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最高の幸せ

作者:

 私は水木(みずき)(あや)

私は今、彼との待ち合わせの場所に向かっている。彼とは週に二回ぐらい会っているが、彼も仕事があるので、デート出来る日はめったになく、いつもは夜に少し合うぐらいである。だから、今日は嬉しくてたまらない!どこへ、遊びに行くのかも楽しみだが、彼と一日一緒に過ごせることが、なによりもうれしい。

もうすぐ、彼と待ち合わせしているところに着く、彼はもう来ているだろうか?楽しみで仕方がない。色々と楽しい事を考えながら、彼と待ち合わせしている公園に着いた。

私は公園に入るなり、彼を見つけた。私が手を振ると、彼は恥ずかしそうに手を振り返してくれた。私は彼の方に歩き、傍に行くと彼が照れた様子で言った。

「いちいち、手を振らなくても分るだろう。誰かに見られたら恥ずかしいだろう。」

「いいじゃない。久しぶりのデートなのよ。楽しまないと。」

 彼の名は、浅井(あさい)(しん)。恥ずかしがり屋だが、優しくて頼りになる。どんな時でも私を守ってくれる。真のような人には、もう会えないと思うくらい優しい人。

 私が真に会ったのは二年前。私が仕事のことで悩み、落ち込んでいた時に、真が話しかけてきてくれた。

当時、真は入社一年目で、私は二年目だった。私は真より三歳年上で、会社では優秀な方だったのだが、真が来てから少しずつ私は仕事がうまくいかなくなっていき上司に怒られる日が続いた。

私は、いわゆるスランプに陥り悩んでいた。そんな私に、真は声をかけてくれた。

「水木さん、最近元気ないですね。どうかしたんですか?」

私はその時、真に話かけられても無視していたが、真はそれでもずっと話かけてくれた。私は最初、真がどうしてそこまで話しかけてくれるのかがわからなかった。

真は接客が会社で一番上手で、大手の企業が来る接待などは必ず行っていた。そんな人が、今スランプで何をしてもダメな私に声をかけ続ける意味がわからなかった。私は、そんな真がうっとうしくて怒った。

「私に構わないで!どうして、いつも話しかけるのよ。迷惑なのよ!」

真は、私に怒鳴られて驚いた様子だったが、真は私の顔を見て言った。

「そんなに迷惑ですか?僕は水木さんの事を尊敬しているので、少しでもお役にたてればと思ったのですが・・・。すみません。」

それ以来、真は私に話しかけなくなった。私は少し寂しくなった。今まで話しかけてくれていた人が、急に話しかけてこなくなると、さすがに寂しかった。

私も言い過ぎたと思い、謝ることにした。私は、真を呼び出し謝った。

「この前は、ごめんなさい。私、最近仕事が上手くいかなくて、すごく威らついていたの。あなたが、私を心配してくれていることは、十分すぎるほどわかっていたのだけど、今のあなたがうらやましくて、怒ってしまったの。ただの、嫉妬ね。私も、前はあなたのように、みんなから期待されていたけど、今はダメ。あきらかに、私を見捨て。今は、あなたに期待している。そんな、あなたがうらやましくて、ついつい怒ってしまったの。本当にごめんなさい。」

 私は、頭をさげて謝った。真はすぐに私の前に立ち、頭をあげるように言ってくれた。私は、ゆっくりと顔をあげた。すると、真は笑顔で私に言った。

「いいんです。僕は、水木さんが元気になってくれたらそれでいいんです。水木さんに言われたことは、気にしていませんから、心配しないでください。」

 真は、優しく私に言ってくれた。それをきっかけに、私と真は仲良くなり、プライベートでも遊ぶようになった。それを何度も繰り返すうちに、私は真の事を好きなった。私は、真に告白しようと思っていたのだが、恥ずかしくてなかなか言えなくていると、真から告白してきてくれた。

「水木さん。す・好きです!ぼ・ぼ・僕と付き合ってください!」

 真は、顔を赤めながらいった。私は、喜んでうなずいた。真は喜んで、私を抱きしめた。私は、恥ずかしくて、

「ちょっと。やめてよ。恥ずかしい。」と言うが真は、気にせず抱きしめてきた。

 私は、たいして嫌ではなかった。むしろ抱きしめられていると、真の温もりが伝わってきて心地よかった。

 そんなことがありながら、ここまでやってきたの。まぁ、気がつけば、真は敬語を使わなくなったけどね。でも今は、私・・・。本当に幸せ。大好きな彼とこれから一日、一緒なのだから。

