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RE:バーンドアウトヒーローズ    作者: ビッグベアー
第一部 再びの始まり
37/55

NO. 37 燃え尽きるまで

 久しぶりの感覚。一切の反撃を封じられ、ただ防ぎ、かわすことしかできない。紙一重の場所に死が待ち受け、痛みと負傷が蓄積していく。正しく手も足も出ない、一方的になぶられているだけだ。


「――っ」


「はああああ!!」


 必死の一撃を辛うじて避け、間合いを空ける。瞬間、思考を巡らせるよりも先に数十発の追撃が命を掠めた。

 トドメを撃つその一瞬、飛び出してきたサイボーグを砕いたその時、奴は変わった。永久炉の暴走、制御できないレベルでの出力の増大、これらの現象には俺にも経験がある。それがどれほどの力を齎すか、その扉を潜る意味はこの身をもって識っている。 

 永久炉心、この胸にも存在する永久機関はその実、酷く不安定なものだ。望んだときに望むだけの力を提供してくれる便利な道具ではなく、不機嫌な暴れ馬のような代物。馬力に関しては最高だが、御するには相応以上の力量が求められる。しかも、永久炉一つ一つでその出力特性が異なり、一辺倒な機械制御では対応できないし、手綱の取り方を教えられるようなものでもない。俺や雪那、兄弟達は経験と才能をもって力を引き出し、制御してきた。こればかりはただのVR訓練や刷り込みでは体得できない。その違いが奴と俺との違いだった。

 しかし、その揺らぎを今、奴は支配している。何が鍵になったにせよ、奴は永久炉の力を最大限に引き出している。あの時の俺か、それ以上にだ。


「――っああああああああ!!」


「ッう!」


 直感に任せて、打撃を逸らす。

 俺の目でも残像が見えるほどの速度、捉えるのはとうにあきらめた。単純な脚力だけではあるまい、06(アマンダ)の変成獣化(キメラ)に慣性制御やグラヴィティを併用しているはずだ。おまけに全身から発するあの光、俺の出力集中を全身で行っている。先程まではできなかった能力の同時行使を、今の奴は簡単に行っている。ただでさえあった性能差はいまや絶望的な域へと達している。

 それも辛うじて攻撃を防げているのは、奴の攻撃が単調なものであるから。どれほど速く、強烈な攻撃だろうと感情に任せたものなら筋が見える。筋が見えれば動きの予測はできる。


「――ハッ」


 首を落としにきた手刀をかわし、苦し紛れの反撃を入れる。ダメージはなくとも、間合いを離せればそれで十分だ。

 防御は容易くはなくても可能。問題は一撃一撃が必殺の威力だという事に他ならない。防御するたびに装甲が抉れ、衝撃が骨にまで響く。着実にダメージが蓄積している、既にいくつかのシステムがダウンした。すこしでも動きが鈍ればそこでお終いだ、そう長くはもつまい。


「い、いいぞ! トドメを刺せ、10!」


「――ッ」


 一瞬で背後に回りこまれた。やはり単純な速度では勝負にならない。上段狙いの回し蹴り、なんの捻りもない技でも、これだけの速度と力なら必殺の威力だ。おまけに俺の反応速度さえ越えた動き、避けようがない。


「っなぜ!?」


「ッ!?」


 それでもかわす。最小限の動きで蹴りを回避し、後方へと跳びながら追撃をも退ける。苦し紛れに放ったエネルギー放出の不意打ちも、奴の纏う光に無効化される。飛び道具は当然効かない、身にまとう光は矛でもあり、盾でもある。


「悪足掻きを! いい加減観念したまえ!!」


鈍くなっていく身体とは対称的に追い詰められればられるほど精神はより鋭く研ぎ澄まされていく。平静と狂気が混じり合い、静かに澄み渡る。これでいい、こうでなければ戦えない。

 そのまま奴が追ってくる。着地して体勢を整える暇すらない。上等だ、そろそろ防戦一方も飽きてきたところ、そろそろ度肝を抜いてやる。


「――!」


 振りぬかれた拳にあわせるようにして空中で身を翻した。伸びきった右腕を空中で摑み、足を10の首に引っ掛ける。そのまま腕を軸に奴を地面に叩きつける。たいした威力はないが体勢を崩せた。


