逃げた先の世界05
あれやこれやと思考を廻らしているうちに、がちゃりと戸を開ける音が耳に届く。
「あ、あの」
今にも消えそうなほど小さな声、そして顔を紅くしている涼音の姿がる。
「私には少し可愛すぎ、ます」
メイド服のスカートを短く改造して、大胆にも太ももを見せて現れる二人に、顔を真っ赤にして裾を押さえる涼音。何故かいけないものを見ているような気がする。
「大丈夫だよ。可愛いって、ね?」
彩音の言葉が辛うじて、耳に届く。好みかそうじゃないかといわれれば好みです。
口には出さないけど。
「ん? ああ」
「ほら、釘付けだって涼音」
言うほど凝視していたかは置いておくとして……
「み、見ちゃぁ……だめ……」
細々と言葉にしているのもあってね。
「うーん。同じはずなのに何故か涼音の方がエロく見える」
まじまじと涼音を見ながらぼやく彩音。要因は色々あるにせよ、同意しておこう。
「さぁ3人とも、よろしく頼むわね」
俺達に喫茶店の手伝いの依頼をしたハルさんはカウンターで眼福じゃ~と言いつつ丈の短いメイド服を眺めてホクホク顔。
「俺達はオーダーを取れば良いだけですか?」
「うへへ」
ヤバイ、お客様にお見せできない顔になってる。
「私の見立ては間違ってなかった」
聞ちゃいないよ。
「あのー。聞いてますー?」
さてどうしようか、と考え始めた所で店のドアが開く。
ハルさんも客商売しているからなのか、いや、そんな事は置いといて、どんな魔法を使ったら、お客が入って来た瞬間に引き締まった顔へと戻れたんだ……
「ハールさん」
「いらっしゃい。後ろの子達は友達?」
「はい、素敵な喫茶店を見つけたって話したら、皆で行こうって事になって、来ちゃいま
した」
てへりと舌を出すお客さん。彼女も、俺らとそう年は変わらないだろう。
「この前食べたパンプキンケーキありますか?」
「勿論」
「それじゃ、三人分、バニラアイス多めでお願いします」
「かしこまりました。それじゃ凪くん、アイスの盛り付けをお願い。アキから、料理上手だって聞いているし、期待しちゃうよ?」
好きではあるけれど、アレセイアさんに比べたら、まだまだだ。
「程よく、でお願いします」
「ハルさーんパンプキンケーキ追加でー」
厨房に引っ込んだ俺達に聞こえるように少し大きめの彩音の声が聞こえてくる。
働いている方は少し忙しく、お客さんには、ゆっくりとした時間が流れている3時少し前のカフェ。
◆
「彼女の名前は園村香奈さん」
友達を連れてケーキを食べきていた子がハルさんの紹介で目の前に居る。
「えーっと」
俺達の姿をみて、困惑する園村さん。話が通ってなかったのだとすれば、もっともな反応だ。
「聞きそびれてたね。バイトの子達も同伴でいいかな? 勿論、ここで聞いたことは他言無用にする事を約束する」
「ハルさんがそこまで言う人なら、問題無いですよ」
「えっと、その、いざ話すとなると、結構どう言葉にしていいか悩みますね。難しい事を言おうとしている訳じゃないんですけど」
どこか遠慮気味に言葉にする。それだけ込んだ話という事なのだろう。
「ゆっくりでいいと思いますよ。気持ちが落ち着くまで」
真っ先にフォローを入れたのは涼音だ。用意していたであろう紅茶を人数分テーブルに置くと椅子に腰をかける。
「いやー、私としたことがらしくない」
紅茶を一口。そして話をし始める。
「お父さんの転勤で、東京の方へ行くことになったんですけど、実は引越しがせまってて、友達にはなんか、言い出せずにズルズルとここまで……」
淡淡とそう語リ始める。
「できれば、この町に残りたいなー。だなんて事も考えたんですけど、うちの家、仕送りしてもらえるほど裕福じゃないし、この際私の感情は無視してでも、友人の前から急に居なくなる事だけはって……でも、考えれば考えるほど、決心がつかなくて。いや、選べるような立場でもないんですけどね」
園村さんの言うとおり、選べなくて、変えれない事もある。
言い訳のように並べたもどかしい言葉たち。だからこそ、何か抜け落ちえている様にも聞こえてしまう。
「まだ、重要な事が言えていないんじゃない?」
