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NO. 53 世界を裂いて

 驚愕に言葉を失うのは、今度は”彼”の番だった。悠久ともいえる生涯の中で一度も抱いたことのない感情が背筋を這いずり、理性を溶かしていく。

 恐怖、その感情の名を”彼”は知らない。

 数世紀の間、彼岸の彼方にあったはずの死が今背中に追いすがろうとしてる。その事実がどうしようもなく、”彼”を追い詰めていた。


”――――!!”


 雷を振るい、風を叩きつけ、権能を発揮する。容赦も慈悲も当の昔に捨て去っている。人の姿を捨て、神の子として転生し、この力を得た。そう、使命のために何もかもを捧げ、この権能を得たのだ。

 雷と風、雲の城砦、世界を滅ぼしうる絶対。他の兄弟たちのような規模の小さいものとは違う。自分が、自分こそが神の座を継承するもの。そう確かに自負している。

 だというのに、目の前の灯火、たった二つしかない光を吹き消すことができない。渦巻く風も、降り注ぐ雷も、撥ね退けて灯火は勢いを増していく。まるで神の権能など、物の数ではないと言わんばかりに。

それどころか、紅の波動と放たれる雷電は瞬く間に彼の(カラダ)を散らしていく。"彼"の権能その正体を知ってか、知らずにか、そのどちらであるにせよ、二つの光は確実に彼を追い詰めている。

 こんなことはあってはならない。目の前の二つは自然の摂理に逆らうもの。神の力に抗うものなどこの世界にあってはならない。そんな叛逆は許されない。

 絶対に排除すべき天敵、それが彼らだ。


”――機械風情が!!”

 

 激昂の叫びと共に雲の腕を具現化する。全身全霊、もとより加減などしていないが、今度は上限を外す。何を壊したとしても、例え理を歪めたとしても、ここで敵を排除しなければならない。

 恐怖と使命感が彼の背を押す。顕現するのは神の雷霆、理を捻じ曲げ、限界を越えて力を集約する。

 空間を歪ませるほどの質量が一点へと。ありとあらゆる抵抗を正面からねじ伏せ、独自の理をもって世界を蹂躙する。これこそが、神の力。いかなる物理法則も"彼ら"を縛り付けはしない。

 今度こそ、終わり、その確信が恐怖を焼き尽くした。


「来るわよ、準備できてる?」


「あたぼうよ! いつでもいけるぜ!!」


 それと対するは、この雲の城塞と比して、あまりにも矮小な二人の戦士。されどここにあるのは、世界最強の兵器、その一角だ。

 二人に力を与えるのは光を放つ永久炉とその共振。出力に限界はない、複数の永久炉のもたらす力は文字通り無限。その力をもってすればできないことなどありはしない。例え神が相手であったとしても、それは変わらない。


「――紅蓮装クリムゾン・限定解除、ポゼッション・王冠クラウン


 音声認識と共に赤黒い波動が一点へと収束し、巨大な環を形成する。暗闇に輝くそれはまさしく王冠、破壊と消滅を司る王の証がここに顕現した。

  今の出力ならば輸送機を守りながらでも、攻撃のための権能が行使できる。この場所ならばどれだけ力を振るおうが、犠牲となるものはない。共鳴する二つの永久炉心はありとあらゆる不可能を踏破する、今ここにある力は恒星のそれすらも容易く上回る。嘗て神を打ち砕いたのは、間違いなくこの力だ。

 

「久しぶりの最大出力だ! 唸れ、ツインホーン!!」


 王冠の輝きに応えるように、二本の角が最大の光を帯びる。形を持った雷電、それこそが07の持つ権能。彼の振るうべき力は破壊だけではなく、エネルギーそのもの。ありとあらゆる電気、電波、そして電子ですらも支配するのが彼の力だ。

 

「――大雷球トール!!」


 瞬く間に現われたのは雷の太陽。先ほどのものよりも遥かに大きく、遥かに輝きを増したそれは神話において振るわれる雷の槌の如し。原子すらも消失させるのがこの力、地上で解き放てば大陸一つを消し去るといわれた超火力こそが07という戦士の最大の強みだ。