 私と真は、手をつないだまま公園から出た。すると、私たちの方にボールが転がってきた。真はボールを拾い、辺りを見渡し、ボールの持ち主らしき子供が走ってきた。

 そこへ、車が飛び出してきた。真は、焦り子供に来ないように叫ぶが、遅かった。子供は、そのまま道路に飛び出した。私が

「あっ!」と言った瞬間に、真はボールを捨て走った。

 私は真が、何をするかわかったので、真を止めようと手を伸ばしたが間に合わなかった。車のブレーキ音と、ともに真は子供を突き飛ばした。だが、真はそのまま車にひかれた。

私は、すぐに真のもとへと走った。真はうつ伏せで、ぐったりとしている。私は、真を仰向けにした。真は、頭から血をだしていた。私は涙ぐみながら、真に呼びかけた。

「真!しっかりして!目を開けて真!」

すると、真はうっすらと目を開けた。私は少し安心した。

「綾・・・。あの子は無事か?」

「うん!大丈夫。子供は無事だよ。」

「そうか。よ・か・った・・・。」

そのまま、真は意識を失った。私は何度も真に呼びかけた。車は真をひいた後、数十メートルの場所で止まり、運転手が出てきて急いで携帯電話で、電話をして救急車を呼んでくれた。

 運転手が、こちらに近づいてきた。私は、運転手を睨んだ。運転手は、私を見て一言、

「すみません」と謝った。私は一瞬、運転手を殺してやろうかと思ったが、止めた。子供が泣き始めたからだ。

子供は、真に突き飛ばされて、背中を強く打ったので痛くて泣いているようだ。そこへ、子供の母親らしき人が走ってきた。車の急ブレーキ音に、気がついて出てきたのだろう。女の人は、子供に近づきどこも怪我をしていないかを確かめて抱きしめた。

 私は、その光景を見てよかったと思った。真のした事は、無駄ではなかったと思った。

 私は、耳をすませた。救急車の、音が聞こえてきた。救急車は、私たちの近くまで来て止まり、救急隊員が降りてきた。救急隊員は、状況を聞きながら担架を救急車からおろして、真を担架に乗せて救急車に運び込んだ。私も、一緒に乗り込み病院まで一緒に付いて行った。

 病院に着くと、すぐに真は検査を受けた。傷はさいわい軽く、大きな怪我はなかった。検査の結果も、問題はなく。真は病室に運ばれ、私も中に入り意識が戻るまで待つことにした。

 私は次の日に、会社に連絡し真がどのような状態かを説明した。すると、上司が私に気を使い、休暇をくれた。上司は、

「事故の後始末も全部してやる」と言って私に休暇をくれた。

 私は、それに甘えて休暇をとることにした。これでずっと、真の傍にいてあげられる。私は、真が目覚めるまで病院に、朝の早くから夜の遅くまで通い続けた。

 それから、三日たち。いつものように、真の横で座っていると、真が動いた。私はすぐに、真に呼びかけた。すると、真の目が少しだが開いた。私はすぐに、看護師さんを呼んだ。

 看護師さんが来ると、私は状況を説明した。看護師さんは、真にいろいろ話しかけた。だが、あまり反応がないので、看護師さんは私に

「話しかけてみて」といった。私は、言われたとおり話しかけた。すると、少しだが反応し目をうっすらと開けた。

 看護師さんは、それを見ると病室を出て医師を呼びに行った。私は、その間必死に呼びかけ続けた。

 すぐに、医師と看護師さんが来て、真に話しかけた。何度か、話しかけるうちに真が目を開け、しゃべった。

「こ・こ・は?僕・は・いったい。」

私は、うれしくて涙がでた。私は嬉しくて、真を抱きしめた。

「よかった!本当によかった。」

 私は喜んだが、次の瞬間に喜びが消えた。まさか、こんな結果が私を待っているとは思いもしなかったからだ。

「あなたは?誰ですか?」

 私は、戸惑った。真は、今はじめて私を見るかのごとく言った。私は、冗談だと思い、笑った。

「ちょっと、何言ってるのよ。私よ。綾よ。」

「すみません。本当に知らないんですよ。」

 私は愕然(がくぜん)とした。本当に真は、私の事を忘れてしまったのだろうかと。すると医師が、いくつか目を覚ました真に質問した。質問を終えると、医師は病室から出て私を呼んだ。私は、病室から出て医師に話しかけた。

「真は、どうしたんですか?私の事なんか、全く覚えてないみたいで。」

「そうですね。あなたの事を、覚えていないのは事故のショックで、浅井さんが記憶喪失になっているからでしょう。」

 それを聞いて、私は驚いた。真が記憶喪失、だから私の事を覚えていない。私は落ち着いて、医師に聞いた。

「記憶喪失ということは、何も覚えていないということでしょうか?」

「いえ。そうでもないです。日常的な事は、覚えているようなので生活に支障は出ないでしょう。それに、記憶喪失というのは、何かちょっとしたきっかけで、思い出したりするので、あなたの事もいずれは思い出すと思います。」

