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季節廻る国の童話

作者: 摩子猫

冬の女王様は、毎年自分と入れ替わる春の女王様から、

おりおり話を聞いておりました。


私が来ると、あたりは芽吹めぶき、冬眠していた動物も起きて、

それはそれは美しい、ということを。


冬の女王様は、毎年入れ替わるごとに、

春の女王様が「ちょっとだけ」うらやましくなり、

「ちょっとだけ」ねたましくもあり、

ついに春なんて来なければいいと思ってしまいました。


自分のもたらす冬も、ほら、美しいでしょう、

と思っていました。


雪原の野に咲いたような雪の結晶や、

歩くとザクザクと音を奏で、

ふうわりとからだを支える霜柱、

森の樹々は葉の代わりに自ら氷をまとい、

しんと静まった町中、国中が、静謐せいひつな、厳かなたたずまいでいます。


そして、春の女王様も、

冬の女王様の気持ちの変化に気が付いておりました。


春の女王様は、思いました。


ああ、なんて私は、

いつも自分の季節ばかりを自慢してしまったのかしら、と。


貴女の冬も、十分美しいと、なぜ言えなかったのかしら、と。


春の女王様が、自分を恥じているなか、ふとどこからか声がしました。


「春の女王様、ぼく、お役に立つことができるかもしれません!」


そう言ったのは、雪の下から現われた、小さな小さなふきのとう。


「ぼくは、冬の女王様のふらせる雪の下で、ここまで大きくなれるんです。」

「そして、春の女王様と冬の女王様のバトンタッチで、

 みなさんに春が来たよ!って教えることだってできるんです。」

「だから春の女王様、ぼくをつれて、冬の女王様に会いに行きませんか?」


小さな小さなふきのとうは、そう言って、

冬の女王様と春の女王様の間に立とうとしました。


それを聞いた春の女王様は、

「ああ、それなら冬の女王様に、冬の間でも、

 こんなに頑張っているものがおりますよ、と、お伝えできるかもしれません。」

と言って、ふきのとうのまわりの土を、そっとひとすくいし、

短い手紙を添え、そのまま一直線に塔の冬の女王様のもとへと送ります。


「頼みましたよ。」

と、ひとこと告げて。


一方、冬の女王様も、悩み苦しんでおりました。


私は何をしているのだろう。


王様も、国民も、周りのだれもかれもが、

一刻も早く季節の変わり目を待ち望んでいるというのに。


冬の女王様の心は、まさしく冬の代名詞でもある氷のように、

かたくかたく閉ざされようとしておりました。


その時、遠くからこちらにふわりふわりと、

でも早い速度で何かが来ることを察知し、次の瞬間、

冬の女王様の足元に、雪をかぶったふきのとうがこうべを垂れておりました。


「初めまして、冬の女王様。」


ふきのとうは、まず丁寧ていねいに挨拶をし、それから話し始めました。


「冬の女王様、ぼくは貴女がふらせてくださる雪がなければ、

 ぼくにやさしくおおいかぶさってくれる雪がなかったら、

 こんなに大きくなれませんでした。」


「そして僕は、冬の女王様と春の女王様がバトンタッチすることで、

 もっともっと大きくなるんですよ!」


「春の女王様も、冬の女王様のお気持ちを察してあげられなかったと、

 延々悔いておられます、だから・・・」


必死で語りかける、まだ小さな小さなふきのとうが、

顔を真っ赤にして話す愛らしさや、

どんなに冬の女王様が自分にとって大事かを、

とつとつと話していましたので、冬の女王様も、

なんだか可笑しくなって、クスクスと小さな笑い声を立てました。


ふきのとうが持ってきた、春の女王様からの手紙も、

冬の女王様の心の氷をとかすような手紙でした。


手紙には、こう書かれてありました。


「冬の女王様、どうかお静まりください。

 貴女の作る雪や氷の世界も、とてもきれいです。

 ただ、何事も順繰りにことが行われるのが、この世のことわりです。

 どうか、私のたわごとを、お許しください。」


二つ折りの手紙から零れ落ちたのは、桜の花、ただ一輪でした。


それをみて、冬の女王様は、ふ、と何かが吹っ切れたように笑い、

「ふきのとう、お疲れさまでした。

 私は春の女王様に、この場を譲り渡します。

 お前も、元いたところにお帰り。

 春が来れば、花々も咲き誇ることでしょう。

 それを春の女王様が教えてくださいました、

 この桜の花一輪で。

 ああ、今年もあちらこちらに、淡いピンク色のカーテンが見られるのね。」


ようやく思い出した、と言わんばかりの、

それは冬の女王様の晴れやかな声でした。


そんな冬の女王様に、ふきのとうが言いました。


「ぜひ今度、おふたりで、ぼくのところに遊びに来てくださいね。

 その時はぼく、おふたりの傘になれるくらいに大きくなっていますから!

