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RE:バーンドアウトヒーローズ    作者: ビッグベアー
第一部 再びの始まり
25/55

NO. 25 葬列の先に

 会議というのはここまで退屈なものだったかと、佐渡憲吾支部長は欠伸を噛み殺す。目の前では、名前も知らない第十三支部の支部長が弁明を続けている。全責任は自分ではなく、留守を預かっていた部下にあると顔を真っ赤にして捲くし立てているが、今更何を言ったところで後の祭り。もう彼の処分は決定している。ここでの弁明は形式上のものでしかなく、泣こうが喚こうが意味は無い。

 そういう点では彼も哀れだ。姪の結婚式だか、愛人との逢瀬だか知らないが、丁度支部を空けているときに件の襲撃事件が発生したのだから、辣腕の振るいようもない。彼がいたところで何か変化があったと思えないというのも事実なのだが。

 あの襲撃から三日。緊急対策会議と銘打たれた会議はそんな弾劾と共に始まった。

 03襲撃から始まる、式典会場襲撃事件、第十三支部での戦闘、この一連の事件への対策を練るための全支部長出席での会議。名目ではそう記載されている会議は実際のところ弾劾裁判と何も変わらない。責任を負う不幸な誰かを決める会議。全員とは言わないものの、ここにいる過半数は目の前の問題解決よりも、過ぎたことへの責任追及に熱心だ。


「――しかし、まあ、最悪の事態は避けられましたな。逃げ出したサーペントと発生したNEOHも01の手で破壊されたと報告を受けています、彼が居合わせたのは不幸中の幸いでした」


「君ぃ、問題はその01なんだよ。何でもこの三件中二件の現場に彼は居合わせたそうじゃないか、これでは事件を解決してるのか、起こしてるのか怪しいものだ。そもそも、彼が五年間も何処で何をしていたのかということからハッキリさせるべきだと、私は思うね。なあ、佐渡支部長」


「たしかにコールドマン支部長の言われるとおりだ。佐渡支部長、説明していただきたいな」


 それきた。全く予想通りの人物から、これまた全く予想通りの言葉が飛んでくる。思わず笑い出しそうになるがそういうわけにはいかない。


「――議長、発言許可願います」

 

 手を挙げ、発言の許可を求める。誰も守ってはいないが、こんな些事で責められる口実を作るのも馬鹿馬鹿しい。


「――何度も申し上げているとおり、機密ですとしかお答えできません。というか私自身も彼の任務内容について把握しておりません、五年間の間の任務内容については前支部長高幡が生前、特Sクラス機密に指定しておりまして……当然ながらアクセス権を所有されておられるのは最高委員会の方々のみです。従って、お答えできないとしか申し上げられません」


 いつも通りの答えに、いつも通りの事実。知らないのだから答えようがない。佐渡支部長は臆面もなく言い放った。


「そんなものは詭弁だ! いくら機密とはいえ支部長たる君が把握してないなどと、我々を侮るのも大概にしたまえ!」


「その通りだ! あの01ほどの戦力を五年間も遊ばせていたなど到底許されることではない! その怠慢が今回の一連事件を招いたのではないのかね?」


「そもそも、五年間も何をしていたのかも分からない兵器がどれほど信頼できるというのだ? 彼の功績は認めるが、所詮は五年前の英雄、そろそろもっと信頼の置ける戦力を確保すべきだ」


 最初の一人の詰問に同調した支部長達が口々に佐渡支部長を責め立てる。それを先導しているのが、西アメリカ支部長アルフレッド・コールドマン、UAF内での最大派閥いわゆる推進派のリーダーだ。

 独立独歩の姿勢をとってきたUAFの組織を新国連加盟国との連携によりさらに実践的な組織へと改革するというのが、彼らの表向きの主張。

 だが、新国連加盟国とは安全保障最高委員の選出国であり、その選出国とは彼らのスポンサーたる太平洋連合のこと。つまりは、太平洋連合によるUAFの傀儡化、サイボーグ技術を含めた先進技術の独占。それが彼等の目的だ。