私は、医師の話を聞き、真の記憶が戻ることを信じた。医師は、状態を説明した後、二・三日で退院はできるだろうと説明した。

病院でいるよりは、記憶が戻りやすいので、退院を早くしてくれるそうだ。ただ、仕事の方は少しの間休んだ方がいいとのことだったので、とりあえず医師の話が終わった後、すぐに会社に連絡し、上司に真の状態を説明した。

 上司は、私の説明を聞いて、退院しても一ヶ月は休むようにと言ってくれた。しかも、私も一ヶ月休んでいいとのことだった。そのかわり、真の記憶をできる限り早く治すということだった。

 さすがに、難しいかなと思ったが、私は上司に必ず記憶を戻すと約束した。真が退院してから、私は真の家に住むことにした。そうすることで、真の記憶が戻るのではと考えたからだ。

 私は、真の記憶が戻るように、いろいろな場所に連れて行った。海・遊園地・水族館といろいろな場所に連れて行ったが効果はなかった。むしろ、海はこの時期かなり寒く記憶が戻るわけがなかった。

 真の記憶を戻すために、いろいろな人が来てくれた。会社の同僚や先輩、学生時代の同級生が来て、昔の話や思い出の場所などに連れて行ってくれたのだが、それでも効果はなく。時間だけが過ぎていった。

 私が、洗い物を終わらしリビングに戻ると、真がカレンダーを見ていた。私は、真の隣にいった。真は、カレンダーを指差し私に言った。

「明日、赤丸がうってあるんですけど何かあるんですか?」

私は、真の顔をみて答えた。

「明日は、クリスマスイブと言って、恋人達が一番喜ぶ日なの。」

 真は、なるほどといった顔で頷いた。そして、クリスマスイブに私はいつもと同じように真を外に連れ出した。クリスマスイブということもあり、今日は記憶が戻るんじゃないかと思い期待していたが結局、記憶は戻らなかった。

 私は、このクリスマスに全てをかけようと、真が教えてくれた、二人だけの秘密の場所に行くことにした。私は、その日の夜に真と出かけた。真は、不思議そうな顔で私を見るが、私は気にせず歩いた。

 そして、私と真はあの事故が起きる前にいた公園の中に入り、公園の奥にある茂みの中を進んだ。数分間歩くと茂みを抜けた。茂みを抜けた瞬間に、真は

「すごい!」と一言だけ言った。

 私と真の秘密の場所。そこは、まるで宇宙にいるかのごとくきれいな夜空が広がっているところ。私は、そこに座り込んだ。真も同じように私の隣に座った。

私は、夜空を見て真と出会ってからの事を思い出した。真との想い出は、楽しいことばかりで、毎日が幸せだった。私は、真の方を見た。真は空を見たまま動かない。

暗いせいで、真の顔もよく見えなかった。私は、ここへ来ても無理だったと思いあきらめた。真との思い出は、また新しく作っていけばいい。私は、そう思った。そして、私は真に話しかけた。

「もう、ここに来て真の記憶が戻らないなら、あきらめるしかないね。本当は、ここに来ることで記憶が戻るんじゃないかと思っていたんだけど、甘かったみたいだね。」

 真は、空を見上げたまま何も言わなかった。私は立ち上がり、空を見上げた。すると、空から白い粉が降ってきた。雪だ!私は、空に向かって手を広げた。

「わぁ〜。きれい。前に、あなたと来たときも雪が降っていたんだよ。悔しいな。せっかくの、ホワイトクリスマスなのに、私の願いはサンタさんには届かないみたいだね。」

 私は、こんなに寂しい日はないと目に涙を浮かべた。その時、後ろから真が抱きしめてきた。私は、驚いて

「何?」と聞いた。真は、少し黙りこんだあとに口を開いた。

「メリークリスマス。・・・綾。」

 私は、さらに驚いた。真が、私の名前を口にしたのだ。真は、私の体を離した。私は、真の方を向き言った。

「もしかして、記憶が戻ったの?」

「綾、いろいろ心配かけたみたいだね。ごねんな。もう心配いらないよ。俺はここにいる。」

 真だ。記憶が戻ったんだ。私は、真に抱きつき泣いた。真も、私を抱きしめてくれた。私は、この瞬間が一番人生で幸せだと感じた。クリスマス。・・・最高のプレゼントをありがとう。

 二人を、包み込むように優しく雪は降り続けた。クリスマスとは、全ての人を幸せにする日。世界中が幸せに充ち溢れる日。サンタクロースという、願い事をかなえてくれる人が、その日だけ来てくれる。願いの詰まった袋を持って。その日、サンタクロースは世界を回り、世界の人たちの願い事を叶えてくれる。

 そして、サンタクロースは一人の願い事をかなえた。水木綾の、もっとも叶えて欲しい願い事を。水木は、これから一生この日の事を忘れないだろう。そして、この日を境に二人の愛がさらに深まり二年後に二人が結婚したことは言うまでもあるまい。


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