 春の女王様のお仕事が終わったくらいが、一番いいと思いますよ!

 なんたって、その頃って、傘が要り時ですからね!」


そう言って、ふたりでにこっ、と笑って、約束しました。


そして、春の女王様にも、さらなる行動がありました。


なんと、夏の女王様と、秋の女王様にも、

それぞれに手紙を出そうと出そうと思っていたのです。


春の女王様は、これをきっかけに、みんなが仲良しになりたい、

と思っておりました。


それぞれ春・夏・秋・冬の女王様がおりますが、

会うのは季節が廻るときだけしかありません。


それぞれの女王様が、会っていない女王様もいました。


ですので、夏の女王様に一通、秋の女王様にも一通、

手紙を書きました。


それはこんな感じでした。


「夏の女王様、私は貴女がもたらす季節を知っております。

 さんさんと太陽が顔を出し、アサガオやヒマワリが咲き、

 夏ならではの果物を、国民みんなが待っていることを知っております。

 ぜひ今度、私と、秋の女王様と、冬の女王様で、

 楽しいお茶会でも開きながら、おしゃべりしましょうね。

 快いお返事を、お待ちしております。」



「秋の女王様、私は貴女がもたらす季節を知っております。

 樹々が色づき、コスモスやキンモクセイそれぞれが良い匂いをはなち、

 また果実もたくさん実り、国民それぞれが、

 おもいおもいの趣味を行うことを知っております。

 ぜひ今度、私と、夏の女王様と、冬の女王様で、

 楽しいお茶会でも開きながら、おしゃべりしましょうね。

 快いお返事を、お待ちしております。」


さらには、国王と国民にも、手紙を書きました。


「このたびは、王はじめ国民たちに、大変な苦労をかけてしまいました。

 私たち、季節を廻らせる女王それぞれが、

 互いに手を取り合わない限り、根本的な解決にはならない、

 と言うことを、改めて思い知らされました。

 国王には、要らぬ心配をかけ、国民たちには謝っても謝りきれません。

 二度とこのようなことが来ないよう、私たち女王が、

 手を取り合っていこうと思います。

 どうか見守っていてくださいね。」


その手紙それぞれに、やはり桜の花一輪を添えて、

夏の女王様と、秋の女王様と、代表して国王様に届くよう、

思いを込めて送りました。


同じとき、なんと、夏の女王様と、秋の女王様も、

思うところがあったのか、それぞれがそれぞれの女王様や、

国王や国民たちに、似たような手紙を送っていたのでした。


夏の女王様の手紙には、涼やかな青色のアサガオの花が一輪、

添えられておりました。


秋の女王様の手紙には、匂いたつキンモクセイの花が一輪、

添えられておりました。


春の女王様は、感激に震え、また涙をこぼしました。


やはり、女王様たちそれぞれが、自分以外の女王様のことを、

何らかの形で気にかけ、また、国王や国民のことをも、

大変心配しているのだ、と。



さて春の女王様は、一念発起して、今から準備に大忙しです。

ああ、もしも仲良しになれて、お茶会を開けたら、

何を持っていけばいいかしら。


そうだ、甘い甘い、イチゴを持っていきましょう。

女王様たちは、喜んでくれるかしら。

ハーブティーや、春ならではのお菓子も持っていこう。


などと、楽しい想像をしながら。


ほかの女王様たちも、きっと今ごろ同じ気持ちでいることでしょう。


まずは今年の梅雨時期、ふたりの女性が、

並んで大きなフキを傘代わりにしていたら、

そして何やらクスクス笑いながら話していたなら、

きっとそれは、仲良しになった春の女王様と冬の女王様なのかもしれませんね。


初めまして、読んでくださってありがとうございます。


好意的なご意見も、否定的なご意見も持たれやすいですが、

それでも読んだぜえええええ!!!とひとこと、お願いいたします。


無関心はイヤな、かまってちゃんです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 春の女王様や他の女王様たちがみんな優しく、お互い気遣い合うところが、読んでいてあたたかい気持ちになりました。 ふきのとうもすごく可愛らしかったです。 最後の終わり方も好きです! [一言] …
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