 結局ところ、中立公平を謳うUAFとて所詮は政治の道具でしかなく、一つの派閥が存在する以上、それに対抗する派閥も当然存在する。


「――コールドマン支部長のおっしゃることは最もです。しかしながら、彼の、01の活躍が無ければ、さらに未曾有の被害が出ていたことは確実です。例え、彼が何処で何をしていようとその信頼性が揺らぐものではありません。実際、彼のおかげで式典会場にいたVIPは皆さんご無事ですし、サーペントの脱走と言う最悪の事態も避けられました。責任と信頼性を問うなら、今までこれほど規模の敵を見過ごしてきた諜報部と我々、そして第十三支部こそ問われるべきではありませんか?」


 その対抗一派の代表がこの男だ。香山一(かおるやまはじめ)、本部付き内務調査局局長にして人類戦役開戦からのベテランの一人。今や官僚出身者や各国家軍の出向者が大半を占める支部長クラスの中にあって、数少ない実戦でのたたき上げの一人でもある、彼の立ち位置はかなり特殊だ。UAFの理念に忠実に、現場第一主義を掲げる彼は内務調査局という立場にありながら、むしろ上層部よりも現場で戦う統括官や戦闘員からの支持を集めている。このUAFでも最も尊敬を集める人物の一人といっても過言ではないだろう。


「――第十三支部の責任は当然追及されてしかるべきだ。それでも、ここまで現状を悪化させた一因が、01に、ひいては事件を担当した極東支部にあることは否定できん事実だ。誰も責任を取らないというわけにはいくまい」


「それはまたご尤も。――ですが、現状敵の戦力に対抗しうるのは極東支部のみということもお忘れなく。我々の任務は市民の安全を守り、世界の敵を排除することです。ましてや、再び出現したNEOHの群、あれが最後とは限らない以上、貴重な戦力を些事に煩わせるなど……コールマン支部長は設立理念第一条をお忘れですか?」


「……それは、そうだが、責任の所在をはっきりさせねば、組織としての統率が」


「責任追及は事件が解決した後でもいいでしょう。我々の本来の義務を履行するためにも、まずは迅速な対策チームの発足を最優先すべきです。その点についてはこの場にいる全員の同意を得られると私は確信しています」


 弁舌とカリスマ性は見事なものだと内心感想を漏らす。一向に纏まる兆しの無かった会議は彼の言葉だけで一定の方向性で収束を見せ始めた。古狸と恐れられるコールマンでさえ、彼の言葉に反論できずにいることからもそれは明らか。今この会議の趨勢を握っているのは間違いなく、この若造だった。


「その草案については、既に極東支部主導で立案されています。詳しくは、佐渡支部長より説明していただきます」


「ま、待ちたまえ! 何故、極東支部主導なのかね? 一体誰が承認したというのだ!?」


「――その点については、私から説明させていただきます」


 仕方無しに発言した。これで完璧に推進派からは目の敵にされるだろうが、必要経費と割り切るとしよう。自ら矢面に立つ、主義ではないが給料泥棒に甘んじるよりはいい。


「承認については式典会場襲撃後に最高委員会から直接いただいております。さらに今回のNEOH発生を受け、非常事大権も発動、全て私の権限で行わせてしただきました。この場で事後報告という形になったことはお許しいただきたい。しかしながら、極東支部主導ともうしましても、二度の襲撃により当支部は著しく疲弊しておりますので、対策チームの構成員は各支部の優秀な人員を推薦していただき、それを招聘する形になります。旧第01(ゼロイチ)特務戦隊と同じ形を取ることになるでしょうな」


 我ながら卑怯だが、最高委員会の名前を出してしまえば、大抵の反論は封殺できる。それにやむをえないとはいえ、各支部からの招聘という形にしてしまえば極東支部への風当たりを少しは軽減できる。本来なら、政治的な意図を含まず、信頼できる人員のみで部隊を構成したかったが、そうもいってられないのが現状だ。

 それに期せずして、かの第01(ゼロイチ)特務戦隊と同じ部隊構成となったのはプロパガンダとしてもかなり都合がいい。かつてゼロシリーズの全員が所属し、世界を救った英雄の部隊、新たな人類の敵を相手に戦うにはこれ以上の験担ぎは中々あるまい。


「部隊規模はこれも同じく戦隊規模。01と03を基幹戦力に据え、H.E.R.Oと通常空挺隊での編成を予定しております。敵拠点への強襲作戦を想定してアルバトロス級空中拠点艦艇を一艘、さらに、開発局にて実験段階の支援機を派遣を要求しています」


