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RE:バーンドアウトヒーローズ    作者: ビッグベアー
第一部 再びの始まり
10/55

NO. 10 戦闘機械

 

 傷の痛みは、事態の逼迫を警告するように熱を帯びていく。内に抱えた不安と恐怖も同じ、確信めいた予感がじりじりと焼け付いていた。


「――統括官、手当てを」


「構わないで、もう十分よ。それより通信機能の回復はまだ?」


「いえ、それが……戦闘の影響か通信障害が発生しておりまして……」


「急がせて、最優先でね」


 実際傷そのもの応急手当と痛み止めのおかげでほとんど支障はない。感じている痛みも熱も所詮は幻、忘れてしまえばそれで終わりだ。こうして臨時司令室で指揮を取る分には何の支障もない。

 目の前では、埃塗れの制服を着た技官が慌しく動き回り、機材の修復に努めている。破壊された設備はそう多くは無いが通信機能を的確に破壊されてしまった。そもそも指示を飛ばそうにもそれすらもできないという有様だ。各隊の状況も、敵の主力、五体のサイボーグを相手取っている01の戦況もまるで把握できていないのだ。

 だが、指揮車そのもののダメージは見た目ほどではなかった。中にいたオペレータたちもほんとんどが助かった。通信機能さえ回復すれば司令部は完全復旧できる。それもこれも敵をひきつけて主戦場を変更した01の功績だ。


「護衛の何人かを斥候にして、周辺部隊に司令部に順次集結するように伝えさせて」


「はあ、しかし、通信が……」


「なら、口伝で伝えなさい! 駆け足!!」


「りょ、了解しました」


「全く…………」


 頭の中では数々の可能性が浮かんでは消えていく。五年ぶりの修羅場に身体が反応し、古傷が熱を持ち疼き続けている。五年前のように、なくした左目が痛む。これから起きるのはその再現だと、そう告げるように。


「――大丈夫よ。今回は大丈夫」

 

 深く息を吸って、心を支配する。確かに状況は酷似しているが、それだけだ。他の何もかもは五年前とは違う。二度とは繰り返さない、繰り返させない。そのためにこの五年間があったのだから。

 奇襲部隊の規模は分からないが、鎮圧しつつあるはず。いくら奇襲攻撃とはいえ、所詮はレギオン、護衛のH.E.R.Oたちでも充分対応可能だ。状況制圧すれば、彼の援護に向かうこともできる。一人で五体の敵を相手にする01を救うには、今目の前の敵を倒すしかない。それがどうしようもなくもどかしかった。


「――01……」


 あの傷だらけの戦友は今も戦い続けているのだろう。いつものようにたった一人で、感情を殺して冷たい心のまま戦っているのだろう。うちに沈めた怒りと死よりも暗い喪失感を抱えたまま、戦い続けているのだろうか。そんな彼を戦いに引き戻したのは他ならない自分自身、それを詫びる資格すら滝原一菜にはない。

 けれど、信じることだけは許して欲しい。01はきっと負けないと、必ず返ってくるのだとそう信じることだけは。




◇   ◇   ◇    ◇   ◇   ◇   ◇  ◇   ◇   ◇   ◇




 叩き潰した死体には目もくれず、その場から退き退いて、敵の注意を誘導する。連中の連携はこの透明なサイボーグを前提にしたもの、それが崩れたとなると――。


「――っよくも!」


 ようやく残りの連中が追い付いてくる。意識の緩急を突いたおかげで、連中は後手に回っている。今度はこっちが攻める番だ。

 機を逸した大振りの攻撃など当たるはずもない。爆炎と粉塵に紛れて、残りの連中へと距離を詰める。勝利を確信していたのだろう、隙だらけだ。

 必殺を破られるとはそういうこと。どれほどの手練だろうが、この数瞬だけは狩られるだけの兎と成り果てる。


「チィッ!」


 やはり、黒い個体の復帰が一番早い。経験が理性を呼び起こしたのだろが、もう、手遅れだ。

 まずは一。動きを止める。打撃でこの重装甲を破るのは至難の技、正面からでは分が悪い。ならば、


「ぬ、あああああああ!!」


 振るわれた拳をいなし、黒い奴の懐に一息に潜り込む。刹那の間、呼吸を合わせ、目の前の巨体を浮き上がらせる。反撃の一瞬にあわせれば、このぐらいのことは容易い。そうして、三メートルはあろうという巨体を投げ飛ばした。

 瓦礫が巻き上げられ再び視界が塞がる。狙い通りだ、このまま一気に片をつける。

 勢いを殺さず、呼吸と気配を殺し、白い奴の背後へと回り込む。連中は視界とセンサー頼みだ。粉塵で視界は潰れ、センサーの類は先ほどの爆発の余波で数秒間は使い物にならないはず。連中は、今闇の中にいる、狩るのは容易い。