「このままッ!」


「くっ!?」


 間接を極める。10が僅かに苦悶の声を上げた。どれだけ頑丈でも間接部自体は人体構造からはみ出たものではない。伸びきった腕に力をかけてやれば、圧し折るのはそう難しいことではない。片腕を潰せば戦力半減だ。


「なっ!?」


 想像以上の硬さを押し切って、腕の関節を圧し折ろうとした瞬間、俺の体が浮いた。間接を圧し折る間もなく、腕ごと体を持ちあげられたのだ。

 技を解く暇すらなく、体を地面に叩きつけられる。こちらの技を力で捻じ伏せられた受身をとることすらできない。想定外の反撃に思わず、技を解いてしまう。


「――ッ!?」


 しまったと思ったときには追撃が迫っていた。本能に任せ、踏み付けをかわす。頭を踏み砕くはずだった脚が頬を掠めて、地面をかち割った。

 余りの威力に足場までもが崩れ落ちる、蹴りのあとには大きなクレーターができていた。全くふざけた力だ、これでは攻撃のたびに地図を書き直す羽目になる。

 クレーターに滑り落ちるようにして体勢を整える。現状では小技は通用しないことが分かっただけでも収穫だ。これで迂闊に攻撃を仕掛けることはできなくなった。

さて、つぎはどうするか。決まっている。考えるより先に動かなくてはならない。止っていてはあの速度に縊り殺される。

 直感と経験を頼りに攻撃を凌いでいく。感情任せのラッシュが凄まじいまでの脅威となり、技も経験も通用しない力押しが何もかもを蹂躙する。今までの敵とは違う、技巧を使わない性能任せの攻撃、単調で見え透かしたはずのそれに体がついていかない。

 拳の掠めた脇腹から血が零れる。一秒ごとに傷が増え、骨が軋み、痛みばかりが蓄積していく。時間と同じく命そのものが削られていく。時間をかければかけるほど、こちらが不利になってくる。

 限界は近い。それは受け入れている、望んでさえいる。だが、俺の命は俺のものではない。まだ死ねない。まだ、君のところへは――。


「――はああああああ!!」


「っ――!?」


 ほんの一瞬、雑念が混じった。防御の一寸の隙間、針の穴のようなその隙を縫って奴の拳がまともに突き刺る。装甲を通り越して、直接臓腑を抉られたような衝撃。視界が眩む、腹を殴られたのに脳まで揺れている。

 思わず膝をつく。まともに立っていることすら出来ない。たった一撃でこの様、追撃が来ると分かっているのに、ただ死を迎えることしかできない。

 戦いの最中に均衡を欠くとは俺も随分と情けなくなったものだ。一瞬よぎった彼女の顔に僅かな迷いが生まれてしまった。戦いに迷いを持ち込むのがどれほど致命的かいやと言うほど理解しているというのに。


「――止めだ!! 10!!」


 このまま運命に身を任せれば、もう終わりにできるかもしれないと、彼女の元へと逝けるのかもしれないと。そんなくだらない空想の結果がこの様、結局のところ俺はすべてを取りこぼす。

 閃光と共に最後の一撃が迫る。

 その結果を無責任なことに感情(あたま)は受け入れていた。できることはした、もう楽になってもいいはずだと都合のいい理由を付け自分を正当化しようとしている。

 最期の瞬間はもう目と鼻の先だ。これを受け入れればそれで終わり。ようやくただ生きていただけの俺の命も終わる。

 死の間際で感覚が引き伸ばされ、周囲の全てが止ったような錯覚で世界が染まる。死神の鎌だけが、色褪せた瞬間で煌く。全力は尽くした、此処で終わりと言うのも悪くはない。いや、今までが長すぎたのだ。終わらせてくれるというなら受け入れよう。

 後悔や無念が脳裏を掠める。責任を果たせぬまま死ぬ自分に対しての怒りもあった。滝原や雪那への慙愧の念もあった。約束を破ることへの後ろめたさもあった。

 思い返せば後悔ばかりだ。何一つ救えてはいない、何一つ守れなかった、それが俺。今俺はそんな自分を受け入れようとしている。

 すまない、瑠璃華。君の最後の言葉さえ俺は――。

 

