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逃げた先の世界04

 

 あれから、彩音だけが来る事がしばらく続き、俺も何度か顔を出しに行った。

 二人の親からは悪い虫が飛び回っているようにしか見えていないだろう。

 そして今日、説得末、ではなく、黙って此方にやってきている。

「魔女様。今日は妹も連れてきました。ほら、挨拶」

 彩音もこのときだけはお姉さんぶっている。 

「こ、こんにちわ」 

 おずおずと頭を下げる妹さん。部屋に居るときは気にしていなかったけど、冬だからとか、そういうのを関係なしに彼女の肌は白すぎる。

 まるで、日に当たることを滅多にしない肌。初対面で、ベットに横たわっていたという事も含め尚の事、そう見えてしまう。

「魔女様も、凪も凄くいい人だよ」 

「また、可愛らしい娘だね。彩音」

「ですねよね。私の妹なのが不思議なくらい」

「うん。不思議なくらい、お淑やかだよね」

 言葉に同意すると彩音は頬を膨らませる。

「それじゃあ、私はどう見えるのよ?」

「そりゃあ、唯我独尊のお姫様」

 にぃひひ。と笑って返す。勿論唯我独尊だなんて思っちゃいない。これも今ではおなじみなりつつある、俺達の会話。

「ひど!?」

「分かった。言葉を変えよう。天真爛漫」

 むぅ、っと納得のいかないご様子の彩音。けれど、こっちは間違っていないと思っている。

「この、繊細な私が!?」

「セン、サイ?」

「そこは同意しとくべきところでしょう」

 ガクガクと揺さぶられる。

「こら、お姉ちゃん」

 涼音にしたためられると、しゅんとし始める彩音。怒られた犬みたいだと思ったけど、口は災いのもとってね。

「凪」

「なにさ?」

「今失礼な事考えてなかった?」

 変な所で勘がいいんだよな、彩音は。

「邪推が過ぎると、折角の綺麗な心が汚れるぞ?」

「ごまかぁーすなぁ!」

 とかいながら背中を叩いているけど、さして力は入ってない。

「本当に、楽しそうです。お姉ちゃん」

 緊張していた、涼音さんの頬が綻ぶ。うん。ここに来たお客さんはこうでなくちゃな。

「さぁ、外は寒いだろ。中へお入り。今日はタルトケーキを焼いてあるよ」

 その言葉に女の子二人は目を輝かせる。アレセイアさんの作るものは全て美味しいと言って過言じゃないしな。

「わぁ、私、お姉ちゃんに聞いてから、ずっと食べてみたいって思ってたんです」

「そうなのかい。それは光栄だね」


 

 タルトケーキをパクついている。

 アレセイアさんの料理技術は並じゃない。シェフとしても生きていけそうな感じもするが、女性が料理人になるのは難しい。月に一度はくるアレのせいで、ホルモンバランスが崩れると味覚も一緒に崩れるらしい。そのおかげで、女性が料理人になるのは至難の業だと聞いたことがある。

