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短編集

トリップした世界がゲーム過ぎる件

作者: 青石 尚子

思いついて書きたい部分だけ書きましたので、とても短いのですが、最後までよんでいただけると嬉しいです。

 「なにそれ?」


 隣にいるさっき仲間になったリリアが得意げに胸を反らしてふんぞりかえっているのを横目に、俺の目は目の前の光景に釘付けだ。


 「最上級支援魔術の内の一つ、『書記官の情報収集』よ。敵の恥ずかしい過去や弱みやトラウマを書き起こしてぶつけることで、敵を混乱状態に陥れるわ」

 「……はあぁっ!?」


 薄い緑の髪を揺らすリリアは可愛いが、対照的に敵の阿鼻叫喚ぶりはひどかった。泣いて許しを請う者、虚空に向かって怯えながら威嚇する者、がくがくぶるぶると震えて座り込む者、そんな者ばかりだ。

 俺はバッとリリアの方を振り返り、わなわなと震える指で敵を差して叫んだ。


 「いや、だから、何でそれで敵が混乱状態に陥るんだよ! 情報収集だよね? リリア、高速で手帳に何か書いてただけだよね? 敵に見せてすら無かったよね? それでなんでこの惨状になるワケ!?」

 「何言ってるの? そんなの『書記官の情報収集』だからに決まってるじゃない。ちなみに、書かれた情報はこの手帳に残り続けるわ」

 「二段階でえげつねえ!!」


 俺がリリアとすったもんだと問答をしていると、「そんなことより、今がチャンスです」と冷静な声が注意を促した。

 ミルク多めの紅茶色の髪と目をしているメイドのララだ。こんな場所でもお仕着せの地味なメイド服に乱れは無い。両手を天に向けて何かを捧げ待つかのようにしていると、手と手の間に光が集まってきた。


 「『上級メイドのアップルパイ』、どうぞ召し上がれ」


 ララの両手の光がアップルパイの形を形作る。林檎の一つ一つがつやつやと輝いていてとても美味しそうだ。それが上から降りてきた何本もの光線にスライスされ、理想的な切り口をさらし、そして勝手に敵の口の中へ飛んでいった。

 その一連の動作は流れるように美しいが、いささかシュールだと思う。


 「って、そのアップルパイどこから来たの? そもそも何でアップルパイ? 回復アイテムちっくなもの、敵に渡して敵が回復したらどうするんだよ? ララ!」

 「大丈夫です。見ていればわかります」

 「見てればって……ええぇぇぇぇぇっ!?」


 アップルパイを口に入れた当初は恍惚とした顔をしていた敵は、みるみるうちにその色を土気色にしていった。中には嘔吐している者もいる。ますますもって近づきたくない集団が出来上がった。


 「ララ? いったい何をしたんだ?」


 おそるおそる聞くと、ララは満足げに解説する。


 「上級支援魔法の内の一つ、『上級メイドのアップルパイ』は、敵に毒を悟らせず毒を盛ることが出来る魔法です。あまりの美味しさに、全て食べおわるまで止まれません。この度は、即効性の毒を盛っていますので、ご安心ください」

 「アップルパイだよね!?」

 「アップルパイでなくとも、紅茶でも可能です。もちろん、遅効性の毒にも対応しております」

 「いや、そうじゃなくて! そもそも、メイドが毒盛るってどうなの!?」

 「主人の敵をそれとなく排除するのもメイドの仕事です」

 「怖えぇぇよ!」


 そんな怖いメイドは嫌である。断固お断りしたい。


 この世界に到着した当初はまだ夢があった。もしかして、剣と魔法の世界に異世界転移か!? エルフやけも耳もふもふを夢見た。チュートリアルなんてものは無かったから、試行錯誤してステータスらしきものを発見した時の喜び。「マジでゲームみたいじゃん。俺の時代来たー!」と叫んだ黒歴史。それらが次々と頭を横切る。


