第一層・ボス戦の行方
ゲームの世界へ戻ってくると既にクロウ、レッド、エルシスが戻ってきており、談笑していた。
俺が帰って来たことで話題が変わり、戦闘スタイルに関する話になった。
このパーティーで一番の問題は俺なのだから。
普通のライフルであれば問題は無かったのだが、固定しないと使えない問題児。
現状でのパーティー最大人数が8、パーティー表示枠には空欄が三つほどあることから今後何かしらのイベントで増える可能性はあるが。
だから、今後どうやって戦うかがカギになって来る。
高い所から狙撃するにしても、一人だと防衛が出来ない、狙撃手防衛を数人つけると接近戦で不利になる。
そこで、クロウから提案が出た。
「狙撃は無し、良くて今みたいに全員で行動していて、見晴らしの良いところでの長距離戦に留めよう」
と。
それからは、再び他愛もない世間話やゴブリン狩りのコツやエルシスに戦闘方法を教えたりして残りの四人を待った。
しかし、レイ、レア、ミアは戻って来たものの、ライトアが一向に戻ってこず心配しているところで、メニューが勝手に開かれ警告音が鳴り響いた。
俺だけではなく、他の皆も鳴っているみたいで驚いている。
メニューをよく見ると、赤文字でWarningと表示されているメールが来ていた。
内容は、ボスの索敵感知圏内へ入ったとの事だった。
補足でこの機能は第一層でしか働かないと書いてあった。
が、そんな事よりも、ボスがどこに居るのかが問題だ。
それがわからなければどこに逃げたらいいか見当もつかない。
敵が見えてから逃げても距離的に逃走が出来る可能性はない。
そうなれば、一か八か戦うしかない。
そう腹を決めたのか、クロウから大雑把な戦闘指示が出された。
「前衛は三人しかいないからとりあえず敵の足止め、後衛はヴィランを囲むように陣を組んで敵を牽制しろ、ヴィランは敵を捉え次第撃て」
この指示が出てから、即座に正面を見て銃を構える。
視野に入った敵は8体、そのうち2体が普通のゴブリンより大きい。
赤いゴブリンとはまた違う、ゴブリンが3倍ほど大きくなった個体。
残しておくと前衛の負担が多くなりそう……
そう判断し銃口の向きを変える。
標的を中心に入れてトリガーを引く。
弾道上に居た普通のゴブリンを貫いて大きいゴブリンに当たるかと思った瞬間に避けられた。
弾速と距離的に普通なら避けられないはず。
つまり、何かしらのスキルを持っている可能性がある。
もしそうだった場合、最悪弾を当てられずに他の雑魚がここに辿り着く。
先に小さいゴブリンを倒す。
私はまだ銃を使い慣れていないから、いちいち銃口を固定して撃たなければならない。
故に、相手に一瞬の避けるタイミングが生まれてしまう。
その一瞬で避けられたら再度調整する必要が出てくる、が今はそんな猶予が無い。
どこまでの連射が利くか分からないが出来る限りサイトに敵を入れたら直ぐ撃ち避けられたら直ぐ向きを変えて敵を視野に入れて撃つ。
それを繰り返し普通のゴブリンは処理できたが、大きいゴブリンは相変わらず当たってくれない。
大きいゴブリンが前衛と交戦を開始し、クロウがレッドとレイに指示をだす。
「レッドは応戦、攻撃は当てなくていい生き残れ! レイは敵を攪乱させるために敵の周囲を駆けまわれ!」
これは勝つために戦うのではなく、生きて帰るための戦いだと宣言するような指示を前衛に出した後、後衛にも指示を出す。
「後衛は敵の位置を見て攻撃が絶対に届かない場所に行け! そしてエルシス以外は隙を見て攻撃しろ! ヴィラン以外は攻撃よりも周囲の警戒を優先しろ!」
と言い切り、レイとレッドがギリギリで維持している前衛に加勢。
後衛の為に敵を抑えはじめた。
それにより私たちは比較的安全に敵を狙う事が出来、少しずつだがダメージを与えられるようになった。
けれど、銃では静止している時じゃない限り味方と敵を同時に打ち抜くことになりそうで与えられるダメージは少ない。
