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RE:バーンドアウトヒーローズ    作者: ビッグベアー
第一部 再びの始まり
21/55

NO. 21 為すべき事

 隔壁が開くと同時に、弾丸のように通路へと突っ込む。十数の銃口がこちらを向く。敵は、型落ちの機械化装甲服のH.E.R.Oが四体に、普通科兵が十数人。装備はどれもカスタムタイプのアサルトレールガン。高度な改造を施されてはいるものの、俺の目はごまかせない。元になっているのはUAF正式採用のもの、すなわちこいつらは裏切り者だ。


「――う、撃てえ! 殺――!?」


 遅い。どんな装備をしていようが、もうここは俺の間合い、撃たせてやるほど間抜けじゃない。

前衛の数体を諸共に蹴散らし、指示を出したリーダー格を真っ先に潰す。装甲をぶち破り、中身を貫く。急所を狙うまでもない、一瞬の内に、奴らの首魁は物言わぬ死体とかした。

 指先に生々しい熱を残したまま、次の行動へと移る。考える必要も、死を思う必要もない。こいつらは敵だ、それ以上にも以下にもなりえない。


「うわっ!」


 血糊をそのままに硬直した右側の敵の足を払う。敵が倒れるよりも早く、左から俺を狙う銃口を逸らす。引き鉄が絞られ、撃発した弾丸があらぬ場所を抉る。敵ではなく味方を、こいつらの弾丸が俺を貫くことはない。


「ッぐぁ!?」


 俺の背後で無数の悲鳴が上がった。死んではいないだろうが、時間稼ぎには充分。撃った本人が惚けているうちに銃を握り潰しながら、蹴り穿つ。これで二人目だ。


「――よくも!!」


最初に蹴散らした数人が向かってくる。手には最新式のヒートナイフ、同士討ちを避けるにはいい判断だが、そこまででしかない。


「あがっ!?」


 一撃、二撃、振るわれたナイフを紙一重で交し、一撃で仕留める。装甲を砕き、骨を圧し折り、内臓を抉る。何の感慨も無い死の量産。数秒もすると、息をしているのは俺だけになっていた。

 余りにも容易い。この程度なら百倍いても大した差はない。

 問題は俺ではなく、アイツのほう。どうせいつも通り悪趣味なことをしているはずだ。


「あああああああああ!!」


 目の前で痛ましい悲鳴が上がる。混乱した一人が闇雲に撃った銃弾は、味方の死体を貫くだけで、蛇には届きはしない。これが高出力レーザーカノンでも同じ結果になる、奴を覆う不可視の皮膜はそれほどまでに凶悪だ。


「さ、僕の番だ」


 なんとはなしに振るわれた鞭は撓り、這いずり、加速しながら敵へと喰らいつく。剣山の様に逆立った鱗は、どんな装甲だろうとお構いなしに喰らい付き、ゆっくりと獲物を締め上げる。後はもう悲鳴を上げること許されず溶かされるだけ。何度となく見た捕食が目の前で行われていた。


「――くそおおおおおおお!!」


 死にゆく仲間を見て、残りの敵がサーペントに切りかかる。かなり良いタイミングだが、相手が悪すぎる。そんな程度の速度ではこいつは殺せない。


「――フフ」


「な、あ!?」


 一瞬で振り向いたサーペント左手から、漆黒の槍が射出された。振り向き際に放たれた一撃は振りかぶられた腕を貫通し、そのまま頭部に突き刺さる。呻き声一つあげる暇なく、即死だ。

 そのまま流された毒は内側から身体を溶かし、後には中身の無い鎧だけが残される。まるで吸血鬼。こいつにとって人間は舐り、喰らうものでしかない。


「さて、寂しいだろう? 安心するといい、次は君の番だ」


「あ、あ、いやだ……」


 恐怖で動けなくなった最後の一人にサーペントはゆっくりと歩み寄る。ドロドロに溶かした死体を踏み越え、鼻歌でも歌いだしそうな足取りで近づいていく。相も変らぬ悪趣味さに眼を覆いたくなる。


「――ふふ。苦しいだろう、痛いだろう、怖いだろう。さ、楽になるといい」


 あでやかな手つきで、サーペントは最後の生き残りに手を触れる。子を思う親のような優しさと、獲物を狩る捕食者の残忍さで哀れな犠牲者に最後の一押しを加える。その誘惑に頷いた瞬間、彼の意識は消え失せた。