「物凄く、美味しいです。これならケーキ屋いらずです」

 と涼音。

「ね? 言ったとおりでしょ?」

「でも、お姉ちゃん。貰ってばかりでお返しとか、しっかりしてるの?」

 苦虫を噛み潰した顔をし始める彩音。どう誤魔化そうか目を泳がせながら思考してるのが分かる。

 これじゃ、どう見てもご好意に甘えてるだけですと言っている様なものだ。

 彩音らしいといえば、そうなのだけれど。   

「そうだと思ったんです。お姉ちゃんの事だから。ですので、今日のお昼は私に任せても

らえますか?」

 彩音の返事を待たずして、答えを得た涼音が額に手をあてる。

「え、涼音もやるなら私だって手伝うよ?」

「いや、魔女のおもてなしだよ。二人が気を使うことは無い」

「これからも、お世話になると思うので、これくらいの事はさせてください」

 だから、手伝うって。と彩音が講義を続けている。

「お姉ちゃんは味見役で」

「味見役って、事実上手伝うなって事だよね」

 お姉ちゃんの面目丸つぶれだな。

「こーらー。言わなくてもいい言葉がダダ漏れだぞぉ」

 頬を摘まれる。一番大切なところは伏せたのに。

「痛くは無いけど、それそろはらして……」

「えー、どうしよっかなーこのほっぺ凄く伸びて面白いんだよね」

 ホレホレ。といいながら俺の頬で遊び始める彩音。

「お・姉・ちゃん」

 妹にはめっぽう弱いらしい。



 俺と涼音は昼ごはんの準備、彩音の料理の腕は……

 おっさしなので、アレセイアさんと一緒にいてもらっている。

「凪さん。この野菜刻んでもらえますか?」

「あいよ」

 暫くの沈黙。包丁がまな板に当たる音だけがこの場を支配し始めた時、涼音がゆっくりと話しはじめる。

「凪さんは、その年で家を離れているんですか?」

「いや、そんな大層な事はやれてない。一人で生活できているだなんて俺自身思ってないんだ」

 お互いの顔を見合わせない会話。きっと顔が見えないから、表情が伺えないから、こんな会話が出来る。

「人である以上一人で、というのは難しいような気がします」

「大きく見ちゃうとね。涼音が期待するような人じゃないのだけは確実かな」

 そんなつもりは無かったのだけど、普通こんな事言われたら返事に困るよな……

 涼音が呼吸をするのが聞こえる。会話をしている時相手が息を吸う時は大抵何かを話そうとしている時だ。

「凪さんさえ良ければ、なんですけど、聞いても?」

「家出かな」

 手を動かしながら、言葉にする。お互い顔を見ないのはやっぱり都合がいいから。

「家出、ですか。失礼なんですけど、安心したかもしれません」

「どのへんに?」

「少し大人びて見えた人がいきなり等身大になったから、でしょうか」

「そんなに、大人びて見えたかな?」

 自分の行動が他人にはそう見えているのが不思議でもある。

「ええ、概要だけをお姉ちゃんに聞いていた限りでは。何かを手探りで探している。そんな話でした」

 彩音からはそう、見えていたのか……

「その上で、自分の目で見て、会話をして、同い年だったなんて、少し驚いたんですよ? 凄いなって。でも、やっぱり等身大で、安心したんです」

「そんな大人びて見えた俺から助言であります。涼音殿」

 ここまで一度もお互いの顔は見合わせていない。多分料理を作り終えるまで。

 返事は無い。俺の言葉を待っているのだろう。

「余程、壮絶な生き方でもしない限り、年の差は覆らないと思う。同じくらいしか、生きていないんだ。見てるものに差があるなんて思えない。抗いて、迷惑をかけれるのも今のうちってね」

「了解であります。隊長殿」

 だなんて、おどけた笑いが聞こえる。


  

 昼食を終えると、一羽の鳥がへに入ってくる。鳥は俺達のいるテーブルの上に止まると光になり、そして、手紙に変わる。

 俺が初めて見たときは既に手紙の形をしていたけれど、本来こういう様に届くものなのだろう。

「手紙だね。二人とも、空けてごらん」

 二人とも最初の俺同様のリアクションを取ってみせる。

 だが、文字が浮かぶのではなく、女性の音声だけが再生され始める。

『やあ、アキ。折り入って相談があるんだけど、近いうちに合えるかな? そうそう、助手くんと最近話しに出ている双子ちゃんも連れてきてくれると嬉しいな。んじゃ、詳しい話はカフェでー』

 ばぁーい、なんて気の抜けた言葉でこの手紙は終わった。

 そして横では、目を丸くしている二人の姿。

「うーん。会うならば、早い方が良いだろう。すまないが、先に行ってもらえるかい? 私も後から顔を見せる」

 口をあけて、呆然としていた彩音も復活した様で、一度口を閉めアレセイアさんに同意を求める。

「私達も一緒に、でもいいんですよね?」

「ああ、勿論。凪の手助けをよろしく頼むよ」

「アレセイアさんも呼ばれている感じでしたけど、なんの用なんですか?」

「今も昔もそういう所に情報が集まる。そういうものだからね。ちょっとした情報交換さ」


 

「開拓の波に取り残された町にある隠れた喫茶店って感じね。私もこんな所知らなかった」

「知っていれば間違いなく入ってそうだもんね」

 喫茶店の前に着くと姉妹二人はそんな言葉を交わす。

 二人の言うとおり、洒落ているお店だ。少し外見が古臭いだなんて言葉を使ってしまえばそれまでだけれど、趣があって好みだ。

「アキのお遣いだね? 助かるよー」

 扉を開けると陽気な声が届く。

 普通の私服に緑のエプロンにはこの喫茶店のネームが入っている。

「どうも」

 軽く会釈を済ませる。

「自己紹介は後。まずは制服に着替えてもらおうかな。女の子にはとびきり可愛い制服を用意したから是非、お願い。男の子はボーイ服だけど、キミなら絶対に着こなせる」



 一足早く着替え終えてしまった俺は、二人を待っている傍ら、出発前に会話したのを思い出す。

『今日のお仕事は、喫茶店のお手伝い以外に悩み事の相談者に手を差し伸べる事』

『助けろ。って事ですか?』

『その辺全て、課題だ。彩音に涼音の力を借りるのでもいい』  

『手を差し伸べる。ですか……』

 話の意図をつかめないままアレセイアさんは続ける。

『難しい課題だ。凪君の判断でいい。終わった後に答えを聞かせて欲しい』

『答え、ですか』

『期限は、そうだね。案件が終えるまでが期限としようか』

 現状では手を貸すイコール、助けるの答えしか見つからない。間違っているとは思えないし、手を貸すのはあきらかで。

 今回も彩音の時同様、未来が多少なり分かっている様な言い方だった。

 占星術。その未来は決められたものではなく、変える事も出来る。

 だったけか。  

読んでいただき、ありがとうございます

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