それに、戦っている2体の大ゴブリンの後ろにはボスであるゴブリンキングが控えている。
ゴブリンキングを倒せば戦闘が終わるのかは分からないが、ダメージを与えられる状況が限られている現状での最適な行動だと信じ移動しつつ敵の死角から銃を撃てるタイミングを待つ。
だがそう簡単に狙わせてくれる奴らではない。
基本的にボスと俺との射線上に大ゴブリンが配置され、視野に入れる事すら難しい状況が続いている。
が、前衛三人の攪乱によって一瞬ボスが見え、引き金を引く。
弾は真っすぐボスに向かって飛び、大ゴブリンの横を通過、ボスまで一直線、障害物無しの好条件だったが、瞬間ボスがかついでいた二枚の大盾を持ち弾を防ごうとする。
そして、大盾に当たった弾ははじかれ、大盾に多きな窪みを残した。
その直後、大ゴブリンはボスの危機を察知し今まで以上にボスを狙う事が難しくなった。
しかし、好機はすぐに訪れた。
ボス戦前に居た場所に、光の柱が生まれ、ライトアが戻って来たのだ。
急に人が現れると思ってもいなかったであろう大ゴブリンは後方からの打撃で驚き、隙を見せた瞬間にレッドによって足を払われた。
その瞬間を見逃さずレッドの斧とクロウの長剣によって沈められた。
残る獲物は、大ゴブリン一体にボスのみ。
大ゴブリンは相方が敗北するのを予期しておらず、狼狽えている瞬間を見逃すことなく銃弾を撃ち込む。
その銃弾を避ける事が出来ず二体目の大ゴブリンが居なくなった。
後はボスだけである。
そう狙いをつけた時、ボスの後方に何かが居るのが見えた。
これは、始めてボス戦を見た時に居た援護隊ではないかと思ったときには遅かった。
一射目が飛来し、レッドとクロウに命中した。
私はとっさに叫ぶ。
「敵の射撃隊だ、後ろの対処は私がするからボスを抑えてくれ!!」
確信があったわけではない。
弓が飛んできた位置には既に居ないだろう。
つまり、次に獲物を狙い止まっている所を私が打ち抜くしかないのだ。
飛んできた矢は四本。
全て前衛を狙ったものだった。
つまり彼らが良く見えるボスの周囲のどこか。
草の中、木の裏、木の上。
目を凝らし獲物を探す。
そして一発目。
木の上で弓を構えていたゴブリンを排除。
それを察知したゴブリンが動き配置を変えたが、それを見逃さず二体目を排除。
相手も動くのをやめターゲットをこちらに向けて弓を発つが、前衛を狙うための位置からでは距離が足りず居場所が分かった片方を排除。
残る一体は既に移動したらしく、矢が出てきたところには既に居なかった。
逃げたかもしくは俺を狙いに矢の届く範囲に移動しているか。
私たち後衛四人はボスから離れ反対側の森の前に居る。
元々後ろを警戒していたレアとミアは今前を向いてボス戦の援護をしている。
つまり後方はエルシス一人に任せきりなのだ、さすがに一人ではまずいと思い銃の向きも変え後方の警戒に入ったその時。
「危ない!!!」
とエルシスの声が聞こえ咄嗟に向きを変えたが、矢を避けきる事は出来ず左肩にヒット。
ゲームだからか激痛というわけではなく静電気が走ったくらいの痛みを感じたが、引き金を引き何とか四体目のゴブリンを排除。
今までは攻撃を受ける事があまりなかったから気づかなかったが、体が重く感じる。
現実とこの世界の差は痛みの大きさと痛みを感じる時間の長さ。
現実では痛みがある分動けなくなるが、この世界では痛みが一瞬で消える分動ける事。
だからと言って無理するとHPが無くなって死ぬ。
だけど今は、キングを取り巻く全てのゴブリンを倒し、ようやく、ボスに集中できるようになった。
とはいえ、普通のゲームではない以上、音を聞いて集まって来る野良ゴブリンにも注意しないといけないため、後方警戒をエルシスに頼みボスを狙撃する体制に入った。
敵の動きを見て、隙を伺い、パターンを探し、弱点の頭をめがけて撃つ。
