく手を振り返していた。


「行こっかお兄ちゃん」


 元来た道を孤児院に向かって歩く間、セイギは疑問に思ったことを話す。


「あの子はさ、幸せなのかな?」


 そんな言葉が漏れる。

 あの子はミィと比べて全然いい服を着ていなかった、髪だってボサボサで、やせ細っていた。 


「んー、ムゥちゃんはね、お兄ちゃんがいて大好きなの。ちょっとお母さんが厳しいこともあるけど。でも幸せなんじゃないかな? お兄ちゃんがいれば他は何もいらないって思ってるんじゃないかな? たぶんだだけど話してるとそんな感じだよ」

「そうか」


 人によって幸せと感じることは違うだろう、あの子はお兄ちゃんの側に居ることが幸せなのだろう。なら無理に連れて行くこともできない、今何かを作って与えてしまっては現状が嫌になってしまうかもしれない。そのお兄ちゃんがあの家を出ていくことを決意しないとあの子の人生は変わらないか。

 考え込んでいるセイギに、ミィは下から顔をのぞかせた。心配しているのだろうか。


「どうしたの? なにかあったの?」

「いや、なんでもないよ。ミィは幸せ?」

「うん幸せだよ! おじいちゃんも優しいし、みんな優しいから大好きだよ! だから私は巫女になってみんなに幸せをお返しするんだ!」 


 そう言って輝くように笑顔を見せてくれた。

 だが孤児院に帰ると部屋に押し込むように追いやられた。

 どうしたんだよいきなり。


「また明日ねー!」


 そう言って手を振りドアを閉められた。ベットに向かうと、ドラゴンが寝そべっていた。


「……お前、よくここがわかったな。いつの間に居たんだ?」

「セイギ様の事はなんでもよくご存じですよ、あの幼女の事が気になっているのでしょう? ささ、これをお収めください、あの幼女の日記です」 


 日記を受け取りながら言う。


「で? いつから居たんだ?」

「セイギ様が昼間に孤児院に向かい、そのあと幼女と街の外に向か――」

「ストーカーしてやがったのか!」

 

 そして少しだけ悪いと思いつつも日記を開く。


 セイギ様セイギ様セイギ様セイギ様セイギ様セイギ様セイギ様セイギ様セイギ様セイギ様セイギ様セイギ様セイギ様セイギ様セイギ様セイギ様セイギ様セイギ様セイギ様セイギ様セイギ様セイギ様セイギ様セイギ様セイギ様セイギ様

 ラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブラブ


「やっぱりお前ストーカーか! 奴隷商の時のもお前の日記だろ!」

「はぅぇ!? ただ私は愛を伝えたいだけです!」


 面倒だと思ったセイギはもう一つのベットで普通に寝た。

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