  一息に喋りきったところで、周囲の反応を伺う。ここまでのところは定石どおりの部隊編成となっている、一々文句をつけるようなところはない。問題はここからだ。


「――戦隊長としては当支部から滝原一菜統括官を、および部隊長兼専任教官として――」


 二つ目の決定事項を口に出したその瞬間、これまで以上に会場がどよめいた。香山局長ですらも目を見開いて驚いてる。彼らの反応は予想通りだが、そこまで驚くことではないはずだ。少なくとも、誰でも一度は考えたことではあるであろう可能性を口にしただけなのだから。


「確かに、皆さんの考えていらっしゃるとおり、これは賭けです。しかも、分の悪い賭けなのでしょう。ですが、私は運のいいほうでしてね。安心してお任せください」


 会場の視線を全て集めながら、わざとらしく慇懃かつ不遜に振舞う。ここからが全ての本番だ、成すべきを成す為に詐欺師と道化を演じきって見せよう。


◇   ◇   ◇    ◇   ◇   ◇   ◇  ◇   ◇   ◇   ◇


 晴天の空に、弔銃の音が響く。一回、二回、三回。物言わぬ死者を慰め、悲しみにくれる生者に区切りを告げるため、その音は天へと昇る。この音が本当に死者に届くのか、それは俺にはわからない。生きているものが死者にしてやれることは何もない。だが、願わくば、届いていて欲しい、せめてものことこの声だけは、この悲しみだけは彼等の元へと。

  あの棺桶での襲撃から三日、ようやくのこと戦死した彼等を弔うことができた。本来ならばすぐにでも行うべきだったこと、もっとも優先すべき事を今日、この日まで先延ばしにしてしまった。


「――敬礼!」


 滝原の号令にあわせて、儀礼用の制服を着た職員達が死者へと敬意を示す。階級の如何に問わず、命を賭して人類のために戦い、散らしたものには最高の敬意が送られる。彼等が持っていけるのは三つ、英雄としての名誉、生者たちの敬意、そして二階級の特進だけだ。

 目の前では幾つもの棺桶が、ゆっくりと運ばれていく。きちんと中身があるのは半分だけ、残る半数は空の棺桶だ。俺達の仕事ではよくあること、そう割り切ってしまうのは簡単だが、それではあまりにも非情にすぎる。死を尊び、悼み、悲しむのは人間に与えられた特権だ。

 今、俺の前を行く死者の列は、あの戦い、あの10との戦いでの戦死者達。俺の守れなかった半分が、彼等だ。俺には彼等を見送る義務がある、例え偽善と笑われようとも、この瞬間を刻み付けておかなければならない。戦う理由は此処に在るのだ。

 一人ずつ棺に触れ、花を添える。そこには新人も先輩も、上司も部下もない。死者を悼む人々の列、彼等の意思を受け継がんとするものたちがそこにはいた。

 そうして、俺の順番が来る。俺から彼等に送ることのできる言葉はない。俺が彼等の、そしてこれからのためにできることは一つだけった。

 

「――無駄にはしない、絶対に」


 空っぽの棺、名前も知らない誰かに誓いを立てる。そのため生きて、今此処にいるのだから。

 死そのものに意味などない。もし、それに意味を持たせるものがあるとすれば、それは生きているものだ。死が人を変え、意思をつなぎ、次へと進ませる。俺達の為すことが、俺達の結果が、死に意味を、価値を作る。決して無駄死にになどさせるものか。

 車に乗せられた棺桶たちは、あるいは家族の下へ、あるいは墓地へ、それぞれの帰るべき場所へと送られる。死してもなお迎えてくれる場所がある、それはきっと幸福なことなのだろう。

 ふと、思う。俺が死した時、誰が迎えてくれるのだろうかと。悲しんでくれる人はいる、いないと言い切れるほど愚かじゃない。けれども、俺にそんな贅沢はきっと訪れない。

 それでも構わない。最初の一人として最後の一人になるまで戦い続ける。この戦いが終わるまで休息も安らぎも不要だ。


「――やあ」


 最後の棺桶が車に乗せられ、葬列の終りに、そいつは狙い済ましたように現れた。


「よお」


 弱みを隠して振り返る。きっとそれも見透かされているのだろうが、それでも構わない。

 振り返った先には予想通りの顔、美しい蛇がそこにいる。

 なんであれ、すべき事はしなくてはならない。彼等がそれに命を捧げたように、俺もまた最後の瞬間まで戦い続けなければならない。どんな傷を負うとしても。


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