言葉をはさんだのはハルさんだ。
園村さんとハルさんは顔を見合わせるとハルさんは頷きこう続ける。
「彼女は演奏家なんだよ。それも、プロが認めるほどの天才」
「なら、余計に東京の方に出れば勉強が出来るんじゃ?」
驚いたように言葉にした彩音のいう事ももっともで、園村さんの顔を見ると苦笑いを浮かべている。
「音楽はめちゃくちゃ好きなんだよ? でも、音楽は自由にやるべきかなって。それで、聞いてくれるお客さんが沸き立てばそれでいいって思ってるんですよ」
「ハルさんの言う通り、プロも認めるなら、声だって掛かってるのでは?」
涼音の想像通りだとするなら、折角の道を蹴っている事にもなる。
「正直に言うと、ありました。音楽の専門校っていう本来なら物凄くお金の掛かる所を特別待遇でっていう話もあったんです。見学だけでも、って見に行った事もあったんだけですけど、やっぱりどれも何か、違うのかな。誰もが、才能があって夢に向かって頑張ってる。でも、聞こえてくるのは楽譜通りの軍隊さんの進行曲みたいな」
何を言ってるのか分からないですよね。と誤魔化すように笑って見せる園村さん。
どう答えて良いものかと思考しているとハルさんはこう言う。
「彼女の感性はきっと理解できる人とそうじゃ無い人に割かれる。私達にも趣味趣向がるのと同じだと思うよ。うーん。一度、彼女の曲を聞いてみればいいかな。きっと分かる」
カウンターに置いてあるノートパソコンをここのテーブルに持ってくると、某動画サイトを開き、コンクールの演奏動画を再生し始め、順に再生して行き、園村さんの演奏になる。
「これが、園村さんの演奏……」
言葉を漏らす彩音。聞いてきた中に素人目ですらこの人の演奏は一味違うと思わせる人が居た。けれど、園村さんの演奏は更にその上を行っている。
ただ違う所を言えば。曲にアレンジが加わっているくらいなものだろう。
「コンクールでこれをやると実は失格なんだよね。ほら、私の信念は自由にやる。だし」
とはいうものの客観的に見て、この道の天才が目の前に居る。
誰もが欲しいとする力、才能。
十分に才能がある人達をいとも簡単に飛び越えていける存在。
そんな人、始めて見た……
「そんな私がさ、ノリも波長も合わない上に楽譜通りに弾けるように頑張るため、一日八時間とか何の冗談とかね。ピアノを弾くのは好き、でも、私は完璧な楽譜を目指すための八時間は苦行になっちゃう。そんな人が、頑張っている人達の傍をうろうろするのは、間違ってるかなって」
安請け合い、とは思っていないけど、この案件は俺達には重いのではないか? なんて思い始める。選択肢なんて簡単ものじゃない。
恐らく、この天才の今後にだって下手をすればかかわってしまう
「いやー、こうして言ってみると何様だよって話だよね。本当に我侭の塊だ。まいったね。今思い返してみても、私は凄いって遠回りに言ってるようなものだ」
ははは、なんてごまかしを入れる園村さん。
今の俺たちに出来ることなんて、後悔の無いようにどちらかを選ばしてあげるだけ。
いや、これすらも、何処か無責任に感じる。その上で、今の俺達が出来る事、か……
「こんなに上手くて、才能があるなら最初からそうだ。って言ってくれればよかったのに」
「普通に考えてそんな事いいませんよ、お姉ちゃん。私は実力も才能もあって、声までかけられたけど、一我侭でどうしようか考え中なんです。だなんて、余程の人じゃないと」
「いわれてみればぁー」
お恥ずかしい、と頬をかいてみせる彩音。
「えっと、考えも上手い方向へ持っていけないんで、現状俺達が出来る事は、園村さんを後悔しない形で、留まるにせよ、引っ越すにせよ、全力で手を貸す事ですね」
「具体的な案とかどうなのよ?」
「正直に言ってないかな。今やれる事は残りの時間を全力で走る事」
不安の方が多いのが事実。
どれだけ、思考をめぐらしても、正解へ導いてあげれるのか。という場所にたどり着いてしまう。
「えっと、引越しまでの時間はどれくらいなんですか?」
「2週間後。文化際が終わったらです」
その言葉にあれ? という表情を見せる涼音。
「もしかすると叶学ですか?」
