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逃げた先の世界07


 涼音には直ぐにでも練習を始めてもらわないといけないので、アレセイアさんの許可を得て魔女の家にて練習。

 アレセイアさん曰く、音を遮断する魔法があるらしい。この世界でいうノイズキャンセリングのヘッドフォンのようなものだとか。

「ルート弾きの原理は理解できたみたいだね。まぁ、楽譜さえもらえれば、原理なんて知らなくても、ルート弾き位やってやれないことは無い」

 過保護の姉、彩音は涼音とは違がってする事はないのだけど、同じ部屋で男女が一緒だなんてダメ。ということで同伴。ベッドの上で暇そうに転がり込んでいる。

「なぁ、彩音。本当に俺達に付き合って寝ないで練習付き合うのか?」

「間違いが起きたらどう責任を取るつもりなのよ!?」

「すみません。お姉ちゃん心配性で」

 双子の姉妹、それも片割れなら気になるもの。と考えると変な事じゃない。

 生まれてからずっと一緒だと、長い間離れていると違和感がある、なんて聞いたことがある。

「今日は指の動かし方から行こうか。慣れてきたら俺もアコギを弾いて、それに合わせる形で」 

 涼音の記憶力の良さは群を抜いてる。それにピアノ経験があるからとって、手をバタつかせながらも、コードを弾くあたりは舌を巻くしかない。

 まぁ、よれてるんだけどね。それでも、ここまで出来るなら簡単に合わせるのも近いだろう。

 現在の時間は深夜一時。ここに戻ってきてから六時間。休憩を入れたら約五時間半でここまで形になるなら、ベース初心者でも面白いだろうな。

 今はメトロノームありでテンポに出来るようにしている。自分の得意なコードは完璧に弾いて見せている。ある程度動くようになったら身体で覚え込むのが楽器だしね。

 こればっかりは時間だけが解決する。例外はセンスという名の才能。

 その才能って枠だけで見れば十分に涼音も才能があるように見える。

「正直驚いた。ギターは初めてだって聞いてたから一週間は見てたんだけど、これなら明日、明後日にでもちょっとしたのならやれそうだ」

 ふふんと胸を張る彩音。

「涼音はスーパ器用貧乏なのよ!」

 自信満々に言い切ったが……

「フォローになってないですよ。お姉ちゃん」

 呆れつつ涼音が返す。そんな具合だ。 

「やれば上手くなるのに、一歩先にいかないんです。でも、だからこそ、こんな時位は役立つと思いますよ」

 

 

 時刻は深夜二時。後六時間もすれば学園に居なくちゃならない。睡眠不足は百も承知と、涼音だけ、練習を続けていた。彩音は当の昔にダウンだ。

 俺はというと、飲み物でもと、紅茶を入れてきた所で、部屋に戻ると涼音が居ない。

 彩音が俺のベットを占領してる時点で、涼音なら起こして来客用の部屋に戻るはず、だよな。

 俺の部屋にはギターが放置されてるし、もしかして外か?

 そう当りをつけて、外へ出る。いつもは虫の声か、フクロウとかの野鳥の声しか聞こえないハズなのに、苦しそうな声が混ざってる。

「涼音?」

 寒い外に居るはずなのに、大量の汗をかいて、自分の服を強く握り締めてる。

 ランタンを持ってる俺に気づかないほどなのだから、その苦しみは相当のはずなんだ。

「おい、涼音!」

 近づいて、身体に触れる。大量の汗もかくはずだ。体温が普通じゃない。

「な、ぎ、さん」

 痛みを堪えようとしてるのか、深い呼吸を繰り返しながら、俺の名前を呼ぶ。

「なんで、こんなになってるのに黙ってるんだよ」

「私の、身体ですから……」

「直ぐに彩音と、アレセイアさんに知らせるからまってて」

 立ち上がって戻ろうとすると、袖をつかまれる。

「お姉ちゃんには、内緒に、して、ください。この発作もあと少しすれば、治まります、

から……」

 絶え絶えにしか口もきけないのに何を言って。

「お願いです」

 あまりにも必死な目でお願いされたら、告げ口の様なまねは出来ない。

 だけど、聞いておかなくちゃいけない事がある。

「いつもの発作で、大丈夫なんだよな?」

 大丈夫なわけないと思うけど、そう聞くしかない。

「はい。あと、少しすれば……」

「分かった。でも、アレセイアさんには見てもらう」

「ありがとうございます」

 急いでアレセイアさんを叩き起こして、涼音の病状を説明をすると、一つの瓶を持って

涼音の元へと戻る。

「さぁ、これを飲んでごらん」

 一瞬顔を歪ませる。それほど不味いものなのだろうけど、アレセイアさんの飲ませる物

だ。効果はあるはず。

「ありがとう、ございます」

 飲んだって、直ぐに効果は出るわけではない。暫くは辛そうにしていた涼音の表情がよ

くなってきたのは飲んでから、20分位過ぎた頃だ。

「寝ちゃいましたね」

 相当、苦しかったはずだ。それにどれだけ耐えたのかは分からないけど、ぐったりしてるのが見て取れる。

「あぁそうだね」

「あの、涼音の病気って」

「普通の病気じゃない事くらいは分かるのだろう?」

「はい」

 どう見たって普通じゃない痛みかただ。その痛みは原因不明。彩音の話じゃ病弱って事だけど。  

「今の薬だって一時的なものさ。治すには至らない」

「治してあげる事は」

「魔女は、人の、しかも、生死に係わる事をするのには、条件があるんだよ」

「力があるが故、ですか?」 

 だからこそ、もどかしくも感じる。

「そうだね。誰も彼も、手を貸してあげれるわけじゃない。そうだね、きっと理不尽に感じるだろうし、凪くんなら、違う答えがあるのかもしれない。仮に、凪くんが全てを見通す事ができて、その殆どを解決できるとしよう。凪くんは、全てを助けるかい?」