「クソッ! そこか!!」


 あからさまな圧力を掛け、二体の視線と注意を背後へと集めた。すぐさま飛んでくる白い鞭を紙一重で逸らし、鞭の間合いの中へと入り込む。

 先程と同じく打撃は効果が無い、かといって投げたところで意味は無い。原子崩壊を起こすには充填までの時間がない。だが、手詰まりではない。


「あ!?」 


 効かないと承知で白い奴に拳を叩き込む。ダメージ与えるのが目的ではない、とにかく敵の注意さえ誘導できればそれで良い。正しく暖簾に腕おしそのものだが、意味はある。

 背後に気配。隙を突いたつもりだろうがバレバレだ。続けて白い奴にもう一撃、あと少し動きを止めておかなければならない。


「こ、の! 無駄なんだよ!!」


 両腕での振り下ろし、命中した肩の装甲が衝撃に軋むのが分かった。反撃をあえて受け、意識をこっちに向けさせておく。もう少しだ。


「シャァ!!」


 今。最低限かわしきれるギリギリの地点で最低限に体を反らす。まさかあのタイミングでかわされるとおもっていなかったのか、次の動きが一瞬遅れる。それで十分だ。

 脇腹を切り裂かれながらも、バイオボーグの腕を脇に挟み、圧し折る。温い、奇襲ならもっと賢くやるべきだ。


「ッああああああああああ!」


「――なに!?」


 トカゲの腕を引き千切り、そのまま利用させてもらう。生体装甲を切り裂くほどの爪だ、弾性の新素材装甲であろうと例外ではない。

 エネルギーを流し込み活性化させた爪を背後でようやく動き出した白い奴へと突き立てる。銀色の人工血液が飛び散り、悲鳴があがった。切り裂けたのは装甲の表層程度だが、それで充分。


「テメエエエ!!」


 いきりたった白いのが無我夢中で反撃してくる。大振りで見え透いた一撃、そんなものに当たってやる義理はない。


「――クゥ!?」


 俺のかわした一撃はそのまま、背後で動けずにいたトカゲ型を直撃した。やはり、経験が浅い。怒りと痛みで我を失っている、致命的だ。

 隙だらけの胴体に貫手を放つ。無傷の部分は抜けずとも、表層を切り裂いた部分を狙えば容易く貫ける。


「あが!?」


 狙い通り。指先に冷たい伝道液と駆動する動力炉(しんぞう)の熱さを同時に感じる。それに構うことなく右腕から光を流し込んでいく。

 絹を裂くような悲鳴を上げる白い奴を無視して、そのまま動力炉へ。奴の体内では神経と血管が焼け落ち、何もかもが一緒くたに成っている。

 そして、最後は動力炉へ。集約された光は決定的な破壊を齎す。破裂、世界を光に染めて、奴の命は消失した。

 休んでいる暇は無い。次だ。


「キシャアアアア!!」


 背後で残りの一体が怒りの絶叫をあげる。目の前で仲間を殺されたのだ、当然の怒りといえるだろう。それが戦場では命取りになると、この敵は理解していない。

 計算どおり。如何に早くとも正面から突っ込んでくるのなら、対処は容易い。


「ガッァ!?」


 懐に踏み込み、敵の勢いを殺し、こちらの間合いへ。まずは頚部、掬い上げるように一撃、どれだけ強固であろうと構造そのもの人体とそう違いはない。適切な威力で適切な場所に打撃を叩き込めば、のうを揺らすことは簡単だ。


「――アアアア!?」 


 朦朧とした反撃を払い落とし、むき出しの胸部に致命の一突きを叩き込む。必殺の感触は生々しい。ほぼ生体部品で構成されるバイオノイドの内部はほぼ生物のそれだ、サイボーグやドローンとは違う。生々しいまでの生の脈動が冷たく冷えていくのを感じた。

 これで二つ、残りは三つだ。


「――貴様っ!」


 黒い奴が全て手遅れになってから戦線に復帰する。さすがに冷静だ、怒りで我を失ってはいない。だが一対一、何の脅威もない。


「――クソッ!!」


 攻撃をいなしながら、的確に反撃を加えていく。狙うは装甲の薄い間接部、まだ二体のこっている以上、いちいち時間をかける気はない。最短手で仕留めるのみだ。


「――はッ!!」 


「――お、おのれ!?」 


 気合一閃、膝部関節の装甲ごと内部機構を蹴り砕く。これで詰みだ。

 砕けた脚部を足場に天高く駆け上がる。空中で体を反転させ、出力を再び跳ね上げる。膨れ上がった出力を両の足へと収束させ、輝く白色の太陽を一つの槍へと練り上げる。五年前には何度も使ったこの技、威力と派手さは折り紙つきだ。


「ッ貴様アアアアアア!!」 


「ッオオオオ!!」


 動けないながらも二門のレーザーカノンが俺を狙う。今更避けるまでもない、正面突破あるのみだ。

 大口径の光と正面からぶつかり合う。赤色の光の中を引き裂きながらも、真っ直ぐに進む。生体装甲(はだ)の焼ける痛みも置き去りに、必殺の瞬間へと突き進んだ。


「――終わりだ!」


「――っ!?」


 赤い光を突きぬけ、黒い装甲へと両の刃を突き立ててる。生体装甲の強度は誰よりも理解している。だからこそ、この一撃だ。

 黒色の装甲が弾け飛ぶ。蹴りの威力だけならここでお終いだが、解放された光が空間を蹂躙し、原子崩壊を引き起こす。これが我が必殺、彼女から与えられたこの身体が最強たる所以の一つだ。

 殺した、という実感すらない。この一撃が齎したのは死体の一部すら残さぬ、徹底的な破壊。その事実がどうしようもないほどに虚しかった。

 光の中を突き抜け、着地の衝撃を殺す。脚部の残留エネルギーを体内で散らし、暴発を抑える。こんなところで拡散させてしまえば周囲に被害を出しかねない。

 それでも抑え切れなかったエネルギーと衝撃波が周囲を蹂躙していく。地面が弾けとび、粉塵と瓦礫が空高く舞い上がる、轟音から察するにどこかの建物が崩れたのだろう。ブランクがあるとはいえ、被害を出しすぎた。

 しかし、残りはこれで二体。どちらも手の内を晒していない以上、状況はいまだに不利。だが、それがどうしたというのだ。まだ戦える、まだ殺せる、この身が朽ち果てるその時まで戦い続けることが俺の使命だ。

 



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