◇   ◇   ◇    ◇   ◇   ◇   ◇  ◇   ◇   ◇   ◇ 


 驚愕は誰のものだったか、それはわからない。なぜまだこうして息をしているのか自分でも理解できなかった。

 振り上げた左腕が死神の鎌を防いでいる。光を宿した心臓がどんな瞬間よりも鮮烈に輝いている。身体の全てが未だ生命を吼えていた。

 止った世界の中で、諦めた意思に反して、身体が動いていた。一瞬の出力上昇が光を相殺し、俺の命を永らえさせたのだ。


「……!」


 思考を置いてけぼりに、本能は問題なく動く。地面を蹴って後方へと思いきり跳ぶ。距離を取らねばやられる、その直感に従って体が勝手に動いていた。

 着地の瞬間の痛み、ただそれだけのことに生の実感を得た。生きている、確かにこうして生きている。知らぬ間に感情を本能が否定していた。まだ諦めるのは許さない、四肢がついている限り、この永久炉(シンゾウ)が動く限りは戦い続けるのがお前の役目だと身体が叫んでいる。


「――ハッハハ!!」


 いつの間にか笑っていた。どうやら骨の髄どころか、この血の一滴まで俺は戦士でしかないらしい。しかも、死に場所すら決めさせてくれないときた。

 いいだろう、付き合ってやる。本当の最後の瞬間まで、燃え尽きた灰すらも燃やし尽くして戦ってやる。

 それに、ようやく思い出した、いつだって俺はこの程度で諦めるほど、往生際がよくはなかった。 

 全身に出力を廻らせ、傷口を焼く。傷の具合はそう酷いものではない、内臓までダメージは達しているが動きに支障が出るほどではない。

 まだまだ戦える。その事実を確認すると、情けなくも降伏を示していた理性がふたたび戦意を取り戻す。まだ終わるには早い、まだ四肢はしっかり動くのだから。

 それに勝ち目がないわけではない。奴の動きがどれだけ速くとも、太刀筋は読めている。それに死の間際に拾った光明、そこに勝機がある。速さ比べや力比べ、小手先の技では勝てない。勝利のためには、こちらが唯一勝る一点に全てをかけるしかない。

 集中しなければ。一点の曇りも一寸の誤差も許されない、迷いなどもってのほかだ。力を引き出す激情と戦いのための冷徹さ、決して交じり合わない二つを同時に行使する、それを完璧にこなすには不要なものは全て切り捨てなければならない。機械の精密性と人間の柔軟性、その架け橋となるのが俺達(サイボーグ)だ。

 あの扉を開く。あの十三支部でそうしたように、五年前のあの戦いでそうしたように――。


「10、殺せ! 終わりにしろ!!」


「……イエス、マスター」


 奴が動く。再び感覚が引き伸ばされる、死の間際のその感覚こそ境界線。死と生の狭間、この場所こそ俺に相応しい。

 一息で間合いが詰まる。やはり速いが次の動きは見えている、加速と腕力に任せた右の拳。それに併せて踏み込む、中れば死ぬが、それだけだ。中っても外れても、こちらとしては本望、これほど気楽なものもあるまい。


「!?」 


 掠めたというには余りにも際どい。頬の一部を削り取られた。拳の破壊半径は見た目よりも広い。掠めれば、それだけでこちらの時間切れが近づいてくる。しかし、懐には入った。

 敵の次の動きは識っている。迎撃の膝蹴り、それは無視だ。この間合いならそう大した威力は出せない、一撃で行動不能にならなければ許容範囲だ。助骨の二、三本はいかれたかもしれないが戦闘には支障なし。十分幸運な部類といえる。

 さっきの蹴りで引き離すはずが、俺を引き剥がせず、奴の動きに一瞬の隙間が生まれる。一々避けていてはこの隙を狙えない。


「っアアアア!!」


「……ッ!?」


 大地を踏みしめて脇腹に一撃、拳の一点に全力を注ぎこむ。速度はもちろんこと、こちらの牽制をものともせぬ奴の纏う光の鎧も十分厄介。それを突き破るためには、防御もこの身に掛かる負荷も考えてはいられない。

 あらんかぎりの全てを攻撃に。扉の向こうから引き出した力を全て拳に集中させた。こいつほど派手ではないが、十分必殺の威力がある。

その証拠に確かな手応え、全身に展開した光の鎧を抜け、生体装甲に罅を入れる。狙い通りだ。


「ッく……はああああああああ!!」


 ダメージを気にしていないのか、それとも気付いてすらいないのか、奴は退かない。勢いと力に任せて再び攻撃を仕掛けてくる。上等だ、根競べといこう。

 致命の一撃だけをかわして、問題ないと判断したものだけを受けながら、前進する。決して間合いは外させない、至近距離ならば速度のアドバンテージをある程度誤魔化せる。奴が冷静に距離をとりさえしなければ、それで十分だ。