 そこにはもう生存者はいなかった。あるのは自我すらも溶かされた肉人形だけ。


「さてさて、収穫といこう」


 触れているだけで、こいつの毒はありとあらゆるものに侵食する。分厚い防壁だろうと、要塞のように組み上げたプログラムだろうと、人の心でさえもお構いなしに喰らい尽くす。今目の前の二人の犠牲者はその一端でしかない。


「おや、そっちももう終わってたのか。こっちは今終わったよ、丁度必要な情報を吸い上げたところさ」


「――相変わらず悪趣味だな」


「そうかな? こういう無粋で無能な連中には当然の報いだと思うけど? まあ、いいや、そんなこと」


 そういうとサーペントは虚ろな人形を無造作に放る。飽きた玩具を捨てる子供のように無邪気で、無関心な動作だった。


「……情報は引き出せたのか?」


「搾りかす程度だけどね。こいつら、末端も末端だから。でも、わかったこともある。手を――」


「…………」


 差し出された手を取ると、接触部を通して情報が送り込まれてくる。この施設の内部構造に、敵の数、位置、装備。サーペントが溶かした相手から引き出した情報が全て、俺の脳に送り込まれていく。

 目の前では閉じられていた隔壁がゆっくりと開き始める。状況がどうであれ、今は地上を目指すべきだ。この海の底にいてはなにもできはしない。

 

「――――!!」


「――あ」


 殺気を感じたのはその転送が完了する、その直前だった。握った手をそのままに、サーペントを抱えるようにして、跳ぶ。殺気の方向は、今しがた開いた隔壁の向こう。考えている暇はない。

 不意打ちの一撃が僅かに肩を掠める。飛来した槍のようなものは生体装甲(ひふ)を切裂き、背後の隔壁に突き刺さった。


「――チッ」


 炸裂。突き刺さった槍は俄かに光を帯びると、そのまま爆風を周囲に撒き散らした。見れば頑丈な隔壁に無残な穴が空いている、威力は充分、これならば俺達でも殺せる。


「あ、ありがとう。た、助かったよ」


「今は良い、それより、あれは何だ」


  二体のサイボーグが開いた隔壁の向こう側でこちらを伺っている。身に纏っていた装甲服は内側から破壊され、残骸が床に転がっていた。さっきの攻撃はこいつらのものだ。


「見れば分かるだろう? 例の”彼”の作品さ、君らの特徴がある」


「――こっちが本命ってわけか」


 二体の敵を注意深く、一体はハリネズミのような棘を背中から生やした灰色のバイオロイド、だが、バイオロイドにしては機械部分が多い。混成(キメラ)型と見るのが正解だろう。先ほど飛んできたのはこいつの棘だ。もう一人は蟹のような甲殻に全身を覆われた大柄な敵、こいつも同じく混成(キメラ)と見て間違いない。先日の奴等と同じく、俺達(ゼロシリーズ)と似た部分も見て取れる。間違いなく、組織製のキメラボーグだ。


「感知はしてたんだけどね。向こうから仕掛けてくるとは意外だった」


「――次はもっと早く言え」


 分かっていればこっちから仕掛けることもできたものを、こいつのせいで後手に回っている。全く面倒でしかたがない。ESの数値は永久炉を示していないが、それでも最高クラスの数値。力だけで測るなら、こいつらは並みの相手じゃない。


「外したよ、兄さん」


「そうだな、弟よ」


「さすがはあの01だよね、兄さん」


「うむ、聞きしに勝るという奴だな、弟よ」


 暢気なやり取りをしているが、隙が無い。数値以上に警戒すべき相手であることは明白だ。だからといってどうという事はないが。

 身体には何の問題もない。思考も澄んで、四肢には力が廻り、殺意は沸々と湧き上がってくる。こいつら程度、直ぐに片付けて上に戻る、それだけのことだ。


「でも、僕たちのが強いよね、兄さん」


「そうだな、弟よ。所詮は”旧型”だ、まとめて始末してやろうぞ」


 随分に余裕の態度だ、よほど自信があるのか、それともただの馬鹿か。そのどちらかは自分で確かめることにしよう。


「――へえ、なめてくれるじゃないか。生まれたばかりの虫けらが、僕たちを始末するだって? ねえ01、知らないっていうのは幸せだね」


 侮られたことがよほど気に食わなかったのか、サーペントが怒りを滲ませる。認めたくはないが、こいつのいうとおり、敵は俺達を理解していない。なら、思い知らせるまでだ。


「御託はいい、俺がやる。お前は引っ込んでいろ」


「いや出しゃばらせてもらう。こんな共同作業嫌も嫌いじゃない、それに無礼なガキに礼儀を叩き込んでやるのは大人の仕事だろう?」


 こいつとの共闘なんてこっちから願い下げだ。何時牙を剥いてくるかわからない毒蛇に背中を預けて戦えるほど神経太くない。しかし――。


「……好きにしろ、俺の邪魔はするな」


「りょーかい。ふふ、いい気分だ、君との共闘なんて楽しすぎて正気でいれるか心配なくらいさ」


 現実問題、このクラスの敵を二体相手取るのには骨が折れる。負けはしないし、確実に殺せる自信もあるが、如何せん時間がない。いまは猫の手でも、いや、蛇の手でも借りる必要がある。


