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第一章―抹消×新生3

×××


 家庭的な料理――ハンバーグを作る準備をする為に豚のミンチを卵黄や調味料と混ぜ合わせこねる。

 クチャ、クチャ。と、豚の鮮血で紅く染まるミンチと卵黄等の材料がそんな粘着音を奏でながら執拗に混ぜられる。


 その手際はどこと無く、鮮度の良い人間の臓器を撹拌させている悍ましい光景に似ており、

 ベチャ、ベチャ、グチャ――と言う音を奏でる作業は、人間がミキサーで千切りにされ撹拌される様を連想せざるを得ない奇怪音を発生させる光景であり、美味しいハンバーグが出来るまでの一つの過程であった。


 この音をごく最近聞いた少年が、その過程をダイニングキッチンで陽気な鼻歌まじりで行う母親の後ろ姿を着慣れた制服姿で傍観している。


「ママーわたしも手伝う~」

「あらあら良いの? お手々汚れちゃうわよ?」

「いいの~コネコネする~」


 そこに同じ中等部に入学したばかりの甘えっ子の妹が、大好きな母親が作るハンバーグを早く食べたい為に、肉を混ぜ合わせる感触を楽しみたい為に加わる。


「結希、沢山食べていいからね? 明日も試合頑張るのよ?」

「応援にいく~」


 そんな親子が童謡の鼻歌を仲良く囀りながら、良い意味でも悪い意味でも耳に留まる粘着音を奏でつつ振り返るとハニカム。


「うん、僕の数少ない人としての存在意義だからね。絶対にホームラン打つよ!」


 低迷気味のスポーツ界を救うニューヒーローになり得る素質を結希は持つ。それを周囲の人間達が口々に言葉で称賛するのだ。


 だから、自分を温かく見守り育ててくれた家族の為に、自分を応援してくれる菜月や周囲の大人達の期待に応えるために、結希は生まれながらに持った才能を全力で発揮させ生きてきた。


 故に、十五年間で築き上げた功績を誇りに思い、これからも活躍する決意を心身に刻むのだ。


 グチャ。


 だが、


「あっ落っことしちゃった」


 人間の臓器で構築された様に錯覚する肉の塊が、硬いタイル張りの床に落ちる音がしたと思うと、結希の意識は不意に途切れてしまった。


 その闇となった視界には、グチャグチャになった肉の塊だけが不快音を脳裏に響かせいびつに潰れ呆気なく消えていった――。



×××



「うっ……ここは……?」


 そんな夢なのか現実なのか分からない映像を見た結希は、閉じた瞼が直射日光を浴び血管が透け紅く視界を染めると、消毒液臭い真っ白な部屋の中でベッドに寝かされた状態で目を覚ました。


 この病院の一室らしく部屋でさえも夢が現実か判断出来ぬ程に、結希の脳には不透明な膜が纏わり付き動きが鈍い。手首、肘裏に繋がった点滴のチューブすら即座になんなのか分からない始末である。


 そんな状態で身体を起き上がらせ清潔感しか感じない純白の衣服を着せられている結希は辺りを見渡す。壁際で心電図と酸素吸入器が役目を終えたのか置かれているのが見えるが、この個室にそんな物騒な医療器械を利用する者がいるのか疑問に思う。


「市内の病院か? でも、なんで? どこもケガしてないよな?」


 ベッド上部の手摺りに神寺結希と記入されたプレートが固定されているのに気が付き身体を触る。気分を除けばいつもと何ら変わらない目覚めであった。


 しかし、患者着を着せられベッドに寝かされた理由を考えれば、結希も自分に異常があるんだと考え不安になりナースコールを押して状況整理を試みる事にした。


 ――そうだ、今は何時で何日なんだ?


 手始めに棚に備え付けられたテレビの電源を枕元に置いてあったリモコンで点ける。


「連日から発生する不審事故が昨日の夕方、また市内で発生しました。被害者は市内に住む中学生の男子生徒で、全身の骨を粉砕骨折し、頭蓋骨陥没などの重傷を負い、今も意識不明とのことです。

 なお、現場検証をした警察によりますと、今回も事故原因は自動車ではありますが、その車体ではとてもではないが人を轢いて、ましてや狭い路地を暴走する機動力はなかったとのことです。そもそも、事故車の所有者に事情聴取をしたところ、維持費とエンジンキーを無くした事で何十年も路地に放置していたので動かす理由も動く理由も無いと関与を否定しています。

 今後は被害にあった少年の早期回復を祈り、回復次第事情を聴くとのことです――」


 画面左上に表示された時計で時間は確認でき、日付はキャスターが手に持つ連続不審事故多発と書かれボードで判断出来る。


 厳かなスーツ姿で男性アナウンサーが不審事故を時系列順に並べたクリップを具体的に解説していくのを、結希は朦朧としている意識のまま食い入るように視聴する。


「……ぅ……」


 だが、結希がその映像を食い入る様に見つめ、殺伐とした事故現場を上空からカメラで写す映像が流れると頭を抱えた。


 現在時刻は正午零時、大勢の人々が休憩を理由に視聴する情報番組で、わざわざ特集が組まれるほど世間を騒然とさせる不審事件、怪奇事故が大々的に報道されている。


 その事件がどうしても他人事に思えない結希は、粘着質の膜が纏わりつく脳へ職務命令を伝達するが、どうしても脳は職務を放棄する姿勢を崩さないでいるのだ。


 なので、結希は何故自分が病院にいるのかも昨日の事を思い出そうとも考えられず、たた目覚めてから耳に纏わりつく不快な粘着音だけを聞いていた。


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