「……!!」


 右の拳、申し分のないタイミングと速度で放たれるはずのそれを先んじて潰してみせる。続いて、次の行動へ移る一瞬の隙間に。再び脇腹の同じ場所に拳を叩き込む。

 動きを通じて奴の揺らぎを感じ取る。燃え盛っていた激情に、僅かな困惑と恐怖が混じり始めた。こいつは何故俺を仕留め切れないのか、何故自分が反撃を受けているのかを理解できていない。そこに唯一の勝機がある。

 滑稽さと加虐に歪な笑いが漏れる。本当に基本的なこと、ただそれだけと嘲笑うようなことが、やつのアキレス腱だ。

 奴の動きは速い、俺では捉え切れないほどにだ。それは認めよう、だがそれを認めたうえでこいつは俺よりも鈍い、そう断言できる。理由は一つ、余りにも単純で、陳腐な答えだ。

 オートバランサー、本来は動きを補助するはずのそれが奴の足かせになっている。確かに、兵器としての完成度を上げるなら、オートバランサーの搭載は自明の理。だがいま、奴の驚異的な速度に対してオートバランサーの反応速度、動作から動作への移行速度は対応しきれていない。一度動作に入ってしまえば捕らえきれないほどに速いが、接近から攻撃、回避から攻撃、防御から攻撃への一瞬の速度域は俺よりも鈍い。おまけに感情に任せた単調な攻め、次の動きを識るのは容易い。


「痛っ!」 


 苦し紛れの裏拳を押さえ込み、傷口に拳を叩き込む。奴が一歩退き、傷口を押さえて膝をつく。一点集中、成果は十分だ。奴が光を纏ってから、ようやく奴にダメージらしいダメージを与えることができた。


「……まだ動くな」


 確認するようにそう呟く。こちらとて相応の代価を払わされた。

 致命傷と四肢を潰しかねない攻撃だけ回避し、防御したツケは全身に蓄積している。各部の装甲は悲鳴をあげ、重要な経路(バイパス)もいくつか断線している。特に酷いのが両の腕と拳、両腕を朱に彩るのは返り血だけではない。攻撃の際、拳と腕を防護一切せずに過負荷をかけ続けているのだ、装甲は内側から亀裂が入り、ナノカーボンの筋繊維がだらしなく飛び出している。だがまだ痛む、故に感覚がある、ならば拳は握れる、それだけ分かれば問題はない。


「く、何故こんな!? なぜだ! 十五年前といい、今回といい何故勝ちきれない!! 一体私たちとお前で何が違うというんだ!!」


「――俺が知るか」


 狂乱一歩手前の声を無視して、奴の動きを注視する。先に与えたダメージと合わせて、多少は芯に響いているはずだ。それに俺の狙った場所には循環液の整流機構がある場所、遠からず動きが鈍るのは確定事項だ。

 が、それはこちらも同じこと。強がってみても、時間切れは近い。人工血液が焼けている、体内で制御しきれない熱が体を内側を溶かしていく。蓄積したダメージと長時間の全力稼動に身体が悲鳴を上げはじめていた。

 一秒ごとに、死が近づいてくる。だからこそ、戦っていられる。すぐそばに死を感じていられるからこそ、生を感じていられる。

 しっかりと大地を踏みしめ、前に出る。退けばそこで終わりだ、前に出なければようやく手に入れた勝機も消えうせる。


「――ッおおおおおお!!」


 命を削りながら、敵の命を削り取る。鈍くなっていく身体と鋭くなっていく感情、相反する二つを支配し続ける。こうなれば、性能も技術も関係ない、ただの意地の比べあいだ。


「……っ!」

 

 削り合いの果て、奴が一歩退いた。根競べなら、執念深い分こっちが上だ。

 一歩退いた奴の胴へ思いっきり蹴りを入れる。奴の動きが明らかに鈍っている、反応できたはずの一撃に対応できてない。

しかし、それはこちらも同じだ、一撃で胴を砕いてしまうはずだったのに装甲に罅を入れるだけに止まる。このままでは殺しきれなくなる、萎えた手足では奴を殺せない。

 全力で打てるのはよくて一撃、精度が落ちる前に大技を叩き込む。それしかない。


「――考えは同じか。いいだろう、次で終わりだ」


「…………」


 似た者同士か、あるいは同族嫌悪の果てか、奴もまた同じ考えに到ったらしい。奴の四肢に光が収束していく、ただでさえ殺傷に十分な力がさらに高まる。どうにか機能しているセンサーが最大警報をかき鳴らす、直撃すれば確実に死ぬという旨の警告が目障りで仕方がない。今更の話だ、気にしても仕方がない。

