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RE:バーンドアウトヒーローズ    作者: ビッグベアー
第一部 再びの始まり
16/55

NO. 16 蛇の檻

 五つのセキリティチェックを受けて、三度も体内をスキャンして、ようやく施設の中へと入る。過剰にも思えるが、俺がここまで引っ掛からずに進めたという時点で、不十分だ。旧式のセンサーと内部走査しか用意されていない。これでは検知できて三流二流まで。俺のような存在はそもそも想定していない、この施設の脆弱性は明らか。これで全支部で一番警備が厚いというのだから呆れてしまう、昔はもう少し、マシだったと思うのだが。


「見ての通り、ここも大分変わってな。良いか悪いかはそっちで判断してくれ」


 申し訳なさそうに、それでいてどこか呆れたようにエドガーはそういった。昔を知ってるだけにこの現状が腹立たしいのだろう。そういうものだと割り切ってしまえば楽だろうに、それができないのがエドガーという男だ。


「ここは研究区画になってるんだ。閉じ込めてるだけじゃ勿体無いんだとさ、いやあ、まったく素晴らしいこって……おっと、新人君! 勝手にうろつくんじゃないぞ!!」


「え、ああ、すんません……」


 白い天井に白い廊下、ガラスの壁の向こうでは、十数人のエンジニア達が様々な機器を扱いまわしている。機械もあれば、生き物も、あるいはその両方の混じったものもある。ここの連中はここに封じられたものを本当に活用できると思っているらしい。俺に言えることがあるとすれば、それは勘違いだという事だけ。そもそもどうしてここに封じ込めなければならなかったのか、その原因を忘れてしまっているとしか思えない。

 どこか不快感を覚える通路を進み、中心部のフロアエレベーターへと向かう。アイツのいる最下層へと続く道はこの一本道だけ。万が一の逃走を防ぐため、この唯一の道には緊急用の気化爆弾が敷き詰められている。もし逃げ出すことがあれば、これも全く無意味なのだが、気休め程度にはなる。


「――」


「……………こんなものが」


「――大丈夫か?」


「ふぇ!? あ、はい! 大丈夫です……はい」


 振り返り、真後ろにいた岩倉へとそう声を掛ける。呼吸から分かるとおりに、顔色が悪い。どうやら新人達には少し刺激が強すぎたようだ。無理もない、たとえサイボーグとはいえ人型のものが解剖されている現場など悪趣味にほどがある。


「無理はしなくては良い。お前達もだ、この先にはこんなものだけだ。上に残るなら残っていい、輸送機の近くで待機していろ」


 残りの四人にしてもそうだ。こんな場所に来るのも、あいつに会いに行くのも最初から俺一人で充分だった。わざわざこんな風に関係のない新人達を巻き込むことはない。

 

「……お言葉ですが、01。私達の任務は、貴方の護衛です。その義務を途中で放棄することはできません。それに、これと向き合うのが私達の選んだ仕事ですから」


「――そうか」


 四人の、決意の篭った視線が俺を貫く。今更逃げ出すことなどしないと、自分たちはここで逃げ出すような臆病者ではないと、彼女達の視線はなによりも示していた。

 どうやら、俺はこいつらを侮っていたらしい。覚悟もない新人たちだと、無意識に見下していたのかもしれない。だが、違う。滝原がこいつらを選んだ理由が今更ながら理解できたかもしれない。こいつらは歳若いが、戦士だ。それを俺は見誤っていた。

 立ち止まった俺を先導するように、今度は新人たちが前を行く。文字通り、彼らのほうが俺なんかより先を進んでいる。少なくとも、彼等は(ミライ)を見ていた。


「一本取られたな。最近のガキは駄目だと思ってたが、良い目をするヤツらもいるじゃねえか」


「そうだな。俺も俺でやるべき事をやらないと……」

 

 エドガーに励まされるように、先へと進む。そんな良い目をした彼らをアイツの玩具にさせるわけにはいかない。ヤツと向き合うのだけは俺一人で十分だ。

 見られている、その感覚は少しずつ強くなってきている。この五年間、一度も味わうことのなかったこの感覚、すぐ傍にアイツがいる。

 この海の底でヤツは俺を待っている、それが運命だと謳うように、ヤツが俺を待っていた。




◇   ◇   ◇    ◇   ◇   ◇   ◇  ◇   ◇   ◇   ◇


 獣の雄叫びのような駆動音と共にフロアエレベーターが動き出す。煩わしい圧力調整も終わり、このまま進度一万メートルまで真っ逆さまだ。引き返すための道は分厚い隔壁で閉じられ、もうアイツの待つ最下層まで一直線に進むしかない。