 発見したステータスがレベルと職業とスキルしか無い点に関しては、期待外れだったがまあ良い。俺の職業が学生(異世界)だったのも当然のことだろう。そのまんまだが。

 しかし、学生(異世界)にはスキルが無かった。いや、あるにはあるのだが、『暗記Lv.5』『異世界化学Lv.4』『体育Lv.7』などの微妙なものだった。

 この世界に神がいるのであれば、問いたい。『暗記』でどうやって敵を倒せば良いのかと。『異世界化学』でどうやってモンスターを退治するのかと。

 唯一の救いは、今まで勉強してきたそれらの内容を一向に忘れそうに無いことである。おそらくスキルの恩恵だろう。今が試験日であればサイコーだ。


 「ユーマ! トドメはあなたよ」

 「っていわれてもだな、学生の俺には攻撃に使えそうなスキルが無いんだよ」


 リリアがくりんとした目をこちらに向けてくるが、生憎と俺は期待に応えられそうにない。すると、ララが不思議そうに口を挟んでくる。


 「ユーマ様のご職業は『学生』でしょう? 学生は可能性に満ちた素晴らしい職業。それが攻撃に使えないはずがございません」

 「そうよ! 何でも良いから、とりあえず何か一発、叩きつけなさい!」

 「わーかったよ! ……失敗しても、笑うなよ? へこむから」


 ふたりが頷くのを確認して、俺は息を一つ吐き出して集中し、「BOOK」と唱える。

 目の前に半透明のタッチパネルの方なものが現れた。ちなみに、音声入力モードはONになっているが、タッチパネルの方が腰を据えて操作できる気がする。


 さて、いったいどれが戦闘に向いているのかなんて全く見当が付かない。まあ、順当に行けば化学とか物理みたいな理科系かな。一番レベルが高いのは体育なんだけど、あの惨状の中につっこんで、素手でなんやかんやをするのはハードルが高すぎる。そもそも、人を殴ったことも無いし。

 ともかく、理系で何か強そうなのか、単純そうなのか……あれ? あんまり候補が無いぞ? っていうか、どれもどんな風になるのか全然できん!


 「よし、決めた! 『F=ma』!!」


 俺が勢いよく叫ぶと、俺の前に円形の変な魔法陣のようなものが現れた。


 「おおっ? うーーん?」


 中央には漢字で大きく物理と書かれており、その外側は『F=ma』が取り巻き、公式の一番外側の円周には公式の名称の「力の法則」が日本語で表示されている。正直、ダサカッコイイと言うべきなのか悩むディティールだった。

 頭の中に公式が浮かび、「数値および個数を入力してください」というアナウンスのようなものを感じた。同時にタッチパネルにも数値入力画面が出る。

 ……よく分からないけど、重くて速い方が強いはずだ!


 「えーと、m(質量)=1㎏、a(加速度)=50m/s で。個数はいっぱい!」


 魔法陣がずさぁっと大きくなったかと思うと、そこから直径1センチ程度の光球が沢山現れる。魔方陣の外周部がギュルギュルと回転を始め、カッと光ったかと思うと、光球はシュパッという間の抜けた音と共に敵の方へ剛速球となって飛んでいった。


 「うわっ」


 驚き思わず後ろに飛び退る俺にお構いなく、光球はそのまま敵の体に激突すると、ドガッと言う音と一瞬からだが浮き上がるくらいの衝撃が敵を襲い、「ぐあっ」「がっ」「ぎゃっ」などのうめき声が上がった。そして、ばたばたと倒れていく。それから誰も起き上がってこない。


 「ぎゃーー!!! 死、死んでないよな? あの人達。これ、過剰暴力じゃね? 俺、人殺しなんて嫌だぞ!」

 「たぶん大丈夫よ。私も思ったより強力だから驚いたけれど、血も出ていないし、気絶しているだけじゃないかしら?」

 「おそらく、あまりの衝撃と先程までも精神的・毒物のダメージが蓄積して失神したのでしょう。まあ、強烈な打撲で骨折くらいはしているかもしれませんけどね」

 「本当かよ? まあ、リリアとララがそういうなら。……ん?」


 思わずじとっとした目でリリアを見ていると、視界の端がチカチカと光っている。魔方陣は消えたが、タッチパネルが点滅していた。


 「光っているわね?」

 「光ってますね」


 俺の視線に気づいた二人も後ろから覗き込んできた。

 タッチパネルには、タイトルに日本語で大きく『お知らせ』と書いてあり、その下にそれより小さな文字で内容が書いてあるようだった。


 「ユーマ。なんて書いてあるの?」

 「ちょっと待って。えーと、なになに? この度の行動により経験値が溜まりました。しかし、『学生』は経験値で各スキルのレベルを上げることは出来ません。経験値は、他の職業へ就職するまで蓄積され、就職後から使用できます。レベルを上げたい場合は、勉強するか、課金してください〜〜!?」


 俺は呆然とした。異世界に来てまで課金? いや、ゲームみたいな世界だけど、ゲームじゃ無いんだからさ。もしかして、この世界、課金しなきゃクリアできないような無理ゲーなの?

 後ろから「『カキン』って何かしら?」「さあ? 聞いたことが無い言葉です」と話す二人の声が遠く聞こえる。裏口入学という言葉が浮かんだ。



 異世界の皆さん、ごめんなさい。どうやら俺が一番ゲーム仕様だったみたいです。




ゲーム仕様の世界に迷い込んでお約束のスキルを実践してみた主人公。

この後続くなら、きっと課金せざるをえない状況になりそうです。


お読み頂きありがとうございました。

何かお気づきの点がございましたら、ご教授くださいませ。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  こういう不粋な真似、好きです。 [一言]  課金しようにも、ペアレンタルコントロールで面倒くさいことになりそう……
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