 答えはノーに決まってる。何か、的を絞らなければ、俺という個人を捨てても足りない。それこそ、神様の所業だ。 

「意地悪な、質問ですね」

「魔女とは、そういうものなんだよ。こればかりは変える事が出来ない。それは魔女を助けるための方便さ」

 ルールに例外が出来てしまった瞬間、罪悪感は一層増すはずだ。ルール外だからと、見て見ぬ不利をしなければ、全てを助けない自分の持った力を恨んでしまう。

「凪くん。キミは、少し大人すぎる」

「何でそう思ったかは、分かりませんけど、俺は、そんなことないですよ。なにせ、逃げてきたんですから」

 しかも、逃げたまま。

「大人だって逃げたい事くらいあるさ。ただ、しがらみと、大人という皮を被ってるおかげで逃げ出すのが怖いだけ。別段おかしい事じゃない」

 大人ってやつはきっと感情論を並べない。そんな存在だと思ってた。

「逃げ出すのが、怖いだけ……」

 俺にとっての、まさか、とさえ言える返答をぼやいていた。

「そうさ。くだらないとか、そういうことは置いとくとして、怖いんだよ。自分はあってる。間違っていないと自分に言い聞かせるためにね」

 だから、逃げ道を自分で塞いで、社会の歯車になる事を選ぶ。誰の目からみても、それは、正しい事だから。

「アレセイアさんも、ですか?」

 笑って見せるアレセイアさんの姿がある。

「その通りさ。私は魔女で居るのが怖い。けれど逃げ出せずに、こうしている」

 俺から見て、完璧に見える大人の弱音は大人見える。変な物言いなのは分かってる。

 だけど、かっこ悪いものをさらけだすのは恥ずかしくて、しないものだって思うから。

 自分の弱さを知っていて、言葉や行動に出来るのはそれこそ大人だからこそ出来るのかなってさ。意地をはり続けるのは、子供だから、なんて考えてる俺にはなおさら。

「すみません。なんか、変な事聞いちゃって」

「いいや。私は凪くんの雇い主だ。そして、凪くんには仕方ない。なんて言葉を使って欲しく無い。そう思っただけだよ。仕方ない事になっても」

 そう言葉にして、立ち上がるとティーポットを持って戻ってくる。

「お茶を一杯入れよう。気分も落ち着かないと眠れないだろう?」

 入れてくれたハーブティーに、ほんの少し蜂蜜を入れてもらって一口。

 確かに、このままベッドに入っても色々と考えてしまいそうだ。

「おいしいです」

「うん。それはよかった」



 俺は完璧な寝坊。二人は学校に行ったの事。

「す、すみません」

「いや、凪くんが寝坊するなんて初めてだからね。たまにはいいんじゃないかい? 事実よくやってるよ。この件にしても、急な話なのに、良くやっていると思う。断片的だけれど、二人にも話を聞かせてもらった」

 この仕事は俺に適任だ、なんてアレセイアさんは言っていたけど、未だに受け持ってる案件が重いって思う事には変わりない。

「えっと、なら昨日もチラっと話しましたけど、出来れば練習場所を貸してもらいたいんですよ。いいですか?」

 手伝うと決めた以上は何かしらの結果を見るまでは全力でやらないと後悔しか産まない。

「あぁ、構わないよ。けれど、私はこれから少し家を空けようと思うんだ」

「どこに行くんです?」

「魔法世界さ。ちょっと入用でね」

 機会があれば行っては見たいと思うけど、今はこっちの事で精一杯だしな。

「帰りはいつになるんです?」

「学園際が終わる頃には、かな」

 かなりの日数を向こうに滞在するのか。

「なにか、連絡先が欲しいんですけど」

「それなら大丈夫。ハルにお願いしておこう。暫くはハルのやっかいになってくれると、私も助かる」

 ハルさんの所に居れるなら、何かあっても大丈夫か。ハルさんに話せばアレセイアさんにも連絡はつくだろうし。

「はい、分かりました。帰ってきたら、ハルさんの店に寄ってくださいよ?」

「うん、分かったよ。ちょっと急ぎなんでね。私はもう行くから、必要な荷物は持っておいた方がいい。暫くはこの家にも鍵をかけるからね」

「あ、俺も急いだ方がいいです?」

「いや、ゆっくりでいいよ。鍵と言ってもある種の結界の様なものを張るんだ。来るものは拒むけれど、出て行く者は拒まない、そういう結界だ。だから、出て行く分には問題ないんだよ」  

 暫くは会えないかもしれない事を考えると、助言の一つでも貰った方がいいかもしれない。

「あの、俺達を聞いたのなら、だいたいの……」

 俺の言葉の意図を感じ取ったのか、一つ頷くと、アレセイアさんは言葉にし始める。

「道を、選ぶのはキミ達だ。信じた道を歩けばいい。言ってしまえば簡単になってしまうし、無責任って言葉に尽きる。何せ、信じた道があっているかの保障が何処にもない。そして、私は未来を知りえる事ができる。それでも、歩く道に自信を持って欲しい。本来、未来なんていうものは知っていけないもの。それだけ、私達魔女というのは特殊存在だ」

 この魔女、アレセイアさんにはどれだけの未来が見えているのだろうと、時折考える事がある。

 変える事の出来る未来だとしても、見えている世界がどうしようも無ければ、抗いようがないじゃないかって。

読んでいただきありがとうございます。

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