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二十一世紀頼光四天王!

二十一世紀頼光四天王!~池袋の偏愛。

作者: 正井舞

BLっぽい表現がありますが、違います。苦手な方は華麗に回避して下さい。

源頼光は親しくしている先輩から借りてみた数タイトルのライトノベルの中、池袋を舞台とした愛の物語になかなかの感銘を受けた。池袋というのは江戸以前はただの江戸郊外の湿地帯であり、湿潤地帯ということで盛んな農業はあったようだが、特に池袋村といえば田舎だった。池袋という場所は、随分と昔から、愛憎の舞台に相応しい。

まあ、感銘といっても、所詮は娯楽だ。インタレストという意味での面白さは特になく、スコットランドの精霊について少々のほど詳しくなっただけだった。

「あらまー。」

室内を飛び交う食器を鎌の柄尻で叩き落とした碓井貞光は、卜部季武の防護札を翳して荒れ果てた部屋の中に、防護があってもそれは本能なのだろう、頭を低くして、部屋の中央に座る女を連れ出した。途端に静まり返った室内に、ほっと伊月は息を吐いた。

「気ィ抜くな、バァカ。」

ガシャン、と渡辺綱の背後に弾けた食器棚は破片を振り回して倒れた。

「ノウボウ。アキャシャ。キャラバヤオン。アリ。キャマリ。ボリ。ソワカ!」

との季武の声がなければその凛々しい美貌は血に染められただろう。綱は攻撃に特化する分、自分自身の護りが薄い。貞光にも言えることだが、彼の防御というのは攻撃が最大の防御であるので致し方ない。貞光が連れる女はこの家の当主が年をとってから迎えた三人目だか四人目だかの妻で、源の家に直接依頼が来た。全く噂は千里を走りたがるというが、どの道を走って来たのかは想像もつかない。

ぐらっ、と足元が揺れる。日本人にとってそれは慣れた事象であるが、頭上で揺れるシャンデリアが大きく左右に円を描くように揺れるのに、綱は跳躍した。昔は化け物の仕業とされたそれらの原因を貞光は当時として既に見抜いていたのだから恐れ入る。すでに抜刀されてベルトに黒拵え鞘はある。ワイヤーと電気の通ったコードを切る際、微弱な電流が流れ込む。流麗な線を描いて刃は煌き、先ほどまでと比べ物にならない轟音が屋敷中に響き渡った。

「せんっ・・・綱!なんて危険なことなさるんですか!!」

学校の帰りに呼び出された故に皆スラックスと学生服やブレザーだ。気を失った執事を坂田金時が担ぎ上げて廊下に出ると、そこには使用人制服の黒山の人集り。普通地震があればそれに対処する動きが有るはずだが、と金時は眉をしかめるが、不思議なことに廊下にある高価そうな花瓶や花器、また華なども先程と同じままだ。

「ごめんなさい、危なかったんでシャンデリア落としました。」

白刃煌めく刀片手に詫びる綱に怒りの声を落とせるほど執事頭は度胸が無かった。

「地震、無かったですか?」

「いいえ、我々はその、シャンデリアが落ちたのであろう音でこちらに向かっておりましたので・・・。」

「把握。綱。」

ちょい、と指先で招かれた綱は貞光が肩を組むように顔を近付け、思いっきり。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」

ディープなキスをした。バシャァン、とアーチ型の窓が割れたのはその直後、厚手のカーテンに引っかかって被害は少なかったが、綱の心象的には大打撃である。

「なにをなさっているんですか、貞光さん・・・!」

「ちょっとこの際大昔の恩義は置いとくぜ、貞光。」

「季武、防護札くれ。般若心経は覚えたか、綱。」

怒りに震える季武と、殴るために肩を柔軟する金時と逃避気味に遠くを見た綱。大鎌を構え直した貞光の鋭い眼光に三人が息を飲む。

「んで、そっちのハゲ。使用人、主に女で池袋の出身はいるか、ピックアップよろしく。」

片腕に綱を抱えたまま自分のペースを守る貞光に対し、は・・・げ・・・、と言葉をなくしていた執事頭は早急に、と女中頭を呼んだ。貞光の腕の中でもがもがやっていた綱はやっと、ぷはっと顔を出したが、今度は荒れ果てた部屋に引きずられ、いーやーだー!と盛大に喚いた。