 最大出力の一撃、加減も遠慮も一切ない力の行使。07も03も考えは同じ、この雲の城砦を一撃の下に消し去る。だからこその、この布陣だ。


”――小癪な……いいだろう”


 一切秘されることのない二人の意図は、無論、”彼”にも伝わっている。傲岸不遜、そういうほかないだろう。神の子たる彼にたかが二人で正面から立ち向かおうというのだ、腹立たしさを通り越して、もはや呆れるしかない。

 だが、決して侮ってはならない。焼かれ、引き裂かれ、吹き飛ばされた体の痛みがその何よりもの証左。一つでは届かない、二つでも足りない、三つでも耐え抜くだろう。ならば――


”望みどおり正面から叩き潰してくれようぞ!!”


 顕現したのは百の手を持つ雲の巨人、大きさを測り知ることすらも叶わないであろうそれは見るものすべてに畏怖と絶望を植えつける。これが力、これこそが力だとそう誇るように、その手一つ一つに雷霆を宿している。稲光は途絶えることなく視界を覆い、身を躱す隙間も、防ぐ暇もありはしないだろう。

 神話の再現、その極致。

  雲の百腕ケラウノス・ヘカトンケイル。神の子としての正真正銘の全力、持てる権能を全てを用いた最後の切り札がこれだ。

 

「――ハ、上等!」


「そうこなくっちゃな!」


 眼前に出現したそれを前にしてなお、二人は獰猛に笑う。この程度は到底恐れるに足りないと、そう宣言するかのように。

 事実二人には一切の恐怖はない。不要なものは全て削ぎ落とされ、極限の集中があるのみ。これを打ち破ることことそが彼らの、ゼロシリーズの使命。ありとあらゆる理不尽と不条理を覆し、万難を排して、人類の敵を討つ。その使命のために、恐怖を捨て、迷いを捨て、人間の身体ですらも捨てた。

 例え神そのものを相手どろうとも今更なにを怯えようものか。ここに立つこと、ここで立ち向かうことは彼の、彼女の、ゼロシリーズ全員の存在意義だ。


”――消え失せろ!!”


「――解放インパクト!」


「ぶちかますぜ!!  雷神槌ムジョルニア!!」


 瞬間、三つの力が同時に解放される。振るわれたのは全て圧倒的なまでの力、振り下ろされた百の腕と青い雷の奔流、渦巻く赤の波動が空間を歪める。発生する力の残滓、雷と波動が何もかもを焼いていく。強大さに世界が軋み、けたたましい悲鳴を上げた。

 二つの雷と破壊の波動、三者三様でありながらその目的はただ一つ。絶対的な破壊、後に残されるのはただそれだけだ。

 

”――!?”


「――くっ」


「っ!?」


 激突。振るわれた三つの力はぶつかり合い、削りあい、何もかもを引き裂いていく。本来ならばどれか一つでも世界を壊しうる力、それが三つ。ましてやそのぶつかり合い、この場所に存在する熱量は超新星爆発にも等しい。もし、この力を星にぶつければそれだけで人類は滅びるだろう。

 拮抗した奔流。永遠に続くかと思えるそれは、その実、均衡を欠いたもの。ほんの少しの干渉で崩れる薄氷の上の削りあいに過ぎない。

 どちらが集中を欠き、力を乱すか。この均衡が僅かでも崩れればその瞬間に決着は訪れる。


「――ユキナ!!」


「分かってるわよ!!」


 極限の集中の中、言葉少なに意思が伝達される。この状況で何をなすべきか、それはハッキリしている。この均衡を崩すためには手段は一つ、危険な賭けだが、それでもやるしかない。

 周辺では弾けた力の一部が空間に穴を穿っている。このままこの激突が続けば、この場所にマイクロブラックホールが形成されることになる。そうなれば彼らと輸送機は無事でも地球に与えるダメージは計り知れないものになるだろう。

 決着を付けるならば今すぐに。その瞬間を待っている余裕はどちらにもない。


”……愚かな! このまま叩き潰してくれようぞ!!”