「――行くぞ」


「ああ! 二人でワルツを踊るとしよう!!」


 それぞれの呼吸で、敵へと向かう。例え信用できずとも理解はしている、今はそれだけで充分だった。


◇   ◇   ◇    ◇   ◇   ◇   ◇  ◇   ◇   ◇   ◇


「――クソ」


 階段の壁に背を預けて、エドガーは悪態と共に息を吐く。銃弾が掠めた右腕と脇腹が焼けるように痛む。それで済んだのを感謝すべきなのか、薄汚い裏切り者を罵れるべきなのか。少なくとも今は休んでいる暇はなかった。

 区画全体がシャットダウンされた以上、この区画からの脱出路は二つしかない。一つは中央通路のセキリティを認証すること、もう一つは非常用の通路として用意されたこの階段しかない。

 当然、中央通路は当然敵が確保している。そう考えた上でこの場所を目指したのだが、敵も当然それをわかっている。そこまで考えた上で、奇襲を仕掛けて強行突破を試みた。

 

「おい、怪我はないな?」


 結果だけ見れば突破は成功した。反撃を想定していない敵の不意を突くのはそう難しいことではない。

 三名の見張りを射殺、UAFの装備を身につけた敵の反撃を受けながらも階段の扉を封鎖した。エドガーにしてみれば、それだけのこと、ただ、それだけのことだった。


「わ、私、ひ、人を撃った…………殺しちゃった……」


「UAFの装備、味方だよな? どうして味方が……」


「………………一体、なにが」


 エドガーにとってはその程度ことでも、彼らにとってはそうではない。彼らにしてみれば初めての殺人、初めての裏切り。ありとあらゆる感情が際限なく溢れ、どう対処すればいいのかまるで分からない。自分が此処にいるという現実感すら無くしてしまいそうだった。

 訓練は受けてきた。生身で戦うこと、引き金を引くこと、あるいは人を殺すこと、そのための訓練は何度の重ねてきたし、その覚悟もしているつもりだった。

 今、彼らが直面したのは現実だ。姿を変えたサイボーグや機械と変わらないレギオンを相手にするのとはまるで違う。知識だけの覚悟など、実際の経験の前では脆いもの。現実を現実と受け入れて割り切るには彼等は若すぎた。


「――ったく」


 それを責める事はエドガーにはできない。彼にも経験がある。実感もないままに人を撃ち殺し、跳んでくるはずのない方向から銃弾が飛んでくる。その瞬間の記憶は今でも、焼けるように痛む。もし、何も感じず、何の感情(イタミ)も感じずにいられるとしたらそれは機械だけ。彼らの姿は、彼らが人間であることの証に他ならない。

 それを割り切るようになるには経験を積むしかない。感情を感情として処理して、自己とは切り離す。それだけのことができるようになるには、長い年月とそれに相応しいだけの経験が必要なのだ。


「――ウェルソン補佐官、次の指示を」


「……おう。上に行ってサーバールームと管制室を抑える。付いて来い」


 だが、時に最初から、経験を積むまでもなくそれができるものがいる。引き金を引く指と自分を切り離すことを容易にやってのけるものが、極稀に存在している。

 その目を見たのは何時以来だろうか・エドガーを真っ直ぐ見詰め、指示を請うヒカリの瞳には一切の迷いも恐怖もなかった。すべき事をする、その強い意志だけが彼女からは見て取れる。

 戦士の資質、そう呼べばいいのだろうか。類稀なその資質を彼女は持ち合わせている。どんな出生が、あるいはどんな環境がそれを創り上げるのか、それはわからないが、それでも彼女はあの01と同じ資質を持ち合わせていた。


「よし。全員動けるな?」


「……はい」


 違和感を感じるほどに毅然としたヒカリの態度に触発されたのか、残る三人も平静を取り戻していく。今は形だけでも充分。足手纏いを介護している余裕はない。最悪の事態を避けるために彼等は行動しなければならない。

 為すべきことを為す、彼らの行動は全てその一点に帰結していた。

 



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