「氷結区画によってくか? 昔懐かしい面子が迎えてくれるぜ。特にガスターなんて面白れえ顔で凍ってるぞ」


「いや、いい」


 エドガーの気遣いだか冗談だか分からない提案を突っ撥ねながら、浮遊感に身を任せる。一万メートル以上の落下というのはなんとも長すぎた。


「お、おお」


「――っ」


 手持ち無沙汰に新人達を眺めていると、あまりの初々しさにこっちが赤面してしまいそうになる。自由落下の訓練は受けているだろうに。

 だが、確かにこのフロアエレベーターの不快感は特有のものがある。少しずつ落ちていくような、海の底に引きずりこまれていくような、この感覚は他とは比べられない。

 自然、視線は下へ。見られている感覚は少しずつ強くなり、背筋を這い上がる悪寒は痛みへと変わる。腕に嵌められた腕輪がどうしようもなく不吉だった。


「悪いな、お前にいうのも変な話だが規則なんだ。不愉快だろうが、我慢してくれ」


「ああ、いいんだ。規則ってのはそういうもんだろう?」


「――ヘッ違いねえ」


 俺の視線をどう受け取ったのか、エドガーがそう声を掛けてくる。懸念しているのはこの腕輪そのものじゃないんだが、一因であるのは確かだ。

 俺の腕に嵌められたのはこの棺桶の最終セキリティ。変換核(トランスコア)の妨害装置、T-EMCと呼ばれる代物だ。特殊な電磁波とインストールされたプログラムが変換核(トランスコア)と永久炉の接続を妨害している。任意でないと装着されることができないのが致命的だが、その分効果は高い。俺でもこのプロテクトを破ることはできない。今襲撃されれば、確実にお陀仏だ。


「――――」


 限定的な慣性制御のおかげで、高速落下に不快感は無い

 例え戦うことができなくとも、覚悟は決まっている。こうして戦いに戻る事を選んだ時点で、迷う権利は放棄した。アイツと対峙するのはその時から決まっていた、今更、この程度のこと、立ち止まる理由にはならない。


「と、止った!?」


 一際大きな音と共に、エレベーターが停止した。目の前には一際大きなエアロックが立ち塞がっている。その周囲には巨大な爆砕ボルトの囲い、なにかあればこのフロアごと施設と切り離すことができるようにしてあるのだ。さらにその背後には、巨大なギガトン級の気化爆弾。この施設ごと塵に変える事ができるだけの威力がある。これでも十分とは言い難いが、これ以上を用意するのは難しい。最善とは言えないが、最適解だ。


「……通路の奥だ。俺は行けねえが、一応、最後のセキリティがある」


ヤツと対峙するのは俺だけ。ヤツ自身がそう条件を付けたのだ。俺以外とは口を聞く気もないし、会いたくもないということらしい。これほど想われては、宿敵冥利に尽きると喜べばいいのか、勘弁してくれと嘆けばいいのか分からなくなってくる。どちらにせよ、幸福じゃないことだけは事実だ。


「助かったよエドガー、ここまでありがとう。お前達もここまでで十分だ」


「お安い御用さ、兄弟。上で会おう」


「はい、我々は上で待機しています。何かあれば直ぐに連絡を」


「ああ、またな」


 挨拶を交し、エアロックのほうへと向かう。スキャンレーザーが俺に照射され、数秒の後、巨大な扉が少しづつ動き始める。俺を迎えるために、地獄の釜の蓋が開いたのだ。


「――いくか」


 背後ではエアロックが封鎖され、外貨とは完全に遮断される。目の前には無菌室のように真っ白な短い通路。その先には、入ってきたときと同じ大きさと厚さを持つエアロック。この通路は言わば、最後の分水嶺。引き返す選択肢を選ぶことができるとしたら、この場所が最後だ。この先にあるものは、俺を逃がしはしない。


「ID承認、ID No.HERO 0001」


無機質な機械音声とともに最後の扉が開く。ここより先へ進むもの、一切の希望を捨てよ、だ。


「――この香り」

 

  外とは違う甘く、纏わりつくような空気が俺の頬を撫でた。嗅覚には蕩けるような扇情的な匂い。油断すると、本当に熔けてしまいそうだった。

 扉の先には、照明はなく、中央で不気味に光る何かだけが、ぼんやりと周囲を照らしている。闇の中で揺れる光は誘うよう揺れて、闇を侵食していた。

部屋に足を踏み入れると、背後で封鎖が完了する。壁に取り付けられた気化爆弾が起動し、何時でも起爆できるよう待機している。これでここには奴と俺、完全に二人きりだ。

特有の光を放つ特殊溶液に満たされた檻、その中心に奴はいた。生体装甲を利用した拘束具に全身を隈なく覆われ、表情どころか生きているのかさえ確認できない。

それでも、俺には確信があった。コイツは俺を見ている、ここに来た時から片時も離さず俺を見ていた。今この時も、間違いなくこちらを見ている。背筋を這い回る悪寒は間違えようがない。五年前から微塵も違わず、こいつは俺を見ている。


「――やあ、会いに来てくれたんだね。僕は、ああ僕は、本当に本当に本当に嬉しいよ、言葉では現せないぐらいに嬉しい」


 歓喜の歌を謳うような艶やかな女の声。その言葉一つ一つに胸の奥に忍び込んでくるような甘美な響きがある。嘘偽りは少しもない、本当に心の底からコイツは歓喜している。それが、恐ろしい。どうしようもないほどに、俺は怯えている。


「さあ、何から始めようか、最愛の人。君が望むならどんなことでも答えよう」 


 その言葉は心からのもの。愛を謳うように、世界を呪うように、俺を祝福するように、蛇は微笑んだ。

 その微笑みと共に、俺のまどろみは今度こそ砕けた。もう引き返す場所は何処にもなく、進むべき道は一つしかない。例えその先に何が待ち受けているとしても。


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