 ほんの一瞬、刹那にも満たぬ間、均衡が崩れる。赤い王冠が消失し、百の腕が瞬く間に雷を押し込め、二人へと迫る。圧倒的な力の奔流、触れることはそのまま消滅を意味する。最強を謳われるゼロシリーズサイボーグとはいえ、その例外ではない。この先に待つのは避けようのない死のみだ。

 その死の刹那にこそ、勝機はある。彼らが待ち受けていたのは、この一瞬だけだ。


権能行使ポゼッション無限万華鏡カレイドスコープ!!」


 砕けたはずの王冠が巨大なレンズへと姿を変える。破壊に特化した03が持つ、唯一にして最大の支援機能がこの万華鏡カレイドスコープ。拡散した波動が作り出す光子レンズは無限の反射域を作り出し、敵の攻撃を弾き返す。

 それが本来の能力、本来の機能だ。どれだけ防御機能として優れていても、今放たれた攻撃を弾き返すにはまだ足りない。いや、原子を支配するこの雲の前には己の攻撃を弾き返したところでダメージを与えることは不可能。この場に限っては、全くの無意味、失策といってもい愚行だ。

 そう愚行、このリスクを選択する事は本来ならば自ら勝負を放棄することにも等しい。だからこそ、その愚かさこそが道を開く。


「――いくぜええええ!!」


 瞬間、眩い光を帯びたのは雷の双角。そこにチャージされたのは永久炉心の光、世界を滅ぼしうるその力の楔が外される。

 解き放たれるのは最大出力ではなく最大火力。この位置取り、この状況だからこそ、この一撃は活路を開く。

 

「――原子プロトンンンンン!! 大雷槍ブレイカー)アアアア!!!」


 最高の輝きと共に解き放たれるのは原子の雷光、ツインホーンを起点として放たれるそれは07の力、その極致そのものだ。雷の形をした破壊は原子すらも焼き尽くしながら、巨大な奔流となる。

 

「――いっけえええええ!!」


 放たれた奔流を万華鏡が増幅する。繰り返す乱反射、増幅されたそれはレンズすらも焼ききり、周囲の城砦クモを無に返していく。狙いは眼前の巨人だけではない、この空間に満ちた意思を持つ雲、その全てを一撃の元に振り払う、それこそが二人の狙いだ。

 アステリオの持つ唯一の弱点、それに気付いたわけではない。ただ本能と経験が彼ら二人を唯一の正解へと突き動かしていた。


”――ぬううううううう!?”


 百の腕、振るわれた神の力すらも引き裂いて、奔流は押し進む。今更腕を増やし、限界を踏み越えても遥かに遅い。

 決着はとうの昔についている。万華鏡が展開され、07の力を増大させたその瞬間に、均衡は完全に崩壊した。今更競うまでもない、振るわれたのは力はかつて神そのものと拮抗した力だ。彼が神の子であったとしても、如何に圧倒的であったとしても、戦いにもなりはしない。


「吹き飛びやがれエエエエエエエ!!」


 勝利は戦士にあり。膨れ上がった奔流は何もかもを消滅させ、”彼”のもとへ届く。余波が瞬く間に雲を焼いて、日の光が差し込んでくる。雷神の槌は雲の巨人を容易く打ち砕き、城砦をも消失させた。

 皮肉にも、青空を取り戻したのは光ではなく、雷だったのだ。


”――馬鹿な……ありえぬ……”


 光を前にして、刹那そんな思考が頭を過ぎる。負ける要因などない。少なくとも彼には勝利は確定した未来だった。

 例え神の子であったとしても、彼等には勝てない。最後の最後、この戦いの目的を生存と排除としたアステリオと違い、07と03は最初から一つの事を目指していた。勝利、彼らが目指したのはただそれだけだ。

 だがそれこそが彼等ゼロシリーズ 神の子たちマイソロジア達との唯一にして最大の違い。後継者としての使命を受けた彼らと、自ら戦う事を選んだ彼女達。戦士とそうでないものの違い、勝敗を分けたのはただそれだけだ。


 


 


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