 退きさえすれば勝てる、だというのに無意味に向かってくる敵を笑うことはしない。馬鹿さ加減なら俺も似たようなものだ。

 永久炉(シンゾウ)から右腕に全ての出力をかき集める。バラバラになりかけた右腕でもまだ動くなら役に立つ。防御は一切考えない、必要なのは矛で、盾じゃない。

 互いの必殺を此処に、その瞬間を待つ。張り詰めた空気の中で精神が澄ませていく。

必要なもの以外は完全に切り捨てた心地よい感覚、静寂の間、他者と自分が混ざり合うような錯覚に全てが支配されていく。


「……!」


「――!」


 久遠の刹那、静寂を破る。先に動いたのは奴、最強の凶器とかした四肢を振るう。まだ待つ、この瞬間は違う。まだ俺の瞬間じゃない。

 一撃、右の拳をかわす、掠めた左肩が吹き飛んだ。

 二撃、致命傷を避ける。胸部装甲の半分が消し飛んだが、問題はない。余りの出力に攻撃が通った空間が歪み、異相空間の壁が破れ、破壊の爪痕が通常空間にまで及んだ。

 三撃、崩れた体勢の俺を奴が追う。右の蹴り降ろし、まるで踏み潰すような一撃を無様にかわす。動きが崩れた、逃げ場がない。次で詰み、俺は右腕を防御に使えば必殺の手段を失う、その時点でもう後はない。

 四撃、狙い済ませた左の拳。ここにきて奴の動きが加速した、俺が与えたダメージ以上に増大した出力に身体が対応してきている。素直に認めよう、見事な一撃だ。殺されるにも申し分ない。

 ――だが、俺の勝ちだ。


「――っ!?」


「――は、その顔が見たかったんだ」


 醜く折れ曲がった右腕、驚愕に停止した敵の姿。痛みはない、辛うじてくっついているだけの右腕にはもはや感覚が残っていないが、千切れなかっただけ幸運だ。

賭けに勝ったのはこちら。右腕一本で命をもらいうける。


「――飛べッ!!」


 無事な左手で奴を摑み、片手背負い投げの要領で宙へ飛ばす。力は要らない、ほんの一瞬、奴の意識が止ればいい。

 右腕から右足へ全ての出力を集中させる、奴の動きが止った瞬間に全てを決めなくてはならない。残すのは最低限でいい、自己修復もESも、トドメに必要なものを残して、必要のない機能を全て停止させる。ダメージを考慮してもこれが最高の一撃。周囲の空間をゆがめる膨大な熱量を一点に、白銀の太陽を右脚に封じ込める。

 眩い光と共に激痛が走る。想定以上の過負荷にとうとう身体が限界を迎えた。だが、それがどうした。まだ燃え尽きてはいない。

 跳ぶ。奴は未だに宙にいる、反応できている身体に意識が追い付いていない。必殺の確信とそれを破られた際に生じる意識の隙、奴には初体験のはずだ。如何な手練でも絶対に生じるその瞬間を奴を知らない。

 空中で身体を反転。感覚は引き伸ばされ、その一瞬に何もかもが収束していく。決着のときだ。降下と再加速、物理法則を捻じ伏せて必殺の一撃へと。痛みを置き去りに、感情を置き去りに、一つの刃へとこの身を研ぎ澄ます。


「――っツ!?」


「これで――」


 ようやく奴の意識が追い付いた、両の腕を胸の前に盾のように差し出す。遅い、お前の速さでは俺の一撃には追い付けない。


「――終わりだ!!」


 右脚が奴の胸を抉った。収束され刃とかした熱量が光の鎧を容易く貫き、最後の砦たる生体装甲を焼き切る。必殺の感触、確かに心の臓に達した。あとは全てを解き放つだけだ。

 トリガーを引く。太陽を繋ぎとめる楔を引き抜き、瞬間、世界を光で染め上げた。


 

 

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