この度の屋敷での騒動は、先程のような地震のような現象から大小の小石が落ちる、妻が厨房に入ると毎度鍋が爆発する、一度は消防車を呼ぶ騒ぎになったほど。針箱や薬箱が飛び回るのは当たり前。家具の配置もしょっちゅう変わる。因みに誰の手にも触れられず。

「さ、さだみつ・・・?」

涙を浮かべて真っ赤に染めた目元は男で有るのに化粧でもしたような美しい扇情。花瓶が破裂した際に飛び散った紫の薔薇を花宮は水浸しのカーペットから取り上げ、やわらかな花弁で線の細い顎を辿ると頤、こめかみ、黒曜石色の瞳が恍惚に染まりゆくのを腕の中に、晒される首筋にくちびるを当て、ん、と切なそうに喉を鳴らした綱は耳元に棘を除かれた茎が差されるのに、酷く官能に似た悪寒を感じた。

「綱、綺麗・・・。」

薄いくちびるに親指を当たられ、薄っすらと開くその粘膜に歯を立てた貞光は囁く。

「掴まってろ。」

バチン、バチン、と金具が二つ弾け飛び、木製の箱が乱暴に宙に持ち上がる。首筋に縋り、ブレザーを掴んだ手には鬼斬りの刀を抜き身で抱えてあるので融通が利かない。宙を切るパレット、絵の具のチューブ、筆、硝子ペンは丁寧にも途中で砕かれたのを大鎌を横スイングで吹っ飛ばす。舞踏のように運んでいた脚に抱えた綱は貞光の首筋に女が甘えるような格好で、その風切り音を聞いている。

「ぅわぁ!!」

いつそれがあってもいいように、と構えてもあった綱は、急に貞光が脚を止め、そのまま膝を軸に倒れたことで悲鳴を上げる羽目になる。

「ちょ、あぶな、ちが、貞光、怪我!?」

「っは!可愛いとこあんじゃねーか、つーなーちゃん?」

「抱き締めんな気色悪い!」

警戒する猫のように全身を逆立て吼えた綱は、ふと貞光の視線が遠いことに気付いて振り返る。パレットナイフが三本も突き刺さってあるのは貞光の頭があったであろう場所。すっかり静まり返った部屋の中、油絵の具での黄色いドレスに白い花を彩った女の肖像画がパレットナイフで刺されて終わった。

「ポルターガイスト?」

頼光が満足そうに肘を突き、しかし優雅に肩を竦めた様子に、これまた荒唐無稽ですこと、なんて鼻で笑った貞光だったが、まあ聞け、と頼光の愉快そうな声に眉を寄せた。この大きな屋敷になる前、主人は一人の女と池袋の小さな下宿で暮らしていた。仕事が成功して会社が運用された景気に裏腹、妻は体調を崩した。肖像画を見るに、素朴で、美しい女だった。今の豪邸に引っ越しても朴訥とした彼女は体調の不良を治すことが出来ずに逝った。

「いやはや、結局この絵画が騒霊現象を起こしていたと言うことですか。」

流石にナイフが刺さった顔面は修復には手間取りそうだが。季武はやっと脚の踏み場が出来始めた部屋の中で蝋燭を片手に歩く。シャンデリアは綱が切断し落としてしまったので部屋の主な灯りが無いのである。間接照明の中、切り裂かれたベッドカバーや砕かれた化粧品など、女中の連中がチェックして捨てて行った。この屋敷に池袋の女は現在の妻以外には、この絵画の女の一人きりだった。彼岸にいるが。

「池袋の女はな、同郷、つまり池袋の出身の女を不幸にするとポルターガイストを起こすんだよ。最初に確認されたのは江戸の頃だな。奉公に出た先で弄ばれて犯され殺された女が、同じような境遇の女を守ろうと下女に乗り移ってポルターガイストを起こした。」

「そっか、四人目のお嫁さんか。」

「まあ、ユーレイの考えることは解らんし。・・・季武は別か。」

「僕だってそんなに超常現象と出会ったことはありません。」

「八幡さんにお縋りしてるのしか会ったことねーわ、俺も。」

「「安定の金太郎!」」

んで頼光が調べた話だと、と貞光は前置きした。

「ここのご主人、精力旺盛で何人もの女を抱き潰してるそうだぜ。」

つまり無駄に官能を中てられた綱は女の代わりに扱われたのだと気付いて、実に気持ち良く刃を振るい、貞光は気持ち良く応えてやって、三日三晩斬り合ったと言うのだから呆れた話であった。

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