大盾を使っているキングにどれだけ筋力があると言っても攻撃した瞬間に撃たれれば避けるしかないし、仮に避けたとしてもその隙に別の攻撃が飛んでくる。
キングは銃弾が急所に当たらないよう少し体を傾け、銃弾をギリギリで躱し攻撃した。
距離があったから避けられるとは思っていたけど、ギリギリの選択をするとは思ってなかった私は弾の速度を上げるため銃口を調節した。
銃口を小さくすることで銃内部で生成された魔力が銃外部に出る時大きさを変え、細く小さくする事が出来る。
また、内部には魔力塊を複数個に分ける事が出来る物もあり、条件さえそろえば連射も出来るようになっていたりする。
何度も雑魚ゴブリンと戦っていた時に色々試しに弄ってみた成果だ。
銃口を絞ったことで銃口と魔力の大きさに差ができ、弾が長くなる。
その無駄をなくすため、この銃は自動的に調節し結果魔力の消費も抑えてくれるらしい。
つまるところ、打てる量が増えたのと、弾の大きさが小さくなり発射時にかかる反動の力が小さくなるという事。
それに気が付いたのはボスが前衛を攻撃した瞬間を見逃さずに銃を撃った時だった。
そして、その弾は盾に防がれることなくキングの右腕にヒットした。
弾が小さくなったことで速度も上がり着弾のタイミングが変わったことで盾が間に合わなかったのだろう。
驚きと痛みでできたキングの隙を見逃さず出来る限りの連射で追い打ちをかける。
左手で持った盾は思うように動かせるようだが、右手の方は明らかに鈍く、弾をうまく防ぐことが出来ず更に右腕一か所、右脇腹二か所の計三か所を負傷した。
段々と追い詰められるゴブリンキングの顔には焦りと怒りと苦痛の混じった形相でこちらを睨む。
その目を見た俺は畏怖され銃を持つ腕が振るえて照準がぶれる。
それを近くに居たエルシスが見逃さず肩に手を置いて安心させてくれた。
安心した俺は迷いなく銃を構えキングを撃つ、前衛の猛攻に左手だけで応戦していたキングの右足を狙った銃弾が二発着弾。
最早動くことすらできないキングにとどめを刺すべくこれまで以上に攻撃を繰り返していく。
俺も盾で防がれないタイミングを狙い頭を狙う。
そしてその時はやってきた。
弾がキングの耳を抉り周囲に鮮血を吹き散らしたのだ。
このゲームではモンスター側が攻撃を受けると出血という状態に陥る。
プレイヤーは電子体故か傷跡は残るだけでその傷も治療すればきれいに消える。
そういう事もあってプレイヤーは攻撃を受けても回復が必須とまではいかないが、モンスター側は回復しないと出血で死んでしまう。
腕や足、腹などは比較的エネルギーを集中させやすいため自然治癒で何とかなる。
っていう場面を何度か見たけど。
この前衛と俺の攻撃が来る状況では気を抜くと別の場所を負傷する。
それに数か所傷を治してしまっているキングにはもうあまり無理が出来ないだろうと信じ、狙いを頭部だけでなく全身に変え、傷を治させないように戦う。
後は時間を稼げば勝てると皆が確信したその時、キングは攻撃を受ける事を気にせずラトイアとレッドの方へ突進し攻撃射程を伸ばす為に盾の縁をもって横に薙ぐ
剣で受けようとしたレッドが吹き飛ばされ、そのままラトイアに直撃した。
吹っ飛ばされたレッドは攻撃を剣で受けた時に左腕を斬り飛ばしてしまったようでとても危険な状態。
ラトイアは動かず近くに誰もいないため状態が分からない。
そしてようやくキングがその場から動かない瞬間が出来て、胴に三発の弾を撃ち込む。
が、弾が当たる直前にラトイアに向かって盾を投げた。
その盾はラトイアに直撃し残りの体力が低かった為、光の粒子となって消えてしまう。
ラトイアが消えていくのに皆が目を向けたその直後、大きな音を鳴り響かせてキングが倒れた。
それと同時にレベルアップ通知と、スキルの獲得、称号の獲得、次の階層への道しるべなどいろいろな通知が押し寄せてきた。