「そうですけど」
「私達、同じ学校です。まさかこんな凄い人が居ただなんて」
この辺の高校なんて3つしかない。学校が一緒という可能性は十分にあった。
「で、凪は何処よ?」
彩音は視線を俺に移す。
「俺はアルフォート。今は休学中かな」
退学になってるかも、いや、多分なってるな。あの親父がそんな優しいマネするわけが無い。
「え? アルフォートってこの辺じゃ有名な進学校じゃない」
「とはいっても、俺はまぁ真ん中くらいだったけどね。とまぁ、俺のことは置いておいて、文化際の準備やらなんてもう始まってるんじゃないの? 2週間前だよ?」
「どころか、もう必至にやらないと間に合わない所もあるはず」
他人事のように答える彩音。悠長な事を言っていられるのは、自分達は終わっているからだろう。
「話はまた後日だなんて悠長な事は言っていられないから、凪は明日から叶学に来る事」
「俺は他校だから入れないし」
「授業はともかく、部活動が始まる時間なら、わざわざ顔なんて気にしてる教師は居ないんじゃないかな?」
香奈さんはそう言うけど、見つかったら俺もただじゃすまない。
「つまりだ。授業が終わるのを見計らって入れと? それでもなぁ、服だって無いぞ?」
「話を振ったのは私だし、服、位は借りてみる」
さいですか……
◆
後日、そのあほな計画は実行されて、俺は一室に居る。
「まずだ。ばれたらヤバイでしょ。普通に」
アレセイアさんに相談した所、本来は学生なんだし、少し羽目外すといい。だそうで。認識阻害魔法があれば鬼に金棒だと思ったのに……
「でも、もう居るしね?」
諦めろコールを入れる彩音。
「気づいてない人もいると思いますけど、助っ人で以外にOBも混ざってたりします」
涼音までも追い討ちをかける。
「何処までフリーダムなんだよ」
額に手を当てて空を仰ぐ俺。いつまでも漫才はしていられないので、気を改めなおす。
「でだ、皆は文化際でなにをするんだ?」
「他の高校と変わらないと思うよ。私のところは無難にクレープだし。涼音は何を出すんだっけ?」
材料をそろえて、後は生地さえ焼ければなるようになる。余裕な訳だ。
「私のところは更に無難なやきそばです。部活にでも入ってないかぎり凝った事はしませんよ」
言われてみればそうかもな。進学校とはいえ、俺の所もそう変わらないし。
言い終えた涼音はこう続ける。
「香奈さんはクラス以外でなにかしないんですか?」
「私は一応ピアノ演奏の枠を貰っているんですけど、それはあくまでも、専門校の人達が取った枠なので」
文化際の場合ステージは取り合いのはずなのに、一人のために枠が取れるって事自体異例だ。
「何を弾くんだ?」
「一応、課題としてショパンとかのクラシック。2曲は指定されてますけど、残り2曲は自由に選曲していいって聞いてます」
「自由ね……」
彩音そうぼやいて、暫くすると何かを思いついた様でこう続ける。
「その自由な曲って、クラシックに囚われなくてもいいのかな?」
「そういうのは聞いていないんで、ありなんじゃないかと」
香奈さんの言葉に、にぃっと笑ってみせる彩音。
「なら、私達だけで音楽を作るわよ。それも、私達だけのオリジナル」
「作詞、作曲って訳ですか……」
無茶振りしすぎだろ。
いくらなんでも、と考えていた所に思わぬ言葉が聞こえる。
「やって、みたいかもしれません。私達のオリジナル曲」
「確かに、全力で走って後悔が無いようにするって話はしたけど、大丈夫?」
「以前からしてみたいと思ってたんです。だから、いい機会かなって。実はぼんやりと形になっているモノもあって」
何が最善なのか。それはきっと誰にも分からない。
『大人の答えは時にあっているかのように聞こえてしまう。見てきたモノの差。勿論、間違っているとも言える事だってあるだろう。だが、凪くん達ならどうだろうか? 大人の出す答えをどう受け止める? 私が出せるヒントはここまでだ。それ以上はきっと、大人の答えになってしまうからね』
ふとアレセイアさんの会話を思い出す。
なら、トコトン――
「抗ってみますか」
